アクティビストと呼ばれる「物言う株主」の存在感が、株式市場で大きくなっている。これまでは企業価値を高めるよう株主提案をするのが常套手段だったが、彼らが経営を実質的に支配するようになり、様相が一変した。
物言う株主は、舞台裏での関与を強めた。事前に話がつき、企業と特定の投資家には好都合かもしれないが、定時株主総会の重要性を薄めてしまった。物言う株主が“乗っ取った”東芝の株主総会は、その典型的なケースである。
東芝の臨時報告書によると、6月26日に開いた定時株主総会で決議した取締役選任案では、車谷暢昭会長兼CEO(最高経営責任者)への賛成率が、2018年の63.04%から今年は99.43%と36.39ポイントも急上昇した。ほかの11人も、すべてが99%超だった。
まるで、独裁国家の議会選挙のようである。反対票はほぼゼロ。「こんな“デキレース”の株主総会なら、やらないほうがいい」と痛烈な批判の声もあがっている。
東芝は17年12月の巨額増資の結果、海外投資家の保有比率は69.82%(19年3月末時点)となった。「物言う株主の言いなりになったから、その“ご褒美”として100%近い賛成を得た」(エレクトロニクス業界担当のアナリスト)といった辛口の評価がある。
18年4月、メインバンクの三井住友銀行取締役兼専務執行役員だった車谷氏が会長兼CEOに就いた。この機に物言う株主は勝負に出た。
これに東芝経営陣は全面降伏した格好だ。
7000億円の自社株買い物言う株主の最初の要求は、自社株買いだった。東芝は米国の原発子会社、ウエスチングハウス(WH)と同グループの再生手続きによる損失など1兆2428億円を計上、17年3月期に5529億円の債務超過に陥った。債務超過を解消するため17年12月、6000億円の第三者割当増資に踏み切った。
増資に応じた60のファンドのなかに、うるさ型の物言う株主が顔を揃えた。まるで、死に体の東芝に群がったハゲタカの群れのようだった。
東芝は稼ぎ頭だった半導体メモリ事業の売却で資金が入り、18年6月末時点で現預金や有価証券など手元資金は2兆15億円に達した。1年間で1兆4857億円増えた。
豊潤なキャッシュに舌なめずりしたのが、増資を引き受けて東芝の株主となった物言う株主たちだった。
手元資金の4分の3近くをファンド側に還元せよと迫ったわけだ。だが、1兆1000億円も吸い上げられたら、なんのために東芝メモリ(10月1日付でキオクシアに社名を変更)を売却したのかわからなくなる。さすがに東芝もこの要求は飲めない。構造改革費用などを考慮し、自己株買いの総額を7000億円に決めたと理解を求めた。手元資金が増えた分の半分近くをファンド側に渡しますから、それで手打ちにしましょうということだ。
18年11月9日から1年間で2億6000万株、7000億円を上限に自社株を購入する。一度、債務超過に陥った企業が、ここまで巨額の自社株買いを行った例はない。自社株買いは、19年6月末までの累計で1億4041万株、5044億円(上限の72%)となった。
社外取締役に投資のプロを送り込む要求の2つ目は、役員の派遣である。
12人の取締役のうち、社外取締役は7人から10人に増えた。
これまでの取締役会では「自分たちの要求に十分に応えることができない」と、物言う株主が判断したということだ。
総会では株主から、投資会社出身者が複数いる社外取締役の人選について「ものづくりの経験や能力があるのか」といった厳しい声が上がった。経営が混乱するLIXILグループの社長を務めた藤森氏の選任に関し「経営能力を疑問視する」意見も出た。
だが、こういった声は、99%を超える賛成票の嵐の前に掻き消された。
東芝は、物言う株主への利益の還元を経営の最優先課題に置く。7000億円の自社株買いが終了したら、1兆1000億円の自社株買いの実現に向け、彼らは残る4000億円の自社株買いを要求するだろう。
名門・東芝は物言う株主にとって“美味しい獲物”となった。自業自得とはいえ、彼らが利益を食い散らして去った後、東芝にはペンペン草も生えないのかもしれない。
(文=編集部)