もっと勉強しておけばよかった……。
サラリーマンになって10年も過ぎるとそんな感覚が押し寄せてくる。
でも、今からでも遅くはないはず。今回は人気お笑いコンビ「ロザン」のおふたりとプロ麻雀士の松嶋桃さんに「勉強法」について聞く。
「ロザン」は京大出身お笑い芸人・宇治原史規さんと大阪府立大出身の菅広文さんのコンビ。菅さんが書いた『身の丈にあった勉強法』(幻冬舎)はベストセラーとなっている。一方、松嶋桃さんも京大出身。その勉強法を記した『戦わない受験勉強』(ベストセラーズ)が話題を呼ぶ。
30-40代サラリーマンの「勉強」の悩みについて博学の三人はどう応えるのか!? 
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  ■「やらなければいけないもの」と「娯楽」の差は大きい

――今回は、30-40代をターゲットに「勉強」についてお聞きしたいと思います。勉強をしたいけれどそんなに時間も取れる気がしない。じゃあどうすればいいのか。まずお三方にとっての「勉強」とはどんなものでしょうか。

京都大学出身の勉強法。「1日11時間勉強」できますか?
 

菅 僕の場合、学生のときより今の方が「勉強は楽しいもの」という感覚があるんですね。それは、勉強を「やらなければいけないもの」というより「娯楽」と捉えられるようになっているからかもしれません。

たとえば最近、読書をする人が減っていると言われますけど、それって読書=勉強、つまり「やらなければならないもの」になっているという側面もあるんじゃないかなと思うんです。でも僕は読書を娯楽だと思っています。

松嶋 それはすごく分かります。勉強って受動的になってしまうと楽しくなくなってしまいますよね。子どもの頃からのイメージで「やらなければいけないもの」という感覚があると思うんですけど、それを楽しいと思えるようになると続けられる。大人になってもそうなればできるんだとは思うんですけど……。

――確かに娯楽と捉えられれば続きそうです。宇治原さんはいかがですか。

宇治原 本音を言っていいですか? 僕、分からないんですよその感覚。本当に勉強が楽しかったんで、最初から。

松嶋 すごい(笑)。昔から勉強ができる方ってそういう人が多いんです。

苦にならない、勉強にネガティブなイメージがない。でもなかなかいらっしゃらないですよね、そういう方は。

宇治原 『身の丈にあった勉強法』にも菅さんが書いてくれていますけど、そもそも僕は「勉強って遊びなんだ」と思って始めているんですね。母親が「これやって遊んどき」って言ったんですよ。だから一回も苦しいと思ったことがない。母親様様ですよね。だから確かにみんなが楽しいと思えればいいのかもしれないですね。

――もう少し楽しく見えるようになれば……。

菅 そうなんですよね。僕にとって勉強っていうのは「次こうしよう」というものなんですね。たとえば、今回の本で「身の丈にあった」というタイトルはプラスのイメージとしてつけたものでした。でも、周囲の反応を聞くと「身の丈」をマイナスに捉える人もいた。

松嶋 なんとなくわかります。全然マイナスの意味じゃないですよね。私の言う「戦わない」も同じかもしれません。

菅 そうそう。でも「そういう人(マイナスイメージに捉える人)もいるのか、じゃあ次はこうしよう」って思えるじゃないですか。それが僕の中での勉強。マイナスがないんですよ。

松嶋 菅さんは勉強に対してすごくポジティブですよね。

 ■1日11時間勉強をした宇治原さん、そのころ菅さんは……

――勉強をポジティブに捉えられるお三方は、受験時ってどのくらいの時間勉強をしていたんですか。宇治原さんの場合は11時間と本にありましたが……。

京都大学出身の勉強法。「1日11時間勉強」できますか?
 

松嶋 実はわたし、勉強を時間で考えたことがないんです。ただ高校1、2年生のころは本当に勉強をしていなくて「このままではやばい」という思いがあったので、3年生になってからは「脳のスイッチを切らさないようにしよう」ということをつねに意識していました。

ご飯を食べているとき……、たとえば焼肉を食べていたら、カルビが焼けるまで歴史年表を思い出したり。

宇治原 すごい。僕よりトータルの時間で言ったらずっと長いと思いますよ。

松嶋 強迫観念じゃないですけど、一回休んでしまうと、次に(勉強をしようと脳を)立ち上げるのがしんどくなっちゃうと思って、それはずっと続けていましたね。

菅 そういう発想って女性ならではかもしれないですね。女性ってやるって決めたときの欲望が強いですよね。

松嶋 強かったと思います。特にわたしは机に座ることが苦手だって分かっていたので、そのハードルをなくすために、机に座っていない時間で勉強をしようと思ったんですね。机に座ってないと勉強していないと思われますけど、実はその時間に勉強をしているんだ、と思いこませていました。

――それはビジネスマンでもできるかもしれません。通勤電車やちょっとした移動時間。

松嶋 そうですね。

宇治原さんは移動時間がきっとすごく長いですよね。

宇治原 僕が受験勉強をしたと言えば……計画を立てたってことくらいですかね。小学校のころから学校の授業を聞いて、宿題をするということを自然とやっていたおかげで、(受験までの)勉強といえば学校に行っていることだけでしたから。塾に行くこともなかったから本当に計画を立てたことが受験勉強ってことになるのかなと思いますね。

