トオル…なんか最近、「日本が格差社会だ」っていう風潮ない?
シズカ…確かに。でも、具体的に何が問題なのかがピンときてないの。
トオル…そういえば、『新・日本の階級社会』っていう新書がベストセラーになっているんだって。著者で社会学者の橋本健二先生なら分かりやすく答えてくれるかもしれないよ。
シズカ…あっ、この本ね。「もはや“格差”ではなく、“階級”」だって。橋本先生、「階級社会」について教えてください!
橋本…「階級」というのは、仕事や生活のあり方がそれぞれ違う、人々の集まりのことです。階級はどんな社会にも存在するのですが、今の日本では、その階級と階級との違いが非常に目立つようになってきています。だから「階級社会」と言うことができます。高度経済成長期の終盤からバブルあたりまでは、それほど違いがありませんでした。
トオル…日本は昔「一億総中流社会」だった、って聞いたことがあります!
橋本…そこから変化が起こったのです。まずピラミッドの頂点の方で言えば、お金持ちがますますお金持ちになっている現状があります。
シズカ…富めるものは富む一方で、貧しい人も…。
橋本…重要なのは、結婚して子供を産み、家族を育て、一通りの耐久消費財を備えてそれなりに豊かな生活を送る――。こうした「共通の生活様式」が成り立たなくなっていることです。事実、経済的な理由で結婚できない人や子供を産んで育てることができない人が人口の2~3割もいます。
シズカ…当たり前のことが当たり前にできないって悲しいですね。どうしてこんな社会になってしまったんでしょう。。
■経済界の意向に振り回される労働者たち橋本…要因は複合的です。
トオル…働き方や働く環境が変わったということですね。ちなみに“一般的”ってどういう意味ですか?
橋本…昔、非正規労働者は個人の日雇いや住み込みの家政婦さんなど一部にはいましたが、数としては少ない存在でした。それが高度経済成長期以降「パート主婦」が現れ、以降は彼女たちが非正規労働者の代表になっていきました。彼女たちなぜ働くかと言えば、家計の足しにするため。決して家計の中心ではありません。働く期間も、子育て期や、子供が大学に行っている間、住宅ローンを返している間、など人生の一期間に限られていました。
シズカ…昔の非正規労働は、限られた人たちが、限られた期間にするものだったということね。
橋本…それがバブル期以降、働き手の範囲がどんどん広がり“一般的な”ものになっていった。そして、学校を卒業してから一度も正社員になることなく、非正規で働き続けるという人たちも現れるようになりました。
トオル…なるほど。なにかターニングポイントはあったんでしょうか?
橋本…経済界の方針転換です。
シズカ…派遣は政府が色々な職業で認められるように、規制緩和してきたんですよね。
トオル…パートに対する規制はどうだったんだろう。
橋本…それがパート・アルバイトに関してはそもそも規制が存在しなかったのです。つまり賃金や雇用を保障する取り決めが全くなかった。政府も放ったらかしにしていたんです。
シズカ…ひどい!もしかして「パート」=主婦だから、そんな保障をしなくてもうるさくないとでも思ったの!?
橋本…残念ながらそういうことです。「パート主婦」ですから、夫の収入がある。賃金が安くても構わない、たとえクビになったとしてもそれほど困らない。そうした価値観があったので、パート・アルバイトといった短時間労働者の権利というものはこれまで全く考えられてこなかったんです。
シズカ…あきれて物も言えない! 結局国って働いている人のことをちっとも考えてないんだね。
トオル…ホント。なんでそんな簡単に経済界の意向に従っちゃったんだろう。
【第2回〈「アンダークラス」の恐怖。救いはあるか。〉は4日(日)公開予定!】