■開催決定と成功は別物だ

 2025年の国際博覧会(万博)が、大阪で開催されることになりました。
 1970年に開かれた前回の大阪万博、2005年の愛知万博(愛・地球博)につづく、国内3回目の大規模な国際博覧会となります。

 5月3日~11月3日にかけて、大阪湾の人工島・「夢洲(ゆめしま)」で開催。
 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、健康・長寿の実現に資する万博をめざすとのこと。

 

 博覧会の国際事務局(BIE)があるパリで、誘致活動を展開していた大阪府の松井一郎知事は、帰国にあたって「政治は結果責任だ」と述べたと伝えられます。

 この発言、大阪開催を勝ち取った成果を強調したものと受け取られていますが、開催が決まればそれで良いわけではありません。

 松井知事自身、「準備に向けて気を引き締める」と語っているように、万博そのものが成功しなければ、結果を出したとは言えないのです。

 実際、会場となる夢洲は、1990年代はじめから開発事業が進められたものの、有効活用することができず、「負の遺産」と呼ばれていた場所。

 万博開催のためには、まだ造成工事が必要らしく、松井知事と一緒に渡仏していた吉村洋文・大阪市長は、「急ピッチで埋め立て造成を始めないと間に合わない」と語りました。

 すべてはこれからの感がありますが・・・
 そもそも、万博が成功するとはどういうことでしょうか?
 どんな条件をクリアーしたら、成功したと呼べるのでしょうか?

■万博の収支は二の次、三の次?

 1928年11月22日にパリで署名された「国際博覧会条約」(ただしその後、何度か改正されています)は、博覧会について次のように定義しました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hakurankai/jyouyaku.html

 博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段、または人類の活動の一もしくは二以上の部門において達成された進歩、もしくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。
(読みやすさを考慮し、表記を一部変更のうえ読点を追加)

 分かりやすく整理しましょう。

(1)    一般の人々を教育することを主要な目的とする。
(2)    文化や科学技術を展示する。
後者については、最先端のものにポイントを置く。
(3)    将来の科学技術を予想してみせる。

 これが博覧会の条件です。

 

 よって文化や、最先端、ないし将来の科学技術について、一般の人々の理解が深まりさえすれば、万博は成功と呼べるはず。
 採算が大赤字だったとしても問題ではありません。

 はたせるかな、京都大学の山中伸弥教授は、今年6月の万博誘致プレゼンテーションで、「大阪万博は未来の科学者たちを魅了してやまない実験室になる」と語りました。


 この際には安倍総理も、「世界中の子供たちの胸を高鳴らせる万博になる」とのメッセージを寄せています。

 そうだ! 人々、とくに若い世代に夢を与えることができれば、カネ勘定なんて二の次、三の次! それこそ、万博の精神だろう!
 と、言いたいところですが・・・

■経済活性化の起爆剤がほしい!

 デフレ不況にあえぐ日本で、そんな太っ腹な話になるはずがない。
 なにせわが国は、経済活性化の基本のキである「積極財政による景気刺激」をやらないまま、デフレ不況を脱却しようという驚くべき挑戦をつづけている。
 のみならず、景気をいっそう悪くするに決まっている消費税率の引き上げまでやろうとする始末。

 どうしてそんなことになるのか、これについてはKKベストセラーズ刊の近著『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』や、BEST TIMESの記事「消費増税と『エリートの反逆』」で論じましたので、そちらをご覧下さい。
 ポイントは現在のわが国が、「経済活性化の起爆剤となりそうなもの」に飢えているということ。


 万博も当然、例外ではありません。

 菅義偉官房長官も11月25日、竹中平蔵氏との対談でこうコメントしています。
 https://www.sankei.com/politics/news/181125/plt1811250005-n1.html

 「2020年東京五輪後の一つの大きな目標ができた。東京と大阪を考えたときに、大阪は地盤沈下と言われ続けた。大阪、関西圏の活況にはものすごく大きなインパクトがある」
 「国全体が1つになって誘致活動をした。2020年東京五輪・パラリンピックに刺激される形で大阪で万博をやりたい。

大阪に1つの核、目標ができた」

 

 要は経済活性化、とりわけ関西圏の景気を良くするための万博なのです。
 この現実的な発想と、「世界の子供たちの胸を高鳴らせる」という理想、ないしタテマエの間には、少なからぬ距離がありますが、それについては不問としましょう。問われるべきはこれです。

 はたして万博は、経済活性化の起爆剤となりうるものなのか?

■万博のコストパフォーマンスを考える

 まずは2025年大阪万博について、コストと便益をチェックしましょう。
 経産省が2017年に発表した試算によれば、万博開催に際し、主催者側である政府や自治体が受け持つ費用は、会場建設費が約1250億、事業運営費が約830億、関連事業費(夢洲への地下鉄延伸や、道路改良の費用など)が約730億以上となっています。
 (※)建設費については、一部を民間が引き受けることも想定されています。


 http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170407004/20170407004-3.pdf

 合計すると2810億ですが、万博に参加する途上国にたいして、日本は約240億の援助を約束していますので、足すと3050億。
 ただし、これで全部ではありません。
 政府や自治体は、外国政府、国際機関、民間企業などと並んで、万博に出展もするからです。
 ところが出展をめぐる費用(出展事業費)は、そもそも金額の見積もりが記されていない。

 会場建設費や運営費にも、先の数字とは別に、出展者側の負担する分がそれぞれ650億と1460億、計2110億あるんですね。
 ならば、この一部も政府や自治体が持つことになるのではないか。
 先の3050億に、500億程度は足しておくのが無難でしょう。
 合計で3550億円。

 しかも2020年東京オリンピックの場合、当初「世界一カネのかからない五輪」と謳われ、8000億程度ですむはずだった予算が、いつの間にか3兆円を超えかねない顛末になりました。
 万博にしたところで、本当に3550億で開催可能かどうかは分かりません。オリンピックと同程度、つまり当初予算の3.75倍に膨らむとすれば、費用は1兆3000億あまりです。

 

 ならば便益のほうはどうか。
 万博によって生じる消費支出(来場者による交通、宿泊、飲食、買い物、サービスなど)の試算は7000億円です。
 加えて経済波及効果が、建設費・運営費・消費支出の分を合計して1兆9000億円。
 しめて2兆6000億。

 出展事業費がもたらす波及効果を考えれば、3兆円に達する可能性が高いでしょう。
 関連事業は、万博をきっかけとした交通インフラや都市インフラの整備なので、波及効果はひとまず脇に置きます。

 3550億で開催できれば文句なし。
 オリンピック並みに費用が膨れあがったとしても1兆3000億ですから、3兆の経済効果があれば割に合います。
 というか、その場合は建設費・運営費・出展事業費の波及効果が増えるはずなので、経済効果も4兆ぐらい行くかも知れません。

(※)ただし波及効果の額は、費用が膨れあがる割合ほどには増えません。ここでいう「費用」は、主催者側である国や自治体が負担するものを指しますが、すでに述べたとおり、万博の建設費・運営費・出展事業費には、出展者側が負担する分もあるためです。

 夢洲の開発には、すでに1兆円が使われたとのことながら、万博開催決定以前より生じていたコストなのを思えば、すべて費用に含めるべきかどうかは議論の余地があります。
 しかし、この1兆をそっくり計上したところで、総費用は最大で2兆3000億。
 やはり割に合う。

 とはいえこれは、経済活性化の起爆剤と評価しうるものか?
 この点については後編で取り上げます。