かんぽ生命の不適切販売問題。前編では、この問題の経緯や不適切とされた主な事例をご紹介したが、後編では、かんぽ生命が取り扱っている主な商品や特徴、不適切な契約を見極めるポイントをご紹介しよう。

かんぽ生命の主力商品は、「養老保険」「終身保険」

 では、かんぽ生命は、もともとどのような保険商品を扱っているのか? 以下の図表は、2017年度の新契約の商品構成である。

 主に取り扱っているのが養老保険、終身保険、学資保険といった、いわゆる貯蓄性保険商品ばかり。このうち、最も高い割合を占めるのが「普通養老保険」(28.7%)だ。

 養老保険とは、生命保険のうち、一定の保障期間を定めたもので、満期時に死亡保険金と同額の満期保険金が支払われる。要は、亡くなっても、生きていても、必ず保険金が受け取れるため、終身保険や定期保険と比べると、保険料が最も割高となる。

 同社の「普通養老保険」は死亡保険金と満期保険金が同額のもので、かつて「はあとふるプラン」(2002年6月30日に販売中止)として簡易保険の主力商品となっていた。現在では「新フリープラン」として販売されている。

 一方、「特別養老保険」(19.1%)は養老保険に定期保険が付いている定期保険付養老保険のこと。死亡保険金と満期保険金の倍率の違いによって、「2倍保障型」「5倍保障型」「10倍保障型」がある。ペットネームは普通養老保険と同じ「新フリープラン」。死亡保障があるため、加入年齢は普通養老保険が0歳からだが、特別養老保険は15歳からと保障のニーズ等が異なる。

 そして終身保険は、いわゆる「新ながいきくん」というペットネームで親しまれているもの。

「普通終身保険」は、保険契約の払込期間満了後に、それまでの保障が一定額減額される「倍型」(20.9%)(「ばらんす型2倍」「ばらんす型5倍」)と保険契約から同額の死亡保障が一生続く「定額型」(16.3%)がある。

「特別終身保険」(7.1%)は、「おたのしみ型」という愛称の通り、保険料払込期間満了時とその後5年ごとに生存保険金(一時金)を受け取ることができるものだ。

かんぽ生命の保険商品の特徴は?

 かんぽ生命の保険商品の特徴を一言でいえば「簡易・小口」。前述のとおり、養老保険や終身保険など、シンプルでわかりやすい商品がほとんどで、加入にあたって医師の診査は不要。簡単な告知のみで、職業上の制限事項もなく、どの保険者も同一条件で加入できる。全国どこにでもある郵便局で手軽に申し込めるので利便性も高い。その拠点数は2.4万で、小学校2万よりも多い(2018年3月末時点)。

 加入限度額は、原則1,000万円まで(被保険者が満15歳以下の場合700万円)。ただし、被保険者が満20歳以上55歳以下の場合、加入後4年以上経過した契約がある場合など、累計で2,000万円まで加入できる。年金(基本契約)の加入限度額は、年額90万円(初年度の基本年金額)までだ。不慮の事故など、万が一の際には、保険金が倍額支払われる「保険金倍額支払制度」もある。

かんぽ生命でも商品ラインナップの充実を図ってはいるが……

“郵便局”という最大のブランドと信用力を活かして、顧客の囲い込みを図りつつ、2017年10月2日に、入院日数の短期化、外来手術の増加など医療環境の変化に対応した「医療特約 その日からプラス」、保険料払込み期間中の解約返戻金を低く設定することで保険料の負担を抑えた低解約返戻金タイプの終身保険、長生きした場合の年金の受取額を大きくし、長生きリスクに備えられる-いわゆるトンチン年金―「長寿のしあわせ」(長寿支援保険)などを新たに発売。

 時代のニーズを考慮して、商品ラインナップの充実に努めてはいるが、ベースとなる商品が養老保険や終身保険などの貯蓄性保険商品では、昨今の予定利率の低さを考えても、商品力という観点では、生保各社に到底太刀打ちできない。

 また、加入限度額が原則1000万円と制限があるため、働き盛りの夫の死亡保障としては物足りないし、終身保険や養老保険で高額な死亡保障に備えるとすると保険料はかなり割高になる。

 また、掛け捨てで単体の医療保険やがん保険は取り扱っていない。保障ニーズが死亡からこれらの第三分野の保障へとシフトしつつあるなか、主力商品を主契約として、特約に医療保障を付加して販売するのが基本スタイルとなっているが、死亡保障が不要で、医療保障だけ確保したいニーズには対応しきれない。

主なターゲットは、女性・60代以上が半数超

 さらに、入院日額が最大1万5000円まで付加できる点は魅力とはいえ、そのためには、終身保険の基準保険金額1000万円で契約する必要がある。

 保険料を試算すると、50歳男性、基準保険金額1,000万円、保険料払込済年齢60歳、1日あたりの入院保険金額1万5000円の設定で、月額保険料は「新ながいきくん(ばらんす型5倍)」が3万5500円。「新ながいきくん(定額型)」が9万8500円となった。

