スマートフォン(スマホ)の普及に伴い、リアルタイムな連絡手段としてキャリアメール(携帯電話向け電子メール)に代わって爆発的な広がりを見せる無料通話・メールアプリ、LINE。

 今やその利用者数は国内だけで5000万人を超え、国内スマホ利用者の実に9割が使用しているという状態である。

しかし、その一方で便利さと引き換えに、子どもの学力や集中力が低下しているとの指摘がある。

 子どもの学力低下が叫ばれ始めたのは最近のことではないとしても、もしこれが本当だとすれば、将来につながり得る問題として無視することはできないだろう。では、実際のところ、子どもの間でLINEの利用による学力や集中力低下の傾向は見られるのだろうか?

●LINEが鳴るたびに集中力が途切れる

 スマホの使い方やインターネット依存症について、さまざまな場所で講演を行っているエンジェルアイズ代表・遠藤美季氏は次のように語る。

「私が独自で中高生に行ったアンケートでは、『スマホで(LINEを含めて)インターネットなどを使い始めたことで、成績の低下を自覚している』という意見が多く見られます。また保護者や生徒に実際に話を聞いてみても、やはり学力の低下を感じている子どもは増えています」

 学力・集中力の低下は現実問題として起こってしまっているようだが、その原因はどこにあるのだろうか?

「大きな原因は使い方にあります。勉強中であっても常にスマホをそばに置き、友達などからLINEで連絡があると、そのたびに触ってしまうような子であれば、勉強時間は確実に減りますし、集中力も当然低下するでしょう。さらに問題なのは、子どもたちがそれを自覚していないことです。試験前にLINEを使って友達と勉強を教え合うのは効果的だと思っている子が多いのですが、実際はLINEに時間を取られているので、自分一人で勉強をするよりも勉強時間は短くなってしまっている傾向が強いのです」(同)

 さらに、学力や集中力の低下は依存による影響も大きいと続ける。

「中には『LINEを使っていないと不安になる』と言う子もいます。10代はまだまだ人生・社会経験も浅く自分の居場所を模索しており、常に不安にとらわれていることが多い。その不安をスマホで埋めようとしますので、次第に依存していってしまうのです。加えて、学力や集中力が低下すると指摘されているツールは、テレビなどほかにもいくつかありますが、LINEをはじめとした共有アプリは双方向のやり取りですので、テレビのようにCMで一旦スイッチをオフにするといったことができません。
そのため“やめどき”が見つからず、延々とやり取りを続けることになります。その結果、学習時間や睡眠時間を削られ、学力も集中力も低下していってしまうのです」(同)

 使えば使うほど依存し、学力や集中力も低下してしまうのでは、子どもたちにとってLINEはデメリットが非常に多いツールなのではないか。

●小中学生にはリスクが大きい

「LINEは家族との連絡手段としては便利なのですが、中学生ぐらいまでであれば、使わなくても学校生活に困ることはありません。少なくとも私は、小中学生の子どもたちにとってメリットよりリスクのほうが大きいものだと考えています。確かにLINEを使っていないことでいじめを受けたという話も聞きますが、むしろ私はLINEを使っていることで、自分や友達への“いじめの現場”を画面上でじかに目撃してしまう精神的なダメージや、友達の情報を知っておかなければならないという情報依存による時間の浪費のほうが問題は大きいと思います。LINEをグループで利用する場合、一度開くとしばらく会話の流れを追ってしまいますから、もしそこで自分の悪口が交わされていれば、それをしばらく見続けることになります。自分の知らない所で悪口を言われているという噂を聞くのと、実際に目にしてしまうのでは、後者のほうが精神的に受けるダメージが大きいのは明らかでしょう」(同)

 遠藤氏は、LINEなどの通信アプリは子どもの健全な成長の妨げになりかねないと危惧する。しかし、ここまで普及したLINEを強制的にやめさせるのは現実的には難しい。では、子どもはどのように利用していくのがいいのだろうか。

「私はLINEは中学生では必要ないと考えています。実際に利用していなくても全く不自由していない子はいます。しかし、社会に受け入れられてここまで広まっていることを考えると、子どもたちにとってリスクの大きいツールとはいえ、強制的にやめさせることがいいとは断言できません。
勉強する間は他の部屋にスマホを置いたり、機内モードに切り替えるなど集中できる環境を作ったり、テスト前は使わないと決めて親に預けたりと、工夫して使っている子どもも少なくないからです。このように使い分けがきちんとできるようであれば、依存もしませんし、学力や集中力も低下しないでしょう。大事なのは、自分をコントロールしてうまく距離をとりながら利用することだと思います」(同)

 包丁を「人殺しの道具だ」と言って発売禁止にできないのと同様、すべてのツールは使い方次第。LINEも正しく使えば人間関係を潤してくれたり、仕事の効率化が図れたりと多くの便益をもたらしてくれる。

 だが、不適切な使い方をしたり必要以上にのめり込んでしまえば、便利さは一転して人生にネガティブな要因をもたらすツールにもなり得る。LINEがはらむリスクを理解した上で、使うべきか、使わざるべきかを判断し、使う場合にはどのように利用するのかを慎重に考えなければならない。
(文=日下部貴士/A4studio)

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