経済摩擦を発端に、韓国では日本製品の不買運動が広がっているという報道がありましたが、不買運動に参加すると成功からは遠ざかります。その理由を2つご紹介したいと思います。

 ひとつ目は、経済合理性に基づいた行動になっていない点が挙げられます。賢い買い物とは、価格と効用を比較し、最大の満足を最小の出費で得るという合理的な行動のはずです。品質、安全性、機能性、耐久性、デザイン、使い勝手の良さといった効用と、その価格を考慮して、コスパが良いと判断して購入するのは合理的です。しかし、「日本製品を選ばない」ことが目的化すれば、幅広い選択肢のなかからより有利なものを選ぶという合理的な選択を、自ら放棄しているということになります。

 特にお金持ちは、「そのモノには罪がない」という発想を持っています。提供する人によって差が出るサービスは別ですが、モノ自体が優れていれば製造国やメーカーにこだわる必要を感じません。つまり、感情で左右されない判断軸を持っています。たとえば不動産投資でも、仮に前所有者が偏屈な人だとしても、物件そのものが優秀であれば「買い」という判断になります。不動産が何か偏屈なことをしたり言ったりすることはありませんから。

「ホンダファン」「アップルファン」など特定の商品を愛する人はいますが、メーカーの国籍や製造国に関係なく、その企業の理念やプロダクトに込められた魅力を好んでいるのです。アップルファンにとっては、商品が台湾製でも中国製でも韓国製でも、それはどうでもいいことなのです。

 つまり「日本製だから買わない」という不買運動で得られるものは、単に溜飲を下げられることだけでしょう。

批判的に見る姿勢

 そして2つ目は、「批判的に見る姿勢」の有無です。かつて東日本大震災で起こった東京電力の原発事故直後、私の周りの経営者のなかには、政府や東電が当時主張していた「メルトダウンではない」という発表を疑い、日本を脱出した人がいます。結局数年後、東電はメルトダウンだったことを認めました。

 つまり、自国政府が言うことすら疑い、裏を取って事実確認をしたり、自分の頭で考え自己責任で行動するクリティカルな姿勢を持っていることは、成功のためには不可欠です。

 とくにメディアは販売部数や視聴率、アクセス数がすべてですから、売れるよう煽ったり偏向な報道がされやすいことを意識しておく必要があります。

 知性とは、「疑問を持つこと」「問いを立てること」でもあります。では、政府やメディアの報道を鵜呑みにし、扇動的な運動に加担する人はどうなのか。私の知人の韓国人(今は帰化して日本人)に聞くと、「知的な人ほど不買運動をバカバカしいと思っている」そうです。しかし、「表立っては言えない」そうで、社会の雰囲気や他人のイデオロギーに自分の購買行動が左右されるとしたら、やはり賢い買い物にはならなさそうです。

事実を知ろうとする姿勢

 歴史においても同じです。私が明治・大正から戦後にかけての近現代史を勉強し直すきっかけになったのは、前述の原発事故で、東南アジアを旅行したときのこと。初めてのマレーシアで、現地通訳の人に「日本がイギリス軍を駆逐してくれたおかげで植民地支配から解放され独立できた」という話を聞き、自分が習ってきた「日本はアジア各国に侵略して悪事を働いた」という自虐的な歴史観とは違うことに気づきました。

 インドでの産業交流会に参加したときも、政府の役人から「私たちは日本が好きだ」と言われました。そして、「インパール作戦を知っているか?」というのです。補給を軽視した、日本軍最大の愚策として名高いインパール作戦ですが、そこで日本軍がインド軍と一緒にイギリス軍と戦い、それがインド独立のきっかけになったそうです。そのためインド人の、特に年配の人には日本に感謝している人が少なくないといいます。

 そういう経験もあり、民間の文献、それも日本人作者だけでなく、海外の人が書いた文献も併せて複数読んでみたところ、自分が習ってきた歴史、教科書に書いてある歴史とは違う事実、語られていない事実があることを知りました。むろん、隣国が主張する歴史の偏向ぶりも知りました。

 つまり歴史教育とは、自国に有利なように国民を洗脳する側面があるという冷静さを持てば、事実を知ろうという動機となり、より正確な理解を助けてくれます。そしてこれは歴史に限らず、仕事や資産運用なども含め、あらゆる事象・情報に必要な姿勢ではないでしょうか。

(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)

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