全席禁煙化で売り上げを大きく伸ばすことに成功した串カツ田中ホールディングスが、急に失速している。10月の既存店売上高は前年同月比8.2%減と大きく落ち込んだ。

前年割れは8カ月連続。 しかも、マイナス幅は決して小さくはない。4月が8.3%減、5月が8.2%減、6月が5.5%減、9月が6.5%減と、大幅マイナスの月が続出している。串カツ田中に何が起きているのか。

 串カツ田中がほぼ全店で全席禁煙を始めたのは2018年6月。喫煙客と相性が良い居酒屋業界では、顧客の流出を懸念して禁煙化に二の足を踏む店が少なくないが、串カツ田中はいち早く禁煙化に動き出した。顧客流出を恐れない行動は、喫煙を好まない人から喝采を浴び、評判を上げることに成功した。

 売り上げに関しても当初は上々だった。「禁煙化感謝祭」と題して、串カツ全品を100円(税別)に値引きするキャンペーンなど販促を積極的に実施したほか、一部の店舗で土曜・日曜の開店時刻を早めて昼食・昼飲み需要の取り込みを図ったことが功を奏し、集客に成功した。既存店売上高は禁煙化を始めた18年6月こそ2.9%減とマイナスになったが、7月は1.9%増、8月が9.7%増とプラスに転じ、10月は11.6%増、12月が13.7%増と大きく伸ばすことに成功した。

 串カツ田中によると、禁煙化後の18年6~11月と前年同期間とでは、客層が大きく変わったという。特に大きく変わったのが「会社員・男性グループ」と「家族連れ」で、会社員・男性グループの構成比は7.0ポイント低下し31.1%に減った一方、家族連れが7.5ポイント上昇し13.4%に増えている。

 これは、禁煙化によって喫煙する会社員や男性グループが減った一方で、タバコの煙を嫌う家族連れが増えたということだろう。つまり、新たな顧客を開拓し、売り上げを大きく伸ばすことに成功したといえる。だが、好調な業績は長くは続かなかった。

 禁煙化して半年は好調に推移した。前述したように、前年同月比2桁増も珍しくなかった。しかし、19年に入ると1月は2.8%増、2月が3.2%増と伸び率が低下。そして3月はマイナスとなり、その後は10月まで8カ月連続でマイナスが続いている。

なぜ失速したのか

 なぜ好調な業績が長く続かなかったのか。まずは「知名度向上」の効果が一巡したことが挙げられる。

 禁煙化を打ち出す前の串カツ田中は、「知る人ぞ知る大阪のB級グルメを扱う居酒屋チェーン」という位置付けで、知名度は低かった。当時、居酒屋チェーンは禁煙化すると大きな打撃を受けるとみられていたが、串カツ田中は率先して禁煙化を打ち出したことで、その挑戦する姿勢に関心と喝采が集まり、知名度と評判を高めることに成功した。

 加えて、ビジネスパーソンに人気の経済情報番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に取り上げられたことも大きい。

禁煙化し始めて約2カ月後の18年7月26日の放送で、串カツ田中が大々的に紹介された。そのなかで、禁煙化に向けた取り組みも紹介されている。これが影響したと思われるが、放送翌月の8月の既存店客数は12.1%増と大きく伸び、売上高も9.7%増と大きく増えている。

 知名度向上による集客は、家族連れなどの取り込み以上に大きかったのではないか。串カツ田中を知って興味を持った人が店に行くようになり、それにより客数が向上した面がありそうだ。ただ、そうした人たちすべてをリピーターにするのは難しい。興味本位で行った人はリピーターになりづらいため、反動としてその後に客数が減った面もあるだろう。

 他方、禁煙化で客単価が低下したことも大きい。新たに家族連れを開拓することに成功し子ども客が増えたが、それにより「お通し」が減ったほか、単価の低いソフトドリンクの注文が増え、客単価の低下につながった。また、集客に向けた割引キャンペーンを実施したことも、客単価の低下につながっている。

 実際、禁煙化後は顕著に客単価が落ち込んだ。禁煙化が始まった18年6月は前年同月比5.0%減と大きく落ち込んでいる。

その後もマイナス傾向が続き、禁煙化以後19年10月までで客単価が前年を上回ったのは19年9月のみとなっている。

 客単価が落ち込んでも、客数増で補えれば問題はない。しかし、そうはならなかった。18年12月~19年10月の客単価は、前年同期比3.3%減と落ち込んだが、客数が1.1%増と微増にとどまり客単価の落ち込みを補いきれず、売上高は2.3%減とマイナス成長となっている。

盗撮問題の影響

 業績不振は、昨年12月に起きた「盗撮問題」の影響も大きいだろう。フランチャイズ加盟店が神奈川県内の4店舗の更衣室に無断でカメラを設置し、その映像が流出してしまったのだ。禁煙化で知名度向上とイメージアップに成功した矢先の出来事で、これにより串カツ田中のイメージは大きく低下した。

 同問題が起きた翌月以降、客数は伸び悩んでいる。18年12月は18.4%増と大きく伸びていたが、19年1月は5.3%増、2月が6.2%増、3月が4.1%増と伸び悩んだ。そして4月以降はマイナス傾向が続いている。盗撮問題によるイメージ低下が少なからず影響したと考えられる。

 昨今はイメージ低下で客離れが起き、業績が悪化するケースが少なくない。

たとえば、回転ずしチェーン「くら寿司」と定食チェーン「大戸屋ごはん処」は、アルバイト従業員による不適切な動画が拡散して炎上する「バイトテロ」がそれぞれ今年2月に起きたが、それによりイメージが低下し、それ以降の客数はどちらも大きく落ち込んでいる。

 大塚家具や居酒屋大手のワタミもイメージ低下で業績が悪化した。大塚家具は実の親子が経営権をめぐって争い、ワタミは過労自殺者を出したが、その後に業績が悪化している。

 串カツ田中もこれらの企業と同様、盗撮問題によりイメージが低下し、客離れが起きた面があるだろう。

 このように串カツ田中は成長に急ブレーキがかかったが、店舗数が大きく増えたことで18年12月~19年8月期の連結決算は大幅な増収増益となっている。売上高は前年同期比36.4%増の74億円、営業利益は30.0%増の5億1400万円だった。純利益は14.5%増の3億8400万円だった。店舗数は期中に28店増え、期末には194店になっている。

 店舗網の拡大で決算は良かった。とはいえ、既存店の不振が長く続けば深刻な状況に陥らないとも限らない。ここが踏ん張りどころといえそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。

立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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