RIZAP(ライザップ)グループは6月22日午前10時、東京・千代田区紀尾井町のホテルニューオータニ ザ・メイン宴会場階「鶴の間」で株主総会を開いた。
<瀬戸健社長は冒頭、「株主のみなさまにはこの1年、ご迷惑とご心配をおかけ申し訳ございませんでした」と頭を下げ、20年3月期について「黒字でなければ、この場にいない。
「週刊現代」(5月25日号/講談社)に、『ライザップ「経営危機・倒産」の大ピンチ』と報じられた大赤字会社の株主総会だ。大荒れになると予想されたが、「開かれた株主総会」の流れで激しい意見が飛び交う今年の株主総会のなかでは珍しい、“シャンシャン総会”となった。
RIZAPの株主構成を見ると、瀬戸社長の資産管理会社CBMが持ち株比率31.89%で筆頭株主。瀬戸健社長(26.98%)、瀬戸早苗氏(4.18%)と合わせて63.05%を保有する(19年3月末時点)。
同社が開示した臨時報告書によると、株主総会での瀬戸氏の賛成比率は実に99.11%。100%に近い支持を得た。上場会社というより、瀬戸氏のシンパで固めた「瀬戸商店」そのものなのである。
買収した上場企業群が業績の重石にRIZAPはM&A(合併・買収)を行い子会社に組み入れた各社の業績が振るわず、2019年3月期連結決算(国際会計基準)で193億円の最終赤字(18年3月期は90億円の黒字)に転落した。
18年3月期に利益を87億円押し上げていたのが「負ののれん代」だった。新規M&Aの停止で、これが計上できなくなった。
上場子会社8社が店舗閉鎖などの費用を特別損失として計上。この額が最終損益段階で、単純合計で85億円となったことも最終赤字幅の拡大につながった。当初は153億円の黒字を見込んでいたのだから、最終損益段階で346億円も下振れしたことになる。
ジャスダック市場に上場しているワンダーコーポレーションは、ゲームや音楽ソフトの小売店「Wander GOO」「新星堂」などを展開している。18年3月にRIZAPグループ入りした。
ワンダーコーポレーションの19年3月期(13カ月の変則決算、日本会計基準)の売上高は721億円、最終損益は51億円の赤字。RIZAPグループの19年3月期の売上高にあたる売上収益が18年同期比82%増の2225億円と過去最高を記録したのは、ワンダーコーポレーションの買収が寄与したからだ。
しかし、CDやゲームは、インターネットの音楽・映像配信サービスに取って替わられた。19年3月末までに22店舗を閉鎖し、今期も店舗閉鎖を進める。ワンダーコーポレーションを筆頭に堀田丸正(東証2部上場)、夢展望(東証マザーズ上場)といった買収した上場子会社群が業績の足を引っ張った。
RIZAPの決算書には、企業の存続に疑念を抱かせる状況を示す「継続企業の前提に関する重要事象」が記載された。
金融筋によると、「メインバンクのみずほ銀行は既存借入分の借り換えに応じるが、新規融資には慎重」とされる。コミットメントラインの契約が3行になったのも、みずほ銀行が単独での融資に慎重になっている表れだとの指摘がある。
M&Aを再開か瀬戸社長は、「1年で黒字化を達成することができなかったら、社長を辞める」と言い切った。では、どうやって黒字化するのか。
再び、業績不振会社(ゾンビ企業)を買い漁るのではないか、と懸念する声が多い。「負ののれん」代を積み上げるほうが楽だからである。
「RIZAPが再び拡大路線に転じるだろうと、M&A仲介会社の売り込みが始まっている」(証券アナリスト)
RIZAPに対して「ガバナンス(企業統治)は機能していない」との批判が高まった。社内取締役は瀬戸社長1人とし、3人の社外取締役が瀬戸社長を監視する体制とした。元住友商事副社長で住商情報システム(現・SCSK)会長兼社長を務めた中井戸信英氏、経営共創基盤パートナー マネージングディレクターの望月愛子氏、公認会計士の石久保善之氏である。
グループ会社数は、新規買収を凍結したため19年3月期時点で86社と横這い。瀬戸社長は「企業買収を早期に再開したい意向」ともいわれているが、果たして社外取締役がゴーサインを出すのか。社外取締役の見識が試される。
手当たり次第に“ゾンビ企業”を買収する暴走経営は封印せよというのが、取引銀行のスタンスだ。「みずほ銀行は、関連会社の一段の整理を要求している」(有力金融筋)という。
「プロ経営者」の松本氏は省エネ冷却素材販売会社を起業「プロ経営者」の松本晃氏は、この日の株主総会で退任した。米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長、カルビー会長兼CEOを経て18年6月、瀬戸社長に三顧の礼をもって迎えられ、RIZAPグループ最高執行責任者(COO)に就いた。
1年でRIZAPを去ることになった松本氏は最後の株主総会で、こうあいさつした。
「瀬戸さんとは、議論は尽くした。対立も確かにあったが、実に健全な対立だった。人間が憎み合う対立は一度もなかった。今年1年でV字回復するとは思わない。
プロ経営者が辞任に際して「今年1年でV字回復するとは思わない。もうちょっと辛抱だが、黒字化はする」と言い切ったのは、瀬戸社長の暴走を戒めるためだったのか。
瀬戸氏は辞める気などないだろう。そのため、どんな手を使ってでも20年3月期の黒字化は達成するはずだ。だが、無理をすればするほど、経営の歪みが大きくなる。
株主からは、松本氏に対し社外取締役への就任を求める声が出たという。その松本氏は、新しいビジネスにチャレンジする。6月11日、建材に使用すれば、屋内の温度を摂氏10度程度下げることができる冷却効果を持つフィルム素材を販売するラディクールジャパンを設立し、会長兼CEOに就いた。
松本氏は日本を代表するプロ経営者だが、起業は意外にも初めてだ。記者会見で「いい年になったが、新しいものが大好きなのは変わらない。生きている限りはチャレンジしたい」と語った。
(文=編集部)