宅配便が大きな曲がり角を迎えている。取扱個数の増加とドライバー不足やドライバーの高齢化など多くの問題を抱え、荷物を運びきれないなどの事態も発生している。

 宅配便の取扱個数は増加の一途をたどっている。国土交通省の宅配便取扱実績によると、2017年度は42億5133万個に達した。1989年に取扱個数10億個を突破した宅配便は、10年後の99年に20億個、2007年には30億個と増加し、16年には40億個を超えた。ほぼ10年間で10億個ずつ取扱個数が増加してきた。そして、近年のインターネット通販市場の拡大により、取扱個数は一段と増加している。

 取扱個数の急激な増加とともに、宅配便ではさまざまな問題が発生している。

特に深刻なのは、13年頃からドライバー不足が顕在化し、荷物を運びきれない状態が発生し始めたことだろう。ドライバーの有効求人倍率は常に3倍を超える状態が続いている。

 また、ドライバー不足はその高齢化にもつながっている。少子高齢化の影響は、どの業界でも共通の問題だが、貨物運輸業では就業者の約4割が50歳以上になっているとの統計もある。

 ドライバー不足の背景には、近年の若者が運転免許証を取得しないという傾向や、AT(オートマティック)車の普及により、AT限定免許の取得が増加し、MT(マニュアル)車の免許を取得しなくなったことも、一つの要因となっている。運送用のトラックはAT車もあるものの、まだまだMT車が多いためだ。

“再配達”問題

 そして、宅配業者を悩ませている大きな問題に“再配達”がある。インターネット通販の増加により、家庭向けの宅配が増加するなかで、受取人不在による再配達の増加は配達効率を著しく悪化させている。国土交通省では、毎年4月と10月に宅配便再配達率の調査を行っているが、19年4月の再配達率は16.0%にも上っている。

 受取人不在による再配達の増加は、配達員の労働時間の長時間化につながるとともに、燃料費の増加といったコスト面にも影響する。国土交通省によると、再配達に必要な労働力は年間約9万人分に相当すると試算されている。

 また、空き家の増加や過疎地の増加などにより、集配密度が低くなることで配達効率が悪化してきていることに加え、過疎地などでの再配達は配達効率を一段と悪化させる要因になる。

さらに、利用者の中には、“再配達は当たり前”という気持ちがあることも否定できないだろう。

 宅配業者では、配達の希望日時指定や配達情報の提供、あるいは受取場所を自宅以外の場所(コンビニエンスストアなど)にするなどといったさまざまな工夫を行い、再配達の減少に取り組んではいるものの、宅配便の増加により、再配達がなかなか減少しないという悪循環に陥っているのが現状だ。

 取扱個数の増加による事業拡大は、半面、ドライバーの労働量増加や再配達による長時間労働につながり、ドライバー不足に拍車を掛ける。そして、ドライバーが不足することで一段と労働量が増加し、長時間労働になるという“負のスパイラル”が起きている。

 すでに、一部の集配密度が低い過疎地などでは、宅配業務を継続していくことが困難になっている。だが、これは過疎地だけの問題ではない。

現在の状態が深刻化すれば、たとえば、自宅への配達料金が引き上げられる、すべての荷物の受け取りはコンビニで行うといった、宅配という事業自体が変化していく可能性すら出てきているのだ。

(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)