今年3月に仮釈放されて以来、メールマガジンにTwitter、ニコニコ生放送など、各種メディアで精力的に発信を続けているホリエモンこと堀江貴文氏。8月に、収監されていた約2年間に読んだ本を紹介した『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った』(角川書店)なる本を出版した。
実はこれが「ホリエモンの読んでいた本がすごい」と一部で話題を呼んでいる。

 刑務所での読書というと、佐藤優・元外交官や永山則夫・元死刑囚らが著書に書き記してきたように、俗世間から隔離された環境で、哲学・思想書や宗教書、古今東西の文学などを読み込むイメージがある。しかし、さすがはホリエモン。本書で紹介されている“1000冊の中から厳選した42冊”の中身は、重松清の『とんび』(角川文庫)に、リリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(新潮文庫)、冲方丁の『天地明察』(角川文庫)、村上もとかのマンガ『JIN - 仁 -』(集英社文庫)などなど、俗世感たっぷりの凄まじくミーハーなラインナップなのだ。

 しかも、「これらの本は、いわば僕が刑務所という情報の壁の向こう側で、時間と戦いながらキュレーションした名作たちである」と胸を張るわりに、その感想文がビックリするほど浅い。例えば、前出の『とんび』『東京タワー~』を読んだホリエモンの感想は、「2冊読んで思うのは、これらはファザコン、マザコンの話だということ」である。「わざわざ言われなくても、みんな知っているよ」と言いたくなるが、続いて「ファザコン、マザコンになりたいとは思わないけれど、なれないからこそ、何か惹かれるものがあったのかもしれない」と、毒にも薬にもならないつぶやきを綴る。

 さらに、「極端すぎる生き様」を知ったという3冊として、岡崎京子の『へルタースケルター』(翔伝社)、青木理のノンフィクション『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』(小学館)、卯月妙子のコミックエッセイ『人間仮免中』(イースト・プレス)などを紹介。このラインナップにケチを付ける気はないが、その感想は「僕なんて大したことないなあ」「読むことで、ある種の希望も与えられたし、この服役生活が自分の人生にとって何なのかを考えるヒントにもなった」。「ベストセラー研究」として読んだという『成りあがり』(矢沢永吉/角川文庫)、『五体不満足』(乙武洋匡/講談社)、『PLATONIC SEX』(飯島愛/小学館)に至っては、「結局、何をどうすれば100万部に達するかということは、読んでみてもわからなかった」とぶっちゃける始末で、「じゃあなぜ厳選した42冊に含めたの?」と、問い詰めたくなってくる。

●因縁の深いテレビ局については…

 だが本書の中には、ニッポン放送買収騒動以降こだわり続けているテレビというメディアに言及するなど、ホリエモンの“本領発揮”を期待したくなる場面も。オワコン(終わったコンテンツの意)と叫ばれて久しいテレビの未来を、獄中でどのように見つめていたのか――大いに期待は高まったが、堀江が読んだというのは『チャンネルはそのまま! - HHTV北海道(ホシ)テレビ』(佐々木倫子/小学館)に『電波の城』(細野不二彦/小学館)と、テレビ業界モノのマンガ。

「いわゆるテレビ局の“楽屋裏ドラマ”というのは、これからも変わらずあるといいなあと思う」と、既得権益にしがみつくテレビ業界を批判していた急先鋒とは到底思えない感想を述べる始末だ。

 このほかにも、2年間性交渉ができないことから「どうせならここは身も心も●●時代に戻ろうと、手にとった」という『僕の小規模な失敗』(福満しげゆき/青林工芸舎)を読んだ感想が、「『●●の思い込み』は最強である」だったりと、“どうでもいい話”に終始している獄中読書記。

 ちなみに本書は、元マイクロソフト日本法人社長で、本のレビューサイト「HONZ」を立ち上げた成毛眞がプロデュース。巻末におさめられた2人の対談では、アマゾンのレビューが参考にならなさすぎるという話題で盛り上がり、ホリエモンは「アマゾンのレビューなんてもう、本当にわからないですよ。僕が書いた本にも、星1個のひどいレビューがあったりして、明らかに読んでない人が書いてるんです(中略)もう最低ですよね」と批判しているが、本のレビューといえば、自身のソレも相当なものということが本書で判明してしまったのだから皮肉なものである。

 現在「代表作、かつ決定版となる本をつくり、それをミリオンセラーにする(100万人に届ける)ことで、世の中を『希望ある場所』に変えていこう」という“ミリオンセラープロジェクト”を進行中のホリエモン。なぜホリエモンの本が100万部売れると社会に希望が生まれるのかは不明だが、この獄中読書の成果が100万部に繋がるのか……その結果はちょっと楽しみでもある。
(文=和田実)

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