特集「2040年のモノ」。ここでは「嗜好品」として欠かせないものであり、「現代人の3種の神器」としてなくてはならない存在になっている「コーヒー」の30年を振り返る。
前編『チューハイを選ぶ若者。「ビールにしとけよ」怒るオジサン』に続く後編〉【「2040年のモノ」目次】【現代人の「3種の神器」】 ■「セカンドウェーブ」スターバックスのインパクト

 この30年、日本のコーヒー界に現れたファーストインパクトがスターバックス コーヒーだ。今から約20年前の1996年、銀座に1号店をオープンさせるやたちまち評判を呼び、現在は1328店舗を構えるまでに成長した(2017年12月末)。

 スターバックスが日本にもたらしたものは、コーヒーにおける「アレンジ文化」だ。もちろん、これまで日本にもウィンナーコーヒーやカフェグラッセなどが存在したが、自分好みのコーヒーをカスタマイズできるアレンジの自由度はスターバックスが持ち込んだもの。ファンが作ったカスタマイズレシピがネット上にたくさん上がるほど、自由度が高いのだ。スタバをきっかけに発達したコーヒー文化は、UCCやキーコーヒーが主導していた大量消費を特徴とする従来のコーヒー文化に対し、セカンドウェーブと呼ばれた。

 ■「サードウェーブ」ブルーボトルコーヒーの登場

 2010年代には、コーヒー界にサードウェーブが訪れる。きっかけは、ブルーボトルコーヒーの日本出店だ。清澄白河の第一号店に長蛇の列ができた様子はメディアでも度々取り上げられ、記憶に新しいところだろう。

ブルーボトルの熱狂…現代人はなぜ行列してまでコーヒーを飲むか...の画像はこちら >>
「サードウェーブコーヒー」の火付け役となったブルーボトルコーヒー。2015年の上陸当初は、連日行列ができた
(写真:AP/アフロ )

 コーヒー豆の産地や生産工程、淹れ方におけるまで一貫した管理がなされ、一杯一杯のコーヒーを手間暇かけて作り上げるコーヒーはスペシャリティーコーヒーと呼ばれるが、このスペシャリティーコーヒーこそサードウェーブを特徴づける最大のもの。

ブルーボトルコーヒーの創業者が日本のカフェ文化に影響を受けたと述べているように、もともと日本には丁寧にドリップして一杯のコーヒーを作る喫茶店が古くから存在しており、コーヒーファンにはそれほど目新しいものではなかったが、大手チェーンがスペシャリティーコーヒーに進出したり、若者の間でドリップコーヒーが流行ったりと、新たなコーヒー嗜好者を開拓したことは確かだ。

■「嗜好品の30年」から見えてきた、個人主義の流れ

 また、プロが淹れるコーヒーが家庭で作れると謳い、無印良品が発売した「豆から挽けるコーヒーメーカー」が、大ヒットしたのもサードウェーブの流れと見ることができるだろう。

 タバコ、お酒、コーヒーと、現代を代表する嗜好品の30年を振り返ると見えてくるもの。それは、日本の個人主義の高まりだ。タバコにおいては喫煙可能な喫茶店や公共の場の喫煙所などのインフラが喪失することによって、他人に迷惑をかけず、自分ひとりで吸うデバイスへ変貌を遂げている。まずは一本どうぞ、とタバコを差し出すような昔ながらのコミュニケーションはなくなってきた。また、お酒やコーヒーも、場や風習に囚われずに、自分が好きな一杯を追い求める傾向にある。今後ますます強固な個人の時代がくるだろう。それに伴って嗜好品もさまざま形に変容していくに違いない。

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