日立製作所のグループ再編が総仕上げに入ったようだ。

 6月7日早朝、「日経ビジネス」電子版が『日立が中核上場子会社の日立ハイテクノロジーズを完全子会社化する方向で検討に入ったことが明らかになった』と報じた。

TOB(株式公開買い付け)で取得する計画だという。

 報道によると、日立は日立ハイテクを完全子会社化後に低収益事業の売却を検討している。売却候補としては、半導体装置事業が挙がっているという。

 日立ハイテクは次世代半導体向け装置などの研究・開発費が重荷になっており、日立がTOBすれば日立ハイテク自身の収益力向上につながるとの見方がある。

「プレミアムを考慮し、買収額は4000億円規模になる」とされ、逆算するとTOB価格は6000円になると、株式市場は囃し立てた。

 株価は6月7日、制限値幅の上限(ストップ高水準)である前日比700円(14.7%)高の5450円となった。

週明けの10日は一時、先週末比370円(6.8%)高の5820円まで買われ、10年来の高値を更新した。年初来安値は1月4日の3185円。上昇率は83%に達した。7月5日の終値は5750円であり、高値圏で推移している。

「親子上場解消銘柄」は買い

 親子上場は、欧米ではほとんどみられない日本独得の資本政策だ。企業統治や株価形成の面で問題が多く、海外の投資家から見直しを求める動きが相次いだ。

こうした流れから、「親子上場解消銘柄」は買い、というセオリーが出来上がった。

 トヨタ自動車の子会社、トヨタホームはミサワホームを2020年1月、完全子会社にする。この発表を受けてミサワホーム株は急騰。6月12日に1043円をつけ、その後、7月5日に1048円の年初来高値をつけた。年初来安値は694円(2月13日)。51%高の水準である。

ミサワホームは19年12月末で上場廃止となる。

 凸版印刷は図書印刷を8月1日付で完全子会社にする。図書印刷株は5月17日、10年来高値の1444円に急伸した。年初来安値は655円(1月4日)だから2.2倍になった計算だ。7月5日の終値は1390円だ。

 日立はかつて多くの親子上場銘柄を抱えていた。

09年3月期に製造業で過去最悪の7873億円の最終赤字を計上してから10年 、聖域なき再編を断行してきた。

 日立が株式を売却した上場子会社は以下の通りである。

 16年、日立物流の株式29%をSGホールディングスに、日立キャピタルの株式27.2%を三菱UFJフィナンシャル・グループに、それぞれ譲渡した。17年には日立工機と日立国際電気をコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に、19年にはクラリオンを仏フォルシアに売却した。

 日立は10年、日立マクセルを完全子会社にしたが、マクセルの電池事業との相乗効果が見いだしにくいため、グループ外に出す決断をした。

 日立マクセルは14年、東証1部に再上場。

再上場と同時に日立は保有株の大半を売却し、出資比率を33.0%に引き下げた。その後も段階的に株式を売却。17年に保有比率は3.0%まで下がり、筆頭株主から外れた。日立マクセルはマクセルホールディングスに社名を変更。日立から独立した。

 日立ハイテク(保有比率51.7%)を除くと、日立が5割超の株式を保有しているのは日立金属と日立建機。

3割強は日立キャピタルである。

 日立ハイテクは20年度中に社名を変更し、本社を近隣に移転。現本社ビルは売却を検討する。配当性向を30%から40%に引き上げる。

売上高営業利益率5%以下の事業は再編の対象

 日立はIT(情報技術)を軸に経営資源を集中しながら、グローバル展開を強化中。独シーメンスや米IBMと戦える企業を目指す。

 同時に利益率重視の経営を明確にしている。売上高営業利益率を19年3月期の8%から22年3月期に10%以上に高めるとしている。利益率が5%以下の事業は再編の対象となる。

 日立グループの19年3月期の売上高営業利益を見ておこう。日立建機(11.3%)と日立ハイテク(9.1%)は8%を上回ったが、日立グループ「御三家」である日立化成(7.1%)と日立金属(5.0%)は8%に届かなかった。「御三家」とは、日立金属、日立電線(13年に日立金属と合併)、日立化成を指す。目標を達成できなかった日立化成については、売却先の選定を進めている。

 日立による日立ハイテクの完全子会社化と、低収益事業である半導体装置事業の売却の報道が出てきたのは、こうした背景がある。

 日立ハイテク、日立金属、日立建機について、外に出す(売却する)のか、取り込む(完全子会社にする)のか、最終判断をすることになる。
(文=編集部)