放送前はキャストや舞台設定の変更で否定的な声も少なくなかった『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)。

 秋ドラマでしんがりとなる11月2日にスタートすると、「やっぱり最高」「全然違和感ない」という称賛と、「やっぱり前作の良さが消えた」「違和感がすごい」という批判が真っ二つに分かれて、昨年とは異なる意味で盛り上がっている。

 ただ、ここまでの2話を見る限り、「称賛と批判の理由は極めて似ているのではないか」と思わせるところがあった。それだけに、今後の脚本・演出次第では、称賛一色か、批判一色か、どちらの可能性も考えられそうなのだ。

 ここでは、称賛と批判の理由と成功の鍵を握るポイントについて掘り下げていきたい。

新キャラの四宮が支持される必然

「ポンコツでお人よしの春田」「理想の上司・武蔵」「ツンデレの年下男」「不意のキスや絶叫告白」「ほどよくハートフルな各話ゲストのエピソード」あたりは、前作とほとんど同じ。これらを見て、「ホッ」とした人は多かったようだ。

 しかし、冒頭から春田創一(田中圭)、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、成瀬竜(千葉雄大)、四宮要(戸次重幸)の男性四角関係に加えて、女性の橘緋夏(佐津川愛美)も積極的にからんでくる筋書きは、明らかに別物だった。

 前作のファンには、「春田と牧凌太(林遣都)の純愛こそ『おっさんずラブ』」という感覚の人が多い。だからこそ、制作サイドの「牧の代わりは1人では務まらないから、最初から男4、女1の五角関係で盛り上げよう」という意図が透けて見える。

 その点でわかりやすいのは、「2話が終了した現在、もっとも支持を集めているのは四宮」であること。実際、料理上手で恋に純粋なところは牧を彷彿させるし、第2話で黒澤から「なぜ好きと伝えないんだ?」と問い詰められて「私はこれ以上の関係を望んでいません」と返す切ないシーンに感情移入する人が多かった。いまだくすぶる前作ファンの不満を軽減させるには、四宮の秘めた純愛をじっくり見せるほうがいいのではないか。

 もちろん、ここまで「ただの嫌なヤツ」という印象の成瀬が株を上げる展開も、近いうちに見られるだろう。

成瀬が「実はいいヤツだった」、さらに「四宮を超える純粋な男だった」というシーンがあれば、前作ファンの批判を消し去ることができるかもしれない。『おっさんずラブ』のスタッフなら恋の純度を落とすとは思えないだけに、不満がある人も、もう少し見続けたほうがいいだろう。

名作の続編はコメディ寄りになる

 もうひとつ、称賛と批判の声に共通しているのは、今作が純愛寄りだった前作から一転してコメディ寄りのムードになっていること。

 セリフ、表情、BGM、ライティングなどのさまざまな点で、その傾向が見られるが、特にコメディの要である武蔵の顔芸や心の声は、間違いなく前作よりも濃厚になっている。たとえば、第2話で見せた告白のシーンは「爆笑」か「ドン引き」か、紙一重になるほどの過剰さがあった。

 これは、今秋の『まだ結婚できない男』(関西テレビ、フジテレビ系)もそうであるように、「名作の続編は本来のテーマを追求するより、笑いに振り切るケースが多い」から。当作で言えば、「純愛をさらに掘り下げる」よりも「純愛はキープしつつ笑いを追求する」というエンタメ性重視の方針が見られる。

 その意味で、舞台を航空業界に変えたことは大きかった。春田の職種は、「女の園」であるCA。「女性ばかりの職場であるにもかかわらず、57歳の武蔵、30歳の成瀬、40歳の四宮という3世代の男たちから好かれる」という設定がなんともシュールであり、いい意味での滑稽なムードを醸し出している。何かと航空機にたとえる武蔵の心の声も含め、コメディを加速させるチョイスになったことは間違いない。

 しかし、前作への思い入れが強い人は航空業界でのパラレルワールド自体に否定的で、航空会社「Peach Aviation」の全面的な撮影協力も「ビジネス臭が強烈」と懸念を示す声が見られる。

劇中で繰り返し映される制服や機体に加え、現実にも特別機「OSSAN’S LOVE JET」が運航しているだけに、そう感じてしまうのも仕方がないだろう。

「in the sky」「新たな出会いは、空の上で。」を掲げているだけに、これから機内での恋模様も描かれるのではないか。舞台設定を変えた必然性という意味で、「今後フライトがらみのシーンをどう使うか」は称賛か批判かの分岐点になりそうだ。

今後は「誰の恋を応援する?」で盛り上がる

 今秋は13年ぶりの『まだ結婚できない男』、12年ぶりの『帰ってきた時効警察』(テレビ朝日系)という久々の続編が話題を集めていたが、一方の当作は昨年放送され、映画版が夏に公開されたばかり。

 勢いこそあるものの、「短期間でやりすぎではないか?」という懸念もあっただけに、ここまでのクオリティであれば称賛されていいのではないか。とりわけ、演技派だけをそろえたキャスティングは今作でも健在で、ただのイロモノドラマにならず、異色の純愛コメディとして成立している。

 もともと『おっさんずラブ』は男性層の支持が限定的で、女性層からの圧倒的な支持を得た作品。さまざまなタイプの男性を楽しめる上に、「誰の恋を応援するか?」で盛り上がれるため、今作も不満があっても辛抱強く最後まで見てもらえる可能性は高い。

 最後に「人を好きになるとは、どういうことなのか?」というテーマさえ伝われば、いまだ不満を漏らしている人も手のひら返しで称えるのではないか。

(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。

1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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