〈前回:賢い人ほど、法を犯さず大金を手にする〉本人も寝耳に水!? パラダイス文書に鳥山明や鳩山元首相の名前も
トオル...パラダイス文書が流出したことで、そこに名前が載っていた著名人も報道されましたよね。確か、漫画家の鳥山明さんも突撃取材を受けていました。
シズカ...でも、前回教えていただいたように、実際に節税のためのスキームを考えてお金を動かしているのは、コンサルや銀行の人たちなんですよね。鳥山さんの場合も、具体的な運用についてはタッチしていなかったってこと?
橘...このケースは、絶税目的で海外の中古不動産に投資する米国の事業体に出資したところ、この事業体がバミューダに登記していたことで名前が出てしまったようですね。航空機や船舶などがよく使われますが、リース用の商品を購入して減価償却費を計上するという、それ自体はよくある節税スキームです。
置いてきぼりをくらったトオルくん。田中ヒカルさんのシュール4コマも必読!シズカ...なるほど。それで会社の利益が少なくなれば、出資者たちも赤字になるわけだから節税に繋がるってわけね。本人は「税務面はおまかせにしていますのでお話しできることはありません」と回答したらしいけど。
橘...本人にはタックスヘイブンを使っていたという意識はないし、合法的な節税だと聞かされていたでしょうから、実名報道すべきかも疑問なケースだと思います。
トオル...税理士あたりに丸投してたら、本当に寝耳に水だったかもね。あと、パラダイス文書には鳩山由紀夫元首相の名前も載っていたそうですね。
橘...香港の上場企業の名誉会長に就任したら、その会社がたまたまバミューダに登記していて名前が出たというケースですね。これなどは本人もまったく意味が分かってないだろうし、いい迷惑ですよね。
トオル...でも、「国民の負担を減らします」みたいなことを言っている政治家が、タックスヘイブンを使っていたらなんだか示しがつかないような…。
橘...パラダイス文書の前に流出した「パナマ文書」の騒動では、名前が載っていたアイスランドのグンロイグソン首相が辞任しています。今回は現役の政治家の名前がほとんど出ませんが、タックスヘイブンを使った節税が割が合わないとわかったからではないでしょうか。
国民感情と法律は別物? タックスヘイブンのほとんどは合法シズカ...でも、鳥山さんしかり鳩山さんしかり、別に犯罪を犯したわけでもないのにかなりネガティブな方向で報道されていますよね。
トオル...そりゃあ、いくら違法ではないとはいえ僕らはなけなしの稼ぎを日本に納めているっていうのに、富裕層はタックスヘイブンで税逃れって納得できないよ!
橘...たしかに不公平だと感じる人はいるでしょう。過去の例だと、武富士(2010年に倒産)の元会長とその息子による租税回避が有名ですね。
シズカ...武富士って消費者金融サービスの会社でしたよね。それで稼いだお金をタックスヘイブンで節税されたら、確かに複雑な気分になるかも。
橘...彼らの場合は贈与税を節税するために、息子を香港に住まわせて日本の非居住者にしました。それで一度は税務署から追徴課税を言い渡されたのですが、長男が裁判を起こして、結果最高裁では課税が取り消されています。その時、裁判官は「法律的に合法である以上、国民感情的に許せないから税金をとるということは法治国家としてはできない」といった旨の言葉を残しています。
トオル...国民感情と法律は別物なんですね。
橘...武富士の場合は創業家が自分たちの資産をタックスヘイブンで節税していたわけですが、今はAppleやGoogleなどのグローバル企業がタックスヘイブンを使って税逃れをしていると名指しで非難されています。
シズカ...確か、今回のパラダイス文書でもAppleの租税回避が明らかになっています。
橘...はい。ただ、彼らは「すべて合法なのだから非難される筋合いはない」というスタンス。それはそれでひとつの正論ではあるわけです。
トオル...でも、日本でも多くの消費者がアップルの製品を買っているのに、その利益が日本に還元されないのは適切じゃない気が……。
橘...株式会社の経営者の仕事は、できるだけ多くの利益を株主に分配することですから、納税額を最少にするのは彼らの義務ともいえます。それに、私たちだって株やファンドを買って株主になることがある。そうなると配当が多いほうがいいわけで、同じ国民でも利害が分かれてしまいます。
トオル...そうは言っても、僕は今後も株主なんてなる予定はないし、やっぱり不平等だよ! ここは積極的に法律を変えていくべきじゃないかな。
橘...タックスヘイブンに対しては、90年代までは日本の税法は穴だらけでしたが、いまではかなり整備されて、日本国内でできることはほとんどやっているのではないでしょうか。ただ、国家間の税制のズレについては相手がいることですから、一国ではどうしようもありません。
シズカ...結局、タックスヘイブンはうまくスキームを考えれば違法にもならないし、株式会社の理屈からすれば道義的にも完全悪とは言い切れない、というわけね。
トオル...ぐぬぬ……これが資本主義における弱肉強食の世界。よし、かくなる上は僕もタックスヘイブンの仕組みをもっと理解して得をする側になるぞ!
橘...そうですか。ちなみに、スイスあたりのプライベートバンクでまともなお客さんとして扱ってもらうなら、10億円ぐらいは必要です。
トオル...……。まあ、しばらくは昇給めざして会社でコツコツ頑張ります。