リクルートマーケティングパートナーズが運営するリクルート進学総研が「進学ブランド力調査 2019」を発表した。同調査は、高校生の大学選びの動向を明らかにするため、年に1回、高校3年生を対象に行われている。
「志願したい大学」を見ると、関東エリアでは早稲田大学が3年連続1位、東海エリアでは名城大学が3年連続1位、関西エリアでは関西大学が12年連続1位に輝いた。関東は、2位明治大学、3位青山学院大学、4位立教大学、5位法政大学という顔ぶれで、トップ3は昨年と変わらない。
7月に行われた記者発表会では、リクルート進学総研の小林浩所長が同調査の結果について解説した。
“就職力”で早稲田がV3を達成現在、大学は定員の厳格化が進んでおり、いわば入学者を絞り込む大学が増えている。定員を超過すると国からの補助金が減らされるためだが、受験生にとってはひとつの不安要因だ。そこで、大学入試の「玉突き現象」が起きているという。受験生は志望校、すべり止め、すべり止めのすべり止めにもフォーカスするため、より幅広い大学が注目される傾向にあるようだ。
そのため、「志願したい大学」で明治学院大学が23位から18位に、帝京大学が27位から19位に順位を上げるなど、大学改革を行っている中堅大学の人気が高まっているという。
「志願したい大学」については長年、早大と明大が1位の座を争ってきた。09~16年までは明大が1位を死守していたが、ここ3年は早大が1位を譲らない。小林所長は、早大のトップの理由について「就職に強いイメージが定着したこと」を挙げる。
3位の青学大も、ここ10年で着実に人気を上昇させている。正月の箱根駅伝で優勝の常連校であること、13年に文系学部が青山キャンパスに完全移転し、新学部創設などの大学改革に積極的である点が評価されているという。
1位の名城大に、名古屋大学、静岡大学が続く東海では、景気が良いと私立の名城大が1位になり、景気が悪くなると国立の名古屋大が1位になる傾向があるという。実際、リーマン・ショック後の09年から12年までは名古屋大が1位だったが、17年からは名城大が1位に定着している。やはり、名城大もナゴヤドーム前キャンパス、外国学部や情報学部の新設などの大学改革が評価されているという。
関西は、1位が関西大、2位が近畿大学、3位が大阪市立大学という顔ぶれだ。かつては関西大が圧倒的に強く、2位を大きく引き離してきたが、日本初の建築学部の創設やクロマグロの完全養殖などで注目を集める近畿大が追い上げ、17年には関西大と同率1位という快挙を成し遂げている。しかし、19年は関西大が再び2位との差を広げつつあるという。
「早大、名城大、関大がそれぞれのエリアでトップになった理由に、学部・学科の幅広さ、カリキュラムの豊富さがあり、定員が多いことも大きい。関東は景気が良くなると早大がトップになるが、これは『記念に受験したい』という気持ちもあるのではないかと思います」(同)
また、「分野別志願度ランキング」も興味深いものとなった。
「法律・政治」分野では、関東は早大、東海は愛知大学、関西は関大が1位に。
「観光・コミュニケーション・メディア」分野は、関東は観光学部を持つ立教大学、東海は国際コミュニケーション学部や地域政策学部を持つ愛知大と、語学を軸にしたコミュニケーション領域を多く持つ名古屋外国語大学、関西は社会学部を持つ関大が1位だ。
「工学(建築・土木)」分野では、関東は17年に建築学部を開設した芝浦工業大学、東海は理工学部建築学科を持つ名城大、関西は11年に建築学部を開設した近畿大が1位に輝いている。
日大ブランドは凋落が鮮明に昨年、アメリカンフットボール部の騒動が社会問題化した日本大学は、「志願したい大学」で4位から6位に順位を落とし、特に文理別では理系で1位から8位に大幅ダウンした。男女別では、女子が5位から10位に下落している。
日大といえば「法科の日大」との呼び声が高く、また建築・土木の世界では、東京大学や早大に次ぐ学閥を形成している。しかし、前述の分野別では「法律・政治」で8位、「工学(建築・土木)」では4位にとどまるなど、凋落が明らかとなった。
「去年に比べて、全般的に日大の順位が下がりました。特に、女子と理系のランキングで順位を落としています。学部・学科を新設し、大学全体を売り出している傾向がありますが、大学全体と学部・学科の広報をどう両立させていくかが課題です。工学に限っていえば、建築学部を持っている芝浦工業大の躍進が見て取れます」(同)
昨年の同調査はアメフト部の問題発覚前であり、騒動後は今回が初の調査となった。その影響も否めないようだ。
「アメフト部のタックルそのものだけでなく、その後のメディア対応やニュースの出方なども影響し、日大は志願者数が減少。すべてのカテゴリーで順位が下がっているので、アメフト部問題の影響はあったでしょう」(同)
また、日大の今後については、「日大は大規模で活気があって、クラブやサークルが盛んなイメージがある。OBも100万人規模といわれています。教育の中身や学部は揃っているので、それらの伝え方が今後の課題」(同)との見方を示した。
日本有数のマンモス大学が進学ブランド力を低下させるなか、令和の時代に生き残るのは、どの大学だろうか。
(文=長井雄一朗/ライター)