 おおむね、契約年齢ごとに設定された保険料の最高額の負担が必要となるのだろうが、この保障内容と保険料では、どれだけのご家庭が負担できるだろう。

 ちなみに、保険金1,000万円を掛け捨ての定期保険で備えるとすると、50歳男性、保険期間80歳満了の場合、月額保険料は約8,800円。入院日額1万円、先進医療特約付き、60歳払済の終身医療保険を付加したとしてもプラス約1万6000円で、合計約2万5000円だった(カタカナ生保の場合)。

 かんぽ生命の被保険者の約6割は女性で、年齢別にみると、半数以上が60代以上。年齢が上がるにつれて、割合が増加する。

高齢になれば、現役世代に比べ高額な死亡保障は必要なくなる。保険料負担と保障内容のバランスを考慮して、人によっては保険を“卒業”することをお勧めするケースもある。

 ニーズの高い医療や介護のリスクには預貯金で対応してもらい、保険にお金をかけるよりは、健康維持や予防にお金をかけてもらったほうが合理的で健康的だとアドバイスしている。

不適切販売の可能性のある契約は?

 それでは、これらの状況から、不適切販売の可能性のあるのはどのような契約だろうか? まずは、前編でご紹介した報告事例に該当していないか、契約日と対象期間を照合しながら確認してほしい。その上で、とりわけ以下のような契約は要注意だろう。

・契約乗換が急増した2017年10月前後の契約
・旧契約から新契約までの期間が4カ月など短いもの
・旧契約と新契約の保険料を6カ月以上重複して支払っていたもの
・年金収入などに比べ、毎月の保険料(掛金)負担が過大なもの

調査前に不安に駆られて解約してはいけない!

 不適切な疑いのある契約については、かんぽ生命が販売を受託している日本郵便が、すべての契約者に手紙の送付や直接訪問などを行い、保険の契約内容が希望に合っているかなどの意向を一緒に確認する作業が始まっている。

 二重払い分の保険料の返還や意向に沿わない契約だったとの申し出については、契約時の状況を確認し、場合によって取り消しや保険料の返還、旧契約を復元するなどの個別対応を行うという。

 ここでまず注意していただきたいのは、連日の報道で不安に駆られ、調査前に安易に解約手続きをしないこと。不適切な契約と認められる前に解約してしまうと、保険料の返還等が受けられない恐れがあるからだ。それに、最近の予定利率(0.25%<2017年4月2日~>)から考えると、養老保険や終身保険の中途解約で受け取れる解約返戻金はかなり少なく、大きく損をする可能性も高い。

 また、報道などでは、意向確認は原則的に契約を担当した同じ局員が訪問する方針だという。それが、不適切な販売を勧めた張本人だったとして、「はい。

不適切でしたね」と認めるものだろうか? 甚だ疑問である。契約者が高齢の場合など、家族が立ち会うこと。それでも不安であれば、多少お金を払ってもFPに保険証券や契約状況を確認してもらうことをお勧めしたい。

本当に「顧客本位の業務運営」は浸透するのだろうか?

 今回のかんぽ生命の不適切問題では、さまざまな問題が浮かび上がったと考えている。

 まず、すぐに頭に浮かんだのは、2016年10月に金融庁が金融行政方針で掲げた、受託者責任という概念を示す「フィデューシャリー・デューティー」が、郵便局という巨大な組織にまったく浸透していなかったという事実だ。

 金融庁は金融機関に対して、手数料収入の追求や行き過ぎたノルマ営業をやめ、もっと顧客の利益を最優先させた顧客本位の業務運営をせよと求めていた。実際に最近、金融機関などでセミナーを行うと、「フィデューシャリー・デューティーをいかに実践させるか話をしてほしい」と言われることも多い。

 筆者のFP仲間には郵便局の方もいるし、民営化前にはセミナーのご依頼も多く、いまだに顔を思い浮かべられる方もいる。彼らが進んでこのような営業手法を行っていたとは思いたくないが、組織というのは本当に恐ろしいものである。

 そして、売り手(金融機関)と買い手(消費者)の情報格差の問題も顕著になった。その上、多くの高齢者は、売り手が郵便局であることに信を置いていた。金融商品に対するリテラシーの差が歴然としている上、まさか身近で信頼の置ける郵便局員さんが自分をカモにしているとは思わなかっただろう。

信じて勧められるがまま契約した方々を、自己責任という言葉を振りかざして「愚かだ」「なぜ気がつかなかった」などと言えるだろうか。

 筆者の母は、70代後半。地方でひとり暮らしをしている。日頃から消費者トラブルにはくれぐれも注意するように言い聞かせているが、今後はさらに、押し売りだろうが、大手金融機関だろうが、甘言を弄して近寄ってくるものはすべて疑えというしかない。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

編集部おすすめ