――あとは楽しんで……。

宇治原 あとは純粋に遊んでただけで。

――遊びがちょっと半端ではない(笑)。

宇治原 なにせ娯楽だったんでね。テストで点を取ったら嬉しい。それはゲームが好きな人がゲームをクリアした、サッカーをやっている人がゴール決めた、というものと一緒ですよ(笑)。

菅 おかしいでしょう、宇治原さん。だから宇治原さんのような勉強法は参考にならないんですよ。

――ははは。『身の丈にあった勉強法』でぐっと来た一文に「偏差値30アップの勉強法」はほとんどの人にとって意味がない、とありました。「感嘆するだけ」もしくは「賢くなった気になっている」だけだと。

菅 そうですよ。1日11時間勉強するなんて異常ですよ。(その方法で成功した人の言葉を耳にしたら)「そうなのか。じゃあ俺も明日からやろう」って思うかもしれないですけど、本当にできますか? 身の丈にあわないことをしても自分の身にならないと思うんです。

――逆に菅さんご自身の受験勉強はどうでしたか。

菅 僕は予備校の先生が言う通りにやりましたね。向こうは受験のプロじゃないですか。だからその方法を疑わなかったんです。これはあまりいい意見じゃないのかもしれないですけれど……僕、府大(大阪府立大学)一択だったんですけど、夏にA判定が取れたときに「これずっとA取れるな」と感じて、そのとき思ったことが「これ以上勉強してももったいないな」ということだった(笑)。

宇治原 菅さんのほうがおかしいでしょう?

菅 いやいやいや。これすごく僕っぽいんですけど、向上心がないというか……。昼まで寝ていましたね。

 ■松嶋桃流「人に頼る」重要性

――脳のスイッチを切らずに、と必死だった松嶋さんは、そういうお話を聞くとどう感じるんですか?

松嶋 すごい(笑)。でも、合理的でいいと思います。まず、予備校の先生の言うことに全く疑問を差し挟まずに従うって簡単にはできないですよ。でも、私もプロに聞くことは大事だと思っているので共感しますね。

――確かに『戦わない受験勉強法』には「大切にしていた5つのこと」として「人に頼る」を挙げて、「教え上手な先生は地面を掘ってでも見つけなさい」と書かれていました。

松嶋 はい。わたしは予備校の「京大コース」にいたんですけど、最初は講師の先生方の視線が「なんでこんなにできない子が京大コースに……」とでもいうようなものでした(笑)。でも危機感があったので、そんなことお構いなしに質問をしに行きまくっていたら先生方が異様にやさしくフレンドリーになっていったんです。この経験から、「できないけれどやる気のある人」に世の中って優しんだ、ということを知りました。だから頼ることはとても大事だな、と。
あと受験勉強という点でいえば、浪人までを視野に入れていたので、ダメだったときの絶望感みたいなものがなかったのが良かったのかな、と思います。受験で京大という目標に向かって自己分析をするのがすごく楽しくて。

――やはり楽しむことが続く要素なんですね。自己分析という視点は「計画を立てる」という宇治原さんの考えとも似ている気がします。

京都大学出身の勉強法。「1日11時間勉強」できますか?
 

宇治原 そうですね。菅さんの「予備校に行く」というのも計画を立てていることと一緒かな、とも思いますし。そういうこともしないで受かるのは難しいでしょうね。ただ、落ちてもそこまでの絶望感がないっていうのはいいですよね、やっぱり。

松嶋 追い込まれないんですよ、勉強中に。で、結構楽しかったかもしれない。

宇治原 例えばいまの仕事でもそれは当てはまっていて、「このクイズ番組で結果を出さなきゃいけない、出さなきゃ俺はおしまいだ」くらい自分を追い込んでいる若手って失敗するんですよ。「まあ、出れなくても大丈夫」と思っているくらいの方がいいんです。カズレーザーくらいのテンションね(笑)。実際にカズレーザーには聞いていないですけど(笑)。

――悲壮感が出過ぎると結果が出ない。

宇治原 受験にも似たところあると思います。メンタルも関わってくるので。僕もセンター試験は失敗をしているので、自分で思っている以上に追い込んでいるところがあったんだな、とは思いますね。

――センター試験で30点分の問題が分からなくなって失神、保健室に運ばれた(『身の丈にあった勉強法』)……。でもそれ以外は満点だったんですよね(笑)。

菅 失神しても僕より点数が上でしたからね(笑)。でも、こうやって話をしていて思うのは、そもそものテーマだった35-45歳の方たちにとっての勉強、ということで言うと僕が予備校に任せきりだった話と逆になるのかもしれないですね。学生の場合は出された問題を疑うことはない。でも社会人になったら疑わなければいけないわけです。

――なるほど。

菅 仕事に悩まれている方って上司に言われたことをやるというケースがありますよね。そのときに、そもそも上司の言っている方向性があっているのかの判断をしてもいいかもしれない。疑わずにやって結果が出ないから「なんだったんだこの時間!」ってなるのかな、と思ったんですけど。

――思い当たる節があります。

菅 僕はサラリーマンの経験をしたことがないんで、ちょっとおこがましいですけど……、これをやってほしい、と言われたときにいつも「はい」ばかりではなくて別の案を提示できるかどうかってすごく大事なんじゃないかな、と。「僕はこうやります」というふうにならないと対等に渡り合えないように思うんですね。もちろん「やりません」はダメですけど。

松嶋 その提案のために勉強をするんですね。なにもない人には言えないですもんね。

【4月3日配信 後編「京大芸人&京大雀士の勉強法。共通点は……」に続く】

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