アメリカの衣料品大手のギャップが、主力ブランド「GAP」について、今後2年間で北米を中心に約230店舗を閉めると発表した。現在、日本国内には153店舗を構えるGAPだが、景気の良い話は聞こえてこない。

 GAPの低価格ブランドである「OLD NAVY」は2017年1月に日本から一斉撤退しており、今後はGAP本体が撤退する可能性も取り沙汰される。消費者からは「いつも割引セールをやっている」といった声も聞こえてきており、GAPに対するイメージは悪くなりつつあるのが実情だ。

 そんなGAPの現状と今後の展開などについて、ファッションビジネスコンサルタントの北村禎宏氏に聞いた。

ファッション界に衝撃を与えたギャップの登場

 グローバル企業として名高いギャップは、主力ブランドのGAPのほかに前述のOLD NAVYや「BANANA REPUBLIC」など7つのブランドを展開しており、全世界で約3600店舗を擁する、大手小売り企業である。

「ギャップは1986年に自ら製品を企画し、自社製品として委託生産、自らのチェーン店で販売するというビジネスモデルを提唱しました。それは、現在のユニクロなど多くの企業が行っている形態の先駆けです。その後、業界紙(繊研)がSPA(specialty store retailer of private label apparel)と略して、その概念を日本にインポートしました。当時、アパレル企業に属してビジネスモデルのイノベーションにチャレンジしようとしていた私たちは、時を同じくして通産省が盛んに言い始めた『QR(クイックレスポンス)』というあるべき姿とともに、衝撃と自戒の念を持って受け止めざるを得ませんでした」(北村氏)

 ギャップがファッション業界に与えた影響は大きく、ベーシックで手頃な価格のアメリカンカジュアルに消費者は飛びついた。しかし、今や大規模な閉鎖を発表するなど、当時のブランド力は見る影もない。

「現在のGAPは多くのブランドにとって『まだあったの?』という認識で、ノーマーク状態です。それほど、ブランド力や影響力は低下しています。日本では2017年にOLD NAVYが完全撤退し、BANANA REPUBLICも縮小傾向。

企業として、ギャップがシュリンクモードに入っているのは明らかです」(同)

SPAモデルを生んだギャップがハマッた罠

 現在のファッション業界の礎を築いたともいえるギャップ。しかし、なぜここまで衰退してしまったのだろうか。

「現在、世界を席巻しているのは『ZARA』『H&M』『FOREVER 21』などです。トレンドを取り入れながらも低価格のファストファッションという次世代モデルに、ギャップは足元をすくわれた格好です。焦ったGAPは中途半端にトレンドを追いかけるようになってしまい、『シンプルなアメリカンカジュアル』という独自のポジションも失ってしまいました」(同)

 ほかの企業に追いつこうと必死でトレンドを取り入れた結果、自らの首を絞めることになってしまったギャップ。実際、パイパー・ジャフレーの調査によると、アメリカの高所得者層の10代男子の10%、女子の6%がギャップの商品を着なくなったという。発祥の地のアメリカでも、ギャップの人気は低下しているのだ。

 では、ギャップがビジネスモデルを改善することはできるのだろうか。

「私の経験則ですが、ビジネスモデルを確立した時期のメンバーは業界の全体感が見えている。いわゆる“風を読む”ことができるんです。しかし、ギャップのようにSPAという画期的なモデルが確立された後の社員は、そのシステム維持を前提とした仕事をするので、業界全体を俯瞰できない。ギャップも、そうした企業が陥りがちな罠にハマり、ビジネスモデルの改革が遅れてしまったのではないでしょうか」(同)

 ブランド力の低下と次世代モデルへの乗り遅れが、大規模な縮小という事態を招いてしまったようだ。

ネット通販も“負け戦”になる可能性

 北米での大規模閉店の余波は、日本にも訪れるのだろうか。

「日本でも原宿店が5月に閉店するなど、すでにGAP撤退の兆しは見え始めています。連日セールをしているのは、訴求力がないので、そうでもしない限り売れないということです。典型的な末期症状ですね」(同)

 このままでは、OLD NAVYと同じようにGAPが国内から完全撤退する可能性も高い、と指摘する北村氏。日本市場では、ほかの国と違う事情も関係しているという。

「『ユニクロ』と『しまむら』の存在が大きいでしょうね。ベーシック衣料の分野では、価格・質ともに簡単には勝てない。12年に参入したOLD NAVYも、カテゴリーの近い『GU』に太刀打ちできませんでした」(同)

 原宿店の閉鎖について、ギャップジャパンはネット通販に投資するためのブランド戦略の転換だと発表している。しかし、ネット通販市場でもGAPを待つのは茨の道だ。

「これほどブランドの価値が毀損している状況で、ネット通販で成功するとは考えにくいですね。そもそも、ギャップはネット通販の黎明期にすでに店舗網を確立していたため、ネットへの対応が遅れてしまった。そのため、ライバルブランドとの差は歴然です」(同)

 もはや八方塞がりのギャップ。

ファッション業界に限らず、この栄枯盛衰から学び取る教訓は多いのではないだろうか。

(文=沼澤典史/清談社)

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