世帯視聴率は1話から8.9%、7.9%、6.7%と1ケタの上に右肩下がり(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の『10の秘密』(カンテレ、フジテレビ系)。
しかし、秘密が連鎖し、先が読めないストーリーで、ネット上にはおおむね好意的な声が並び、3話終了後には「急におもしろくなってきた」という声が急増しているのも事実だ。
つまり、より多くの人々に見てもらうことこそできていないが、「見ている人たちにはしっかり刺さっている」というタイプの作品なのだろう。今冬は事件や医療をモチーフにした作品が大半を占めるなか、『10の秘密』のようなオリジナルの長編ミステリーがまぶしく見えるのは当然なのかもしれない。
これまでの物語を振り返りながら、当作の魅力と3話終盤の急展開を掘り下げていく。
必要以上の重さを感じない脚本・演出物語はシングルファザー・白河圭太(向井理)の娘・瞳(山田杏奈)が誘拐されるところからスタート。圭太は動揺しながらも犯人の指示に従い、元妻・仙台由貴子(仲間由紀恵)と連絡を取ろうとするが、彼女は姿を消していた。
懸命に娘を探すなか、圭太はSNSにアップされていた由貴子のセレブ暮らしがすべて嘘で多額の借金を抱えていたこと、なんでも話せる間柄と思っていた瞳が学校や部活を休み、塾もやめていたことを知ってしまう。
さらに、圭太が取引先からの賄賂を受け取ってしまったこと、由貴子が顧問弁護士をしていた帝東建設の不正、10年前に幼い瞳が大規模な火事を起こしていたことが明らかになった。
誘拐、借金、賄賂、企業不正、火事……これだけ不穏なムードの作品ながら、ヒリヒリするような緊迫感、強烈な怒り、焦りや葛藤などは、いい意味でそれほど感じさせない。命をめぐるシリアスな医療ドラマや刑事ドラマが多いなか、「視聴者に必要以上の重さを感じさせない」とバランスを取っているのではないか。
重々しさを感じさせない理由は、主流となっている急展開や過激な描写を詰め込んだハイテンポな脚本でも、『日曜劇場』でよく見られる扇情的な演出でもないからだろう。裏を返せば、リアルタイム視聴につながりやすいそれらの脚本・演出に頼らない作品だから、世帯視聴率が取れないのだ。
世帯視聴率が取りにくいことを承知で、「家族、金、地位、愛情、それぞれを守るために隠された秘密を一つひとつ丁寧に描こう」とする制作姿勢は、現在のドラマ業界では希少。
第3話では、瞳が誘拐犯から解放された一方、終盤にはそれを吹き飛ばすほどの大波乱が待っていた。
これまで妻に去られ、娘に裏切られ、オロオロしていただけだった圭太が、賄賂がバレて会社をクビになり、突然のキャラ変。親に金を無心し、それが叶わぬと帝東建設の長沼社長(佐野史郎)に不正を指摘して恐喝した。
新たな仕事を探すどころか恐喝に走り、さらに瞳が起こした大火事を隠蔽したことも含め、かなりのヒールに激変した圭太。「主人公が最大の悪では?」と思わせるほどの覚醒ぶりであり、単なる銭ゲバではないであろうことから、まだ明かしていない大きな秘密をにおわせている。
一方の由貴子も、「娘が大事」と手を負傷しながら助け出したが、実は誘拐犯の二本松(遠藤雄弥)とつながり、大金を受け取っていたことが発覚。つまり、誘拐事件はこれで決着ではなく、さらなる裏があるということが明らかになった。
その他の登場人物も、まだまだ波乱含み。由貴子の恋人で帝東建設社員の宇都宮竜二を演じる渡部篤郎、帝東建設の長沼社長を演じる佐野史郎。彼らほどの演技派俳優が単なる不正のみの悪事で終わるとは考えにくい。それは圭太の母を演じる名取裕子も同様で、「気ままな年金暮らしを送る老女」という役柄で終わることはないだろう。
若手演技派の仲里依紗が演じる石川菜七子にも危うさがあり、秘密を抱えているのは間違いない。圭太とは幼なじみで、優しい保育士という善良なキャラクターは、むしろ悪人に変わったときのギャップが大きいからだ。また、瞳が信頼する音大生ピアニストの伊達翼(松村北斗)は、火事の関係者と思わせる態度を見せていた。
演技派の助演俳優を揃えたからこそ、「それぞれに見せ場があるはず」「大どんでん返しがありそう」というムードを醸し出している。何しろ「10」も秘密があるのだから、最後まで大いに期待していいのではないか。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。