「ココイチ」の愛称で知られる「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋が好調だ。
11月の国内既存店売上高は、前年同月比2.3%増だった。
壱番屋の国内店舗のうち97%を占めるココイチは、8月末時点で1263店。1000店を超える外食チェーンは「マクドナルド」「すき家」「吉野家」などいくつかあるが、その数は少ない。そういったなかでココイチの店舗数は輝かしいものがある。しかも、緩やかながらも店舗数は増えており、5年前からは3.5%増加している。すき家や吉野家はそれぞれ1000店を超えてはいるものの近年は横ばいが続いており、成長は止まっている。1000店を超えていて、かつ、現在も増えている外食チェーンとなると、ほんの一握りしかないのだが、そのひとつがココイチなのだ。
ココイチといえば、創業者の宗次徳二氏、直美氏夫妻がボランティアの活動資金に充てることを理由に、2015年12月に資産管理会社の保有分を含む全株式をハウス食品グループに売却したことが話題になった。ハウス食品は当時第2位の株主で、カレーの原材料の供給元でもあった。徳二氏は02年に浜島俊哉氏(現社長)に社長職を譲り、経営の一線からはすでに退いていたが、全株式を売却したことで、一切合切、身を引く格好になった。
創業家が完全引退しハウス食品が筆頭株主になったことで、ココイチの行方に不安を覚える声も上がっていた。しかし、それらは杞憂に終わった。直後の15年12月~16年5月の国内既存店売上高は、前年同期比1.9%増と好調だった。続く16年6月~17年2月こそ0.9%減だったものの、17年3月~18年2月は1.8%増、18年3~11月は2.1%増と好業績が続いている。
●ハウス食品がココイチ以外を排除?
壱番屋の業績は堅調だ。直近本決算の18年2月期の売上高は前年同期比10.2%増の494億円(前の期の17年2月期が9カ月の変則決算のため、前年同期間との比較)だった。国内が引き続き好調だったほか、中国と台湾でココイチを運営するハウス食品グループの事業会社2社を子会社化したことが大きく影響し、大幅な増収となった。なお、近年は海外展開にも力を入れており、アジアを中心に8月末時点で163店を展開している。
ココイチでは、家庭の素朴な味のカレーを提供しており、飽きがこないのが特徴だ。万人受けする味なので、幅広い層を取り込むことができる。飽きがこないよう、トッピングが充実しているほか、カレーソースの辛さやライスとソースの量を調節できるのが特徴となっている。
ココイチが今もなお元気なのは、強力なライバルがいないことも大きいだろう。国内2位とみられる「ゴーゴーカレー」の店舗数は現在約70店で、ココイチの5%程度にすぎない。1位と2位でこれだけ開きがある飲食業態は、ほかに見当たらない。このようにココイチには強力なライバルがいないため、1000店を超えた今でも成長が止まらず、店舗数と既存店売上高を伸ばすことができているといえそうだ。
ココイチに強力なライバルがいないのは、ハウス食品の存在が大きい。チェーン展開でカレーを販売するとなると、大量のカレーソースが必要で、それには原材料となる大量のカレールーや香辛料などが必要になるが、香辛料は海外産がほとんどで、安定的に調達できる企業となると、ハウス食品などごく一部に限られてくる。ココイチはハウス食品からカレーの原材料を安定的に調達できたので、巨大な店舗網を築くことができた側面があるのだ。
うがった見方をすれば、ハウス食品がココイチ以外のカレー店を市場から締め出していると考えることもできる。ハウス食品はルーの供給において強大な力を持っているので、ココイチにはルーの供給などで優遇し、ほかのカレー店には割高に供給するなどして競争力を抑え込むことも可能だろう。ハウス食品にしてみたら、大きなチェーンに一括して供給していったほうが効率は良い。そのため、ハウス食品がココイチ一強になるように市場を導いてきた側面があるのではないか。
●サービス力向上への地道な取り組み
カレーソースを集中加工できる製造工場を早くから立ち上げてきたことも大きいといえる。ココイチの1号店が誕生したのは1978年だが、翌79年には愛知県にチェーン本部を設立するとともに、製造工場をも開設している。97年には佐賀県、99年に栃木県にそれぞれ工場を完成させた。これらの工場でハウス食品から仕入れたルーなどを使ってカレーソースを製造し、全国の店舗に供給している。
カレーソースは、工場で集中加工するのに向いている。店舗は提供されたソースを温めるだけでカレーを提供できるようになる。そして、工場で集中加工すれば、規模の経済を発揮しやすい。とはいえ、集中加工できるほどの規模の工場を建設するとなると、莫大な費用がかかるほか、供給先となる店舗を多く抱えている必要があるため参入障壁は高く、誰もができることではない。参入障壁は高いが、壱番屋は早くから多店舗展開と工場の建設を同時進行的、効率的に行ってきた。
一方、ほかのカレー店では、カレーソースを店舗で製造したり、社外の工場に委託するところも少なくない。これだとコストが膨らみがちになってしまうが、壱番屋は自社の工場で集中加工することで規模の経済を発揮できるほか、中間マージンの支払いを省くこともできるので、コストを抑えることができている。
店舗のサービス力が高いのもココイチの特徴だ。
09年から始めた「ストアレベルマーケティング」も、店舗のサービス力向上につながっている。店舗個別の商品や販促を店舗従業員が考えて実施するというもので、地域の客層に合った商品を開発して「店舗限定メニュー」として売り出すなどしている。たとえば、かつて店舗限定で販売した焼きカレーパンを使ったハンバーガー「ココ矢バーガー」は、学生時代にハンバーガー店でアルバイトした経験がある店舗オーナーが思いつきで開発したもので、インターネットや雑誌などで紹介され、行列ができるほどのヒット商品になったという。ストアレベルマーケティングは従業員のモチベーションアップにもつながり、サービス力の向上に一役買っているのだ。
こういったビジネスモデルや取り組みが積み重なって、今日のココイチが出来上がっている。簡単には真似できないものがあるのではないだろうか。ココイチの成長はまだまだ止まりそうにない。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)