「VR(バーチャルリアリティ)元年」といわれた昨年の10月、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが満を持してゲーム市場に投入したのが「PlayStation VR」(以下、PSVR)だ。
発売直後こそ世間の注目を浴びたものの、それから10カ月ほどたった現在、PSVRが話題に上ることはほとんどなくなってしまった。
鳴り物入りで発売された革命的デバイスであるはずのPSVRが、なぜ話題にすら上らなくなっているのだろうか。
●PSVR、性能の低さにガッカリする人が続出?
PSVRとは、「まったく新しいゲームプレイ感覚が楽しめる」とうたったVRシステム。ゲーム機本体の「PlayStation 4(PS4)」とコードで接続したVRヘッドセットをかぶると、360度全方向を取り囲む3D空間が出現する。それにより、圧倒的な臨場感と没入感を体験できるという触れ込みだった。
「PSVRの性能には、正直ガッカリという印象でした。特に解像度は“2世代前のゲーム”に毛が生えた程度でしかなく、プレイ画面はかなりボヤけます。さらにヘッドセットをかぶっても、連動するはずの視点とゲーム操作の間にズレが大きいため、メディアで騒がれたほどの没入感や臨場感は得られませんでした」
こう残念そうに語るのは、ゲーム専門誌「ゲームラボ」(三才ブックス)編集部の後藤将之氏だ。
「同時発売のタイトルにも目玉になるものがなく、現在もそれほどレパートリーは増えていません。結局、PSVR購入者の満足度が低かったので、ソフトの需要も伸びていないという悪循環です」(後藤氏)
2017年6月現在、PSVR対応ソフトは全90本。このうち、もっともメジャーなタイトルが、今年1月に発売された『BIOHAZARD 7 resident evil(バイオハザード7 レジデント イービル)』だ。
しかし、海外のサイトが公開している『バイオハザード7』のゲームプレイ情報によると、同タイトルの全世界220万人以上のユーザーのうち、PSVRでプレイしたユーザーは約23万6000人(6月26日時点)。
次世代の革新的デバイスとして期待度が高かっただけに、発売初期にPSVRに飛びついたゲームファンたちの落胆は大きく、後藤氏は「少しプレイしただけですぐに飽きてしまった、という人が多数を占めています。現在も、継続して遊んでいるという人は多くないという印象」と語る。
しかも、ゲームファンから不満が続出しているにもかかわらず、PSVRの本体価格は約5万円もする。ただの“オモチャ”にしては高すぎる値段であり、ライトユーザーが気軽に遊べるわけでもない。PSVRは、なんとも中途半端なシロモノなのだ。
●“小出し戦略”でブーム存続を図るPSVR
そもそも、PSVRは発売当時、なぜあれほど熱狂的に騒がれたのだろうか。そこには、ゲーム業界の苦しい現状が見え隠れする。
「若い世代を中心に、スマートフォンアプリのゲームが主流になってきているなか、新しい据え置きゲーム機器を出す以上、『ゲーム性とは別の付加価値』を打ち出して話題づくりをすることが何より重要です。
PSVRの場合、初期出荷数200万台のうち、日本国内に出荷したのはわずか5万台程度。供給が極端に絞られたことで品薄となり、それで騒がれた面が大きかったと思います」(同)
現在、PSVRは追加生産分の購入を抽選方式のみで行っているが、こうした販売手法を続けるのも同じ理由からだという。
「ガンガン売り切ってブームを完全に終了させるよりは、小出しにしながら、なんとか発売当初の話題性を存続させたいからでしょう」(同)
●任天堂の「3DS」を彷彿とさせる、PSVRの末路
PSVRの惨状を見て思い出されるのは、11年に任天堂が発売した携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」(以下、3DS)のケースだ。3DSの事情に詳しいゲームライターが語る。
「3DSは発売当時、立体視による3D画面でのプレイが、従来のゲーム機にはない新機能として注目を浴びました。しかし、キラータイトルが不足し、また前世代機の『ニンテンドーDS』と比べて高価だったことなどから、販売台数が伸び悩み、発売からわずか半年で異例の本体価格引き下げを余儀なくされたのです」
値下げなどのテコ入れにより、3DSは現在、国内で2300万台(17年3月時点)、全世界では6600万台(同)を販売するヒット商品となっている。
しかし、その一方、昨年の年間ソフト売り上げ首位となる381万本(国内)を記録した『ポケットモンスター サン・ムーン』をはじめ、現在の3DS向けのソフトには「3D機能非対応タイトル」が数多く発売されているという。
「一番の目玉のはずの3D機能が形骸化し、ユーザー側も3D機能に期待していないという、なんとも皮肉な結果となっているのが3DSの現状です。『3D機能は新しいゲームとしてのインパクトはあったが、機能はあくまでおまけ。ゲーム性そのものの評価には直結しない』ということを、3DSが身をもって証明してしまったわけです」(前出のゲームライター)
この構図は、現在のPSVRを取り巻く状況とそっくりだ。しかも、3DSはゲーム機本体だが、PSVRの場合はPS4の付属デバイスでしかない。このままなら、フェードアウトしてしまうのは時間の問題だ。
「PSVRは、再来年くらいには『あんな変なのもあったな』なんて懐古されているのではないでしょうか」(後藤氏)
なんとか盛り返して市場を開拓していくのか、それとも3DSのような皮肉な結果に終わるのか。PSVRは、まさに正念場を迎えたといえそうだ。
(文=森江利子/清談社)