第4の携帯電話会社として、10月に自社回線による携帯電話事業に参入する予定の、楽天傘下の楽天モバイルだが、基地局の整備が遅れに遅れている。総務省は8月26日、楽天モバイルに携帯電話の基地局整備を急ぐよう行政指導した。
10月1日のサービス開始を前に、利用者の混乱を防ぐため、電波のつながりやすさや提供エリアを事前に周知するよう求めた。谷脇康彦総合通信基盤局長が楽天モバイルの山田善久社長を呼び、文書で指導した。総務省は3月と7月にも口頭で指導しているが、対外発表はしてこなかった。
楽天モバイルは2019年度末(2020年3月)までに東名阪を中心に3432局の基地局を整備する計画だが、その進捗が大幅に遅れている。
文書では、(1)基地局の設置場所の早急な確保、(2)基地局工事の進捗管理体制の整備、(3)利用者の苦情や問い合わせ体制の整備――を求めた。加えて、取り組み状況を毎月報告するよう要請した。
楽天のケータイは10月に営業開始できるのか。
楽天および楽天モバイルは、新料金プランを9月上旬に発表する予定だったが、ズレ込む可能性も指摘されている。新料金プランでは「楽天市場」との連携を猛アピールすると思われるが、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクもEコマース(電子商取引)との連携を強めており、最終的には料金の「安さ」での勝負となる。
楽天は前例のない完全仮想化のネットワークの構築を目指している。専門家の間では、「つながらないケータイ」になる懸念が依然として根強い。
なぜ、整備が遅れているのか。基地局の用地交渉が難航していることに加え、天候不順で工事が遅れているのは事実だが、都市部はドコモ、au、ソフトバンクの基地局がひしめき合っており、新たな設置場所は限られることが大きい。だが、業界関係者からは「これは当初からわかっていたことだ」と批判の声があがる。
楽天の三木谷浩史会長兼社長は8月8日の楽天グループの決算会見で「基地局の整備は10月には完全に間に合う」と強気の姿勢を貫いた。だが、総務省は10月1日の基地局の設置数は目標に達成できないとみている可能性がある。
クラウド技術を全面採用した通信ネットワークを世界で初めて運用する。想定外の障害に備えて「サービスを段階的に広げていく」(三木谷氏)としているが、総務省の不安が的中した格好だ。
異例の3度目の行政指導に踏み切った背景には、「利用者の期待に楽天・楽天モバイルは応える必要がある。公共の電波を利用する責務を果たしてほしい」との強い思いが込められている。
では、楽天・楽天モバイルは、当初計画より大幅に限定したサービスの内容を、いつ発表するのか。そこに料金プランが含まれるのかなど、先行きは流動的だ。
先行する3社は、10月1日に施行される改正電気通信事業法と関連する改正総務省令と、楽天の料金プランの両方に対応した自社の料金プランを練っている。
楽天の株価は8月28日、前日比6.6%安の928円まで大幅に続落した。携帯電話の第4のキャリアになる前に売り圧力が高まっている。ただし、30日の終値は1001円と、1000円台を回復した。
8月28日、auは2年契約を途中でやめる際の違約金を従来の9500円から1000円に引き下げると発表した。総務省が10月に導入する携帯電話料金新ルールをまとめ、違約金の上限を1000円としたためだ。利用者が携帯会社を乗り換えやすくする狙いがある。
既存のキャリアからの利用客の流出について、当初の想定より少なくなるとの見方が台頭していることも、先行3社にとっては“追い風”となる。
ドコモは8月28日、2666円(52.5円高)と年初来高値を更新。30日には一時、2687.5円まで上昇。さらに、年初来高値をつけた。KDDIも28日に7月高値にあと1.2%と迫る2879円をつけた(7月12日の高値は2914.5円)。
8月28日、KDDIと楽天は日経平均寄与度のプラスとマイナスでそれぞれ上位に顔を出した。携帯電話事業をめぐり、明暗が分かれた格好だ。
