「阪神タイガースの球団幹部は、概ね“金本擁護派”でした。それもそのはずで、金本さんの監督就任以降、シーズンチケット、シート席は開幕前の段階で異例の売れ行きでした。
10月11日、阪神タイガースは17年ぶりのシーズン最下位の責任を取らせるかたちで、金本知憲監督が辞任を発表した。球団のレジェンドで“ドル箱”でもある金本の辞任については球団内外からも疑問の声が上がり、事実上の解任ではないかと波紋を広げている。揚塩健治球団社長が、矢野燿大新監督との就任交渉の際に、「(金本は)事実上の解任だった」と発言したとの報道も一部で出ている。
「金本の続投は、少なくとも今年の夏の段階では既定路線でした。今季の成績面は振るいませんでしたが、それでも若手を積極的に起用する姿勢や、旧態依然とした体質の球団にあって変化を求める姿勢を、ファンや球団も一定の評価はしていましたから。ただ、選手とコーチ間に軋轢が生じるなど、選手から不満の声があったのも事実です。それよりも、SNS(ソーシャルネットワーキング)上での誹謗中傷、ヤジが親会社の目にダイレクトに入ってきたことが大きかったのでしょう。このご時世ですから、親会社も極度にそういった声を恐れていた面もあると思います。
皮肉にも、“超変革”を掲げた金本・阪神は、古くから変わらない体質の親会社によって幕を下ろされることとなった。
金本は3年間の在任期間に、営業面で多大なる効果を上げた。2014年に260万人まで動員者数が落ちていた年間観客動員数も、17年は300万人を超えるまでに回復させた。これは1ゲーム差で優勝を逃した10年シーズンを超えるもので、過去10年で最高の記録である。
「観客動員数よりも大きいのが、球団イメージが変わったことでしょう。これまで阪神は、“誰が監督になっても変わらない球団”と思われていました。ところが、金本監督が就任すると若手を積極的に登用し、ベテランと若手が入り乱れる競争力あるチームへと変貌しました。継続していた鳥谷敬の連続試合出場記録を止めるなど、金本以外であれば批判が噴出していたと思われる大胆な采配も行いました。さらに、阪神を取材するマスコミの数が増えたり、グッズ販売も増え、スポンサーの協力体制も変わりました。球団内部にも金本ファンが多く、数字に表れる効果以外にも大きな恩恵がありました。就任後の2年間は、まさに“金本フィーバー”といえる状況だったと思います」(前出・スポーツ紙記者)
●“生え抜き”にこだわる親会社、なぜ矢野を起用?
その一方で、現場レベルでは金本采配に対して疑問を投げる声があったという。
「なぜ明らかなイップスの藤浪晋太郎を、あれだけノックアウトされても使い続けるのかなど、一部の采配に疑問を呈する声がありました。
今シーズンは、主力の高齢化やウィリン・ロサリオなど外国人選手の不振、上本博紀ら主力の離脱や、若手の伸び悩みという複数のマイナス要素が重なり、6月以降浮上のキッカケを掴めずにシーズンを終えた。
今回のような監督交代騒動は、阪神にとって珍しいことではない。1984年にも監督とオーナーが同時交代したほか、リーグ優勝に導いた故星野仙一氏が健康上の理由で監督を辞任した際、後任人事で星野色を取り除くなど、親会社が強く意見を出すケースは昔から多くあった。
今回の解任に関しても、“生え抜き”にこだわる親会社の意向が色濃く反映されているのではないかと、前出の球団関係者は指摘する。
「阪神は昔から、生え抜きかどうかを異常に気にする球団です。だから、“外様”であった金本さんを快く思っていなかったグループも存在しました。金本さんはコーチ陣をも自分の腹心で何人か外部から連れてきたこともあり、金本派ではないOBコーチは面白くなかったようです。先ほども述べたように、広島東洋カープから連れてきたコーチにしか心を開かなかったことに加え、選手からの不満も重なり、反分子が親会社に直訴したのではないかとの疑惑もあります。
新監督となった矢野も、もともとは中日ドラゴンズ出身で、純粋な生え抜きではない。では、なぜ阪神は矢野登用に踏み切ったのか。
「金本さんよりも矢野さんのほうが扱いやすいと判断したからではないでしょうか。両者ともに純粋な生え抜きではないという点が皮肉です。5年契約という報道も出ていますが、世間体を考えてのことで、成績が振るわなければ当然、早い段階での解任もあるでしょう。そして、『やはり生え抜きでないと』と、したり顔で次期監督に本命を持ってくる――。親会社は、そういうシナリオを描いているのではないかと思います」(同)
内部からこのような声も出ているが、果たして矢野政権はどのような道を歩むのだろうか。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)