今回は特定支出控除について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。

亮子「最近、非常勤の役員を務めさせていただく機会が増えてきたのだけど、非常勤役員の報酬、給与所得でなく事業所得にできないものかなぁ」

啓子「一般的には、給与所得でしょうね」

亮子「役員の職務のために、結構経費を使うのだよね。

でも、非常勤役員だし、会社経費を申請しにくいし、いちいち申請するのは機動性に欠ける。せめて、役員報酬から経費として差し引けるといいのにな、と」

啓子「なるほど。それには特定支出控除の制度が利用できるかもしれません。いろいろ条件はありますけれど、それで節税できるケースもありますよ!」

もしも英会話スクール代が経費になったら

 もしも英会話スクール代が経費として認められて、税金が減ったらうれしいですよね。一般的に、会社員の場合には、英会話スクール代などの支出は経費にならないことはよく知られています。しかしながら、一定の場合には「特定支出控除」という税金の仕組みを使って、経費にできる可能性があります。特定支出控除とは、研修費や資格取得費など一定の支出がある年に、税金を計算する際に課税される所得から一定金額を減らすことができる制度です。つまり、スクール代などの支出を経費のように所得から差し引くことができ、課税される所得が減るため、税金が安くなるという仕組みです。所得から差し引くことができる制度なので、所得から差し引くことができる額×税率(所得税率+住民税率)が節税効果となります。

 特定支出控除は、一定の基準金額を超えた支出がないと適用することができません。基準を超えた金額を所得から差し引くことができる金額だからです。この基準金額、かつては年収によって異なっていたのですが、現在は年収がいくらであっても「その年の給与所得控除×2分の1」が基準となります。

給与所得控除について詳しくは後述しますので、ここでは給与所得控除の計算方法を示しておきます。

 この給与所得控除の金額から、特定支出控除の基準金額を算定します。たとえば、年収が(1)300万円、(2)500万円、(3)700万円であれば、それぞれ上記の計算式に2分の1を掛けた金額(1)54万円、(2)77万円、(3)95万円が基準金額となります。これら基準金額を超える特定支出があってはじめてこの制度を利用することができます。金額を見てもわかるとおり、適用のハードルは高いのですが、条件を満たしているなら、この制度を使わないともったいないですよね!

 次に具体的にどれぐらい税金が安くなるのか確認しましょう。たとえば、年収500万円の会社員が、英会話スクールと書籍に年間100万円使ったケースで、(1)特定支出控除と認められない場合と(2)特定支出控除と認められた場合の税金の違いを説明します。

(1)特定支出控除と認められない場合

課税される所得233万円※ ×税率20%(所得税率10%+住民税率10%)- 控除額9.75万円=税金 約36万円

(2)特定支出控除と認められた場合

特定支出控除の基準金額 =給与所得控除154万円×2分の1 =77万円

特定支出控除額 =支出100万円―77万円=23万円

(課税される所得233万円 ※-特定支出控除 23万円)× 税率20%(所得税率10%+住民税率10%)- 控除額9.75万円=税金 約32万円

(1)と(2)で比較すると税金が約4万円安くなります。支出したスクール代等100万円から比較すると4万円というのは節税効果が低いようにも感じますが、それでも確定申告するだけで4万円が戻ってくるので、適用できる機会があれば、ぜひ試してほしいです!

※年収500万円-社会保険料控除75万円-給与所得控除154万円-基礎控除38万円

=課税される所得233万円

 独身で給与所得控除・社会保険料控除・特定支出控除・基礎控除以外の所得控除・税額控除を適用しないこと、社会保険料は年収×15%を前提に計算をしています。また、実際の住民税計算と計算方法が異なりますが、説明の便宜上簡易的な計算を行っています。実際の税額計算と異なりますのでご留意ください。

会社員の経費として認められるもの

 さきほど給与所得控除ということばが出てきました。「会社員は経費を使っても収入から差し引けないから、事業経費を事業収入から差し引くことができる個人事業主と比較すると不平等だなぁ」と考えてる方もいるかもしれませんが、実は税金を計算する際には、すべての会社員の給与収入から一定の経費とみなされる額が差し引かれています。

これが「給与所得控除」です。給与所得控除は税金の計算上、会社員の経費のような役割をします。

 そして特定支出は、さらに上回る金額の大きな支出があるなら、その分税金が優遇される制度なので、給与所得控除に加え、特定支出控除額を所得から差し引くことができます。ちなみに、特定支出控除は会社従業員だけでなく、社長や取締役、監査役などの役員報酬を受け取っている役員の方も使える制度です。

特定支出控除として認められるためには

 残念ながら、なんでもかんでも特定支出控除の対象として認められるわけではありません。次にあげたものが対象となります。

1.一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)

2.転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)

3.職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)

4.職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)

5.単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)

6.次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)

(1)書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)

(2)制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)

(3)交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)

 また、対象となるポイントとしては、仕事で必要な支出であること、自分で支払いを負担していることです。会社が支出を負担している場合には特定支出の対象となりません。さらに、特定支出控除を適用するには確定申告が必要になるのですが、その際に会社が仕事上必要なものであることを証明する「特定支出に関する証明書」を添付する必要があります。会社が仕事上必要だと認めた支出でなければ、特定支出控除の対象となりませんので注意してくださいね。

亮子「会社の証明が必要なのね」

啓子「はい。

でも、認められれば節税効果はあります」

亮子「証明ってどうするの? 確定申告は?」

啓子「それは次回、説明しますね」

(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

●徳光啓子

2009年 公認会計士試験合格

2011年 明治大学商学部卒業

2011年から2016年、有限責任あずさ監査法人に勤務し、主に上場企業(製造業)を中心に監査業務に携わる。

2016年から税理士法人タックス・アイズにて企業の各種税務申告業務や会計・税務コンサルティングを行う。また、同年より茨城大学にて非常勤講師として原価計算論等の講義を行う。

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