「ゆとり世代」がついに自分の職場にもやってきた――。昨今、そんな声があちこちから聞こえてくるようになりました。

 2008年頃以降に大学新卒で入社した社員は、義務教育過程においていわゆる「ゆとり教育」を受けた世代であり、「ゆとり社員」と呼ばれています。

「ゆとり教育」とは、それまでの「詰め込み型教育」という指導方針が文部科学省主導の下で一変され、「落ちこぼれをなくそう」「個性を大事にしよう」というスローガンで行われた教育です。ちなみに、4年制大学卒で13年入社であれば、おおむね90~91年の生まれということになりますが、90年といえば、湾岸戦争が起き、東西ドイツが統一されるなど、世界は激動の一年でした。一方日本は、当時バブル経済の絶頂にあり、「オヤジギャル」「アッシーくん」「ティラミス」などの言葉が流行っていた時代でした。

●「ゆとり社員」たちの驚きのエピソード

 そんな「ゆとり世代」たちを社会人として受け入れる企業側では、彼らとの世代間ギャップに困惑する職場が増えているようです。

 今回は「ゆとり社員」たちの特徴や、それらを象徴するかのようなエピソードをご紹介します。

(1)プライベートを優先

 まず、製造業社員は、指示された仕事を怠った理由として平気でプライベートな事情を挙げる新入社員に困惑しているという。

「頼んでおいた資料が出来上がっていなかったので理由を聞いたら、『失恋したからつくれませんでした』と言われました。揚げ句、体調の悪い上司を飲みに付き合わせて、彼氏の愚痴を延々と。こっちは彼女のサポートで休日出勤するハメになり、さんざんです」

 似たような例として、同じく製造業社員からは、

「週明けに提出する顧客向けの資料ができていないので休日出勤をお願いしたら、『俺は土日をエンジョイするために仕事をして金を稼いでいるので、土日に出勤するなんて生きている意味がない』と言われました」

という声も聞かれました。

 このほかにも、「職場に配属間もない新入社員が始業時間より20分ほど遅刻して、『すみません!』と焦った表情で職場に駆け込んできたのですが、なんとその彼女の手には通勤途中で買ったスターバックスのコーヒーが……。居合わせた職場の人々は呆れるしかない様子でした」(サービス業社員)といい、マイペースさも「ゆとり社員」の特徴の一つなのかもしれません。

(2)打たれ弱い

 誰しも新人時代の体験として、右も左もわからず、何をやっても怒られるばかりだった記憶を持っているものですが、最近の「ゆとり社員」たちは打たれ弱い面があるようで、

「直属の上司に怒られるごとに、1時間トイレにこもる新人がいました」(公務員)

という例もあるようです。

(3)個性が大事

 仕事においても個性を重視する「ゆとり社員」に驚きを隠せないという製造業社員からは、
 
「電話メモの字が読めないくらい汚いので、せめて読める字で書いてね、とお願いしたら、『これが俺なんです』と言われました」(製造業)

と呆れた様子を見せています。

(4)年長者と話すことに慣れていない

「最近の新入社員は特に基本的な言葉づかいができていません。ずっと“御社”と“弊社”を逆にしたまま話しているのに気付かないとか」(広告業界)という声も聞かれますが、入社間もない頃に言葉遣いを間違ってしまった経験は誰しも1度はあるもの。これくらいのレベルであれば、まだ可愛いものかもしれません。しかし、サービス業の模範ともいわれるホテル業社員は、「基本的なしつけの問題だと思うのですが、先輩に話しかけられているのに歩きながら聞くとか、説明しても『へー』とか『うんうん』とかいうばかりで、メモすら取らない新入社員をよく見かけます」と語り、どのレベルから社員教育をすべきなのか戸惑っているといいます。

●「ゆとり社員」は、厳しい世相の中で育ってきた世代

 以上、「ゆとり社員」たちにまつわるエピソードを紹介してきましたが、今回話を聞いたビジネスパーソンの中からは、次のように少し違った見方も聞かれました。

「ここ数年の新人さんは、就職活動のときに内定取り消しに遭ったりしているので、保守的で真面目な人が多いように感じます。保守的で主張しないところがゆとり世代ともいえるかもしれません」(IT業界)

「営業活動が大変だとかでまともに昼も夜も食べず、結局会社の玄関前で倒れて、救急車を呼ぶことになった子がいました」(人材業界)

 生まれた直後にバブル経済が崩壊し、日本の「失われた20年」の中で育ってきた彼らの世代。09年にはサブプライムローン問題に端を発する世界金融危機が起き、11年には東日本大震災と、就職状況が一気に厳しくなった世代でもあります。そんな時代背景も影響しているのか、ゆとり世代には「受け身で真面目」「出された課題はそつなくこなす」という評価の声も多いようです。

 イライラする感情はひとまず抑え、彼らの特徴を理解した上で“正しい取扱い方法”を身につけることにより、そんな「ゆとり社員」のパフォーマンスを上手く発揮させることができれば、職場の業績向上につながるかもしれません。


(文=降旗愛子/株式会社デファクトコミュニケーションズ)

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