11月17日、福井県敦賀市の民家で70歳の岸本太喜雄さんと90代の両親の3人の遺体が見つかった。3人の遺体が発見されたとき、太喜雄さんの妻の71歳の政子容疑者は自宅にあった睡眠薬を飲んでいて、病院に搬送されたが、命に別状はなく、殺人容疑で逮捕された。
政子容疑者は、「3人の首を絞めた」と供述しているという。夫と義父母の介護を1人でしていたらしく、最近は周囲に「体調が悪い」「しんどい」「介護に疲れた」などと漏らすことがあったようだ。こうした状況から、介護疲れから抑うつ状態になり、追い詰められた末に夫と義父母を殺害し、犯行後睡眠薬を飲んで自殺を図ったものの、死にきれなかった可能性が高い。
このように介護うつから無理心中を図る悲劇が後を絶たない。一体なぜなのか? その理由を、介護うつの患者を数多く診察してきた精神科医としての長年の臨床経験にもとづいて分析したい。
介護うつと自殺願望介護者自身が精神科でうつ病と診断されていなくても、介護うつに陥っている人は相当多いと考えられる。というのも、同居の主な介護者について、日常生活での悩みやストレスの有無を調べたところ、「ある」と答えた人が69.4%にのぼったからだ。性別に見ると、男性では62.7%、女性では72.4%で、女性のほうが悩みやストレスを抱えている割合が高い(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。
これは、夜何度も起こされて眠れなかったり、「献身的に介護しているのに報われない」と感じたりすることにもよるのだろうが、それだけでなく、介護がいつまで続くかわからないということにもよるのではないか。