首脳人事をめぐる混乱が続いてきた住宅設備大手、LIXILグループの定時株主総会は6月25日、東京・中央区銀座の住友不動産汐留浜離宮ビル、ベルサール汐留で開催された。午前11時に始まった総会には、前年の168人を大きく上回る629人の株主が出席した。
前最高経営責任者(CEO)である瀬戸欣哉氏ら株主側が提案した取締役候補は8人全員が選ばれ、取締役全体(14人)の過半数を制した。総会後の取締役会で瀬戸氏はCEOに帰り咲いた。
LIXILグループの経営混乱は2018年、母体企業のひとつである旧トステム創業家の潮田洋一郎氏が、「プロ経営者」として招いた瀬戸氏を解任し、自らがCEOに就いたことで顕在化した。英マラソン・アセット・マネジメントなど海外の4機関投資家が、この人事に対して「不可解」と異議を唱え、潮田氏らの取締役解任に向け、臨時株主総会の開催を求めた。
潮田氏は先手を打って取締役とCEOの退任を表明。しかし、「院政」を敷くことを狙っていると疑いの目で見られた。
潮田氏が、LIXILグループをMBO(経営陣が参加する買収)で非上場にしたうえで、本社をシンガポールに移転し、シンガポールで新規上場するという計画を立て、瀬戸氏がそれに反対した。そのため、潮田氏は瀬戸氏を追い出した、というのが対立の根本部分での図式とされる。
潮田氏の支配体制の継続か、それとも“脱潮田体制”に変革するのか。これが株主総会の最大の争点だった。
脱潮田氏を目指す瀬戸氏は、ともにLIXILグループ取締役を務めるINAX創業家の伊奈啓一郎氏とともに、自身を含む8人の取締役候補を提案した。「会長兼CEOを務めてきた潮田氏の影響力をなくし、ガバナンス(企業統治)の不全を正す」と主張した。
一方、会社側は取締役の候補として10人を提案した。内訳は、社内取締役が1人、社外取締役が9人。「混乱の早期収束のため、現在の取締役は全員退任するのが望ましい」と反論し、社外の人材を中心とする新体制を構築するとした。当然、反潮田の急先鋒である瀬戸氏や伊奈氏を追放するのが狙いだ。
会社側の舞台裏を覗くと、取締役候補はドタバタで決まったようだ。そのため、次期CEOを誰にするかは不明という前代未聞の珍事となった。慌てて、元リコー社長の三浦善司氏を暫定のCEOに選定したが、三浦氏が適任かどうかについては「ノー」という情報も流れた。
会社側が推薦した鈴木輝夫氏(あずさ監査法人元副理事長)と鬼丸かおる氏(元最高裁判事)は、瀬戸氏側がまず推薦し、その後、本人の承諾なしに会社側が追随するというお粗末さで、泥縄式の取締役選定だったことが明らかになった。
米議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、「会社側支持」だった。それでも、福原賢一氏(ベネッセホールディングス特別顧問)と竹内洋氏(元関東財務局長)の2人については、反対を推奨した。一方、株主側の候補については、瀬戸氏を含む4人の反対を推奨した。
助言会社の意見は投資家に対して一定の影響力を持つ。
瀬戸氏の株主提案は、会社側との共通の候補だった鬼丸かおる氏と鈴木輝夫氏の両者を含めた8人が選任された。会社提案は助言会社が反対を推奨した福原賢一氏と竹内洋氏以外の6人(共通候補の鈴木氏と鬼丸氏を除く)が選任された。
会社側候補への支持が広がらなかったのは、潮田氏の影響力が残る指名委員会が選んだ会社側候補者が、機関投資家から信用されなかったからである。“潮田氏の息のかかった人物”とみなされた。
一方で、潮田氏の側近である大坪一彦氏(LIXILグループ副社長)が選ばれたことから、潮田氏が巻き返しのカードを残しているという見方がある。潮田氏と瀬戸氏の抗争は、瀬戸氏の解任、瀬戸氏の帰り咲きに続いて、第3ラウンドの幕が上がる。
会社提案、株主提案を、それぞれ支持した大株主には説明責任がある「主要株主である金融機関は会社側提案に賛成し、瀬戸氏側に反対した」(朝日新聞』(6月26日付)
LIXILグループのメインバンクは三井住友銀行だ。サブは三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行である。どのような理由によって会社提案を支持したのかを、説明するべきとの声も多くあがっている。株主提案を支持した国内の機関投資家に対しても、同様に説明責任を求める声がある。
「株主提案の取締役の選任案がフルマークで株主総会で承認されたのは、この規模(LIXILグループの資本金は684億円)の会社では初めて」と、アナリストは指摘する。
社長兼CEOに返り咲いた瀬戸氏は「必ず勝てるチームにしたい。今日からワンリクシルだ」と決意を語った。事業会社LIXILの社長は、潮田派の大坪一彦取締役が続投する。取締役会議長には「“瀬戸排除”に固執していた」(関係者)といわれる松崎正年・コニカミノルタ取締役会議長が就任した。“潮田派”が社内に残って、「腐ったリンゴ」と化す懸念は残ったままだ。
【取締役に選任された人々】
・株主提案
瀬戸欣哉(LIXILグループ取締役)
伊奈啓一郎(同上)
川本隆一(同上)
吉田聡(LIXIL取締役)
西浦裕二(三井住友トラストクラブ元会長)
浜口大輔(企業年金連合会元運用執行理事)
・株主と会社側の双方が提案
鈴木輝夫(あずさ監査法人元副理事長)
鬼丸かおる(元最高裁判事)
・会社側提案
大坪一彦(LIXILグループ執行役副社長)
三浦善司(リコー元社長)
河原春郎(JVCケンウッド元会長)
内堀民雄(ミネベアミツミ元取締役)
松崎正年(コニカミノルタ取締役会議長)
カート・キャンベル(元米国務次官補)
・否決された会社側提案の候補
福原賢一(ベネッセホールディングス特別顧問)
竹内洋(元関東財務局長)
CEOに復帰した瀬戸氏の支持(賛成比率)は、過半数をわずかに上回る53.71%だった。瀬戸氏ら株主側が提案したほかの取締役候補者の支持率も、軒並み5割強。薄氷を踏む思いの勝利だったことがわかる。ちなみに、賛成比率は次のとおり。
・浜口大輔氏:64.55%
・伊奈啓一郎氏:58.74%
・瀬戸欣哉氏:53.71%
なお、株主側、会社側の共通の候補だった鬼丸かおる氏は94.45%、鈴木輝夫氏は94.43%と高い支持を集めた。会社側候補で選任されなかった福原賢一氏は44.92%、竹内洋氏は44.39%だった。
(文=編集部)