現在放送中の『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)で「子どもが欲しくない」女性・杉崎ちひろを好演する女優・高橋メアリージュン。これまでもドラマ『コウノドリ』等で存在感を発揮してきたが、もっともインパクトを与えたのが『闇金ウシジマくん』シリーズだろう。
闇金の女社長「犀原茜」の演技は多方面で称賛を浴びた。実は彼女自身に「同じような過去」があったのだ――。辛い経験があるたびに母は言った。「いつかストーリーになる」。
1月末に刊行され大きな話題を呼んでいる初の著書『Difficult?Yes. Impossible? ...No. わたしの「不幸」がひとつ欠けたとして』より紹介する。■躊躇った闇金『犀原茜』役
闇金に追われた過去。女優・高橋メアリージュンが乗り越えたかっ...の画像はこちら >>
 

 2014年、映画『闇金ウシジマくん Part2』で、闇金の女社長・犀原茜を演じました。すごくエキセントリックで、怖い女性だったのですが、わたしにとって忘れられない役です。特に、この役でわたしの名前を憶えてくださった方も結構いたようで、ありがたい限りです。

 でも、実はこのお話が来たときにわたしは、複雑な思いでした。

(闇金の役……なのか)

 役をもらえたうれしさと同時に込み上げてくる躊躇い―そして恐怖。それはわたし自身が実際に闇金で怖い思いをした経験が理由です。

 父の経営していた会社が倒産した後のことです。

 自宅に頻繁に電話がかかってくるようになりました。決まって午後でした。

 でも両親は電話に出ようとはしません。

「お父さん、電話出えへんの?」

「……放っとき」

 いつも、ダジャレばかり言っている父が、神妙な顔をしていました。

 

 狭い自宅に電話のベルが響き渡ったまま、夜はふけていきました。

 電話の音がうるさかったわけでもないのに、家の中にあきらかに緊迫した雰囲気が流れました。

 後日、誰もいない家に学校から帰宅すると、また電話が鳴りました。

(出たほうがいいんやろか?)

 迷っているうちに留守番電話に切り替わります。そしてスピーカーから聞こえてきたのは、

「オラ! 高橋! おるんやろ? 電話出ろや!!」

 という男性の罵声。

 闇金からの催促でした。よくテレビで見ていたシーンから連想して、中学生のわたしにも「両親が借金の取り立てに追い回されている」という事実が理解できてしまった。
 恐怖のあまり、ぼうぜんと立ち尽くしていました。

あまりに現実感がなかった。

(どうしよう、この人たちが押しかけてきたら……。いや、お父さんやお母さん、きょうだいたちに何かあったら……)
注目の女優・高橋メアリージュンの話題作。綴った「難しいけれど不可能じゃないこと」

■トラウマに打ち勝ちたい。のぞんだ渾身の演技

 幸いなのかどうか分かりませんが、家で取り立ての人を見たことはありません。
 ただ、単純に危害を加えられるんじゃないか、という恐怖があったことは克明に覚えています。
 それからもわたしが帰宅する時間を狙ったかのように取り立ての電話がかかってきました。

(どうか、どうか、家族に何もありませんように)

 電話のスピーカーで聞いてしまった闇金からの怒号は完全にトラウマになっていました。電話に出ることができません。

 そうこうしているうちに、留守番電話機能がオフになり、電話が鳴っていても誰からのものか分からなくなりました。ただ、電話が鳴っても誰も出ようとしない、そんな日々を送っていました。弟や妹たちは闇金からの電話を知らないそうです。

怖すぎる体験を知らなくて良かった。

 それから14年後。女優になったわたしに巡ってきた闇金の役。この役をやることで、あのときのトラウマに打ち勝ちたい―。その思いで演じていました。

 それにしても、母の言う「この(貧乏な)経験はいつか自分のストーリーになる」というポジティブな発想は、本当に現実になったのでした。
(著書『Difficult?Yes. Impossible?...No. わたしの不幸がひとつ欠けたとして』より再構成)

編集部おすすめ