(文=編集部)
【続報】
「そらみたことか」「(本格参入を延期する)発表が遅すぎる」――。
携帯電話事業に携わる人々は、10月からの楽天ケータイが「試験運用」にとどまることに、冷ややかな視線を投げかける。
「無理に運用を開始すれば、みずほ銀行の二の舞になっていた」(メガキャリアの首脳)
2002年、みずほフィナンシャルグループは、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行を再編、個人及び中小企業を担当する、みずほ銀行と大企業向けの、みずほコーポレート銀行に2分割され、営業を開始した。
その、みずほ銀行の開業初日、2500億円を投じた基幹システムが、立ち上げと同時に大規模なシステム障害を起こした。金融史上、類を見ないシステム障害となった。日本の金融機関の自動引き落としをはじめとする決済システムは、絶対にミスをしてはいけないという大前提に立っている。これが崩れた。
楽天・楽天モバイルが10月1日に携帯電話事業への本格参入を強行していれば通信史上、ワーストの事態に陥っていたかもしれない。「楽天ケータイがつながらず、大混乱」といった事態だけは回避できたわけで、総務省は胸をなでおろしたことだろう。
楽天は9月6日、東京・二子玉川の楽天本社で三木谷浩史会長兼社長が会見を開き、「10月に予定していた携帯電話事業への本格参入を見送り、地域や契約者数を限定した試験サービスを10月1日から始める」と発表した。基地局の設置が遅れたためで、通信の安定性などを確認した上で本格的な営業に移行する、とした。
しかし、本格参入には基地局数の確保と安定的な稼働が必要不可欠だ。三木谷氏は本格参入の具体的な時期については「1カ月後かもしれないし、3カ月後かもしれない」と述べるにとどめ、いつになるかは明言しなかった。
焦点となっている基地局の整備だが、完了したのは9月6日の現在で586局。計画(2020年3月までに東京や大阪などで3432カ所)の、およそ6分の1(17%)にとどまる。
「楽天誤算 携帯競争冷や水」(「日経」8月7日付朝刊)などと全国紙は報じているが、見通しが甘かっただけだ。きちんと見通しを立てて、それでも予想外の“事件”が起こり、本格営業が遅れたのなら「誤算」だが、社会インフラを担う企業としての覚悟・真剣味に欠けた結果である。みずほの失敗の本質も社会インフラを担うという意識の欠如にあったが、楽天の企業としての信頼は失われたといった厳しい意見が出ている。
通信業界の幹部はこう指摘する。
「2020年3月末までに、携帯電話事業の認可を総務省から受けた際の整備計画(3432の基地局を設置)が達成できなければ、電波法に基づく携帯事業者としての認可が取り消される。2020年春の本格サービスの提供が不可能になる恐れだってある」
「ダメだとなれば、また計画の修正を行うつもりなのかもしれないが、そうなれば通信インフラそのものの信頼が失墜する。
楽天モバイル1社だけの問題でなくなるのだ。菅義偉官房長官は9月6日の記者会見で「料金の低廉化やサービスの多様化への国民の期待をしっかり受け止め、早期に本格サービスを開始してほしい」とクギを刺した。
楽天の株価急落9月6日の東京株式市場。楽天の株価は前日比で一時、6.9%(72円)安の966円まで急落した。終値は984円(54円安)。楽天株は6月末をピークに下落傾向が続き、8月29日には一時、925円の安値を付けていた。
業績への影響を懸念する売りが出た模様だ。「基地局の整備の遅れを取り戻すため出費(設備投資)が膨らむ」という連想だろう。楽天は通信網の構築にクラウドを使った仮想化と呼ぶ技術を世界で初めて通信ネットワークに全面採用することによって設備投資を初期コストで3割(運用コストで4割)削減し、安い通信料金を実施するとアピールしてきた。しかし、このセールスポイントに投資家が疑念を抱き始めたということかもしれない。