国内経済の指標ともいえる財閥企業・サムスンが数年ぶりに大幅な減益を見せるなど、経済に陰りが見え始めている韓国では、ここ数年、ベンチャーブームが再来しているとされている。

 韓国の第1次ベンチャーブームは、インターネットが普及し始めた1990年から2000年前半に起こった。

1997年にはアジア通貨危機で壊滅的な経済的大不況に見舞われることになるが、前後数年間にスタートアップやベンチャー企業への投資が急増することになる。現在、韓国大手IT企業として不動の地位を築き上げたNAVERやkakao、また大手ゲーム企業各社の登場時期も、その第1次ベンチャーブームと軌を一にする。

 一方で、「猫も杓子もベンチャー投資という風潮に煽られ、大きく損をした人々も少なくなかった」(現地記者)というような話は、韓国社会では語り草になっている。昨今、韓国では世界的にもまれにみる仮想通貨ブームが起きているが、当時はそれに近い様相を呈していたのかもしれない。

 あれから十数年の月日が経過した現在、財閥や大企業偏重に対する世間の批判の声が高まってきた国内政治の影響か、経済不況の出口が見えない悲壮感からか、はたまたAIが囲碁で棋士を負かしてしまった「アルファ碁ショック」などをきっかけにインターネットに続くテック系事業に夢を見る人々が増えたせいか、もしくはそれら複合的な要因によってか……とにかく、韓国でベンチャーブームが再燃しつつあるのだ。

●少ないベンチャーキャピタルへの投資

 では、韓国から新しい可能性を持った企業が次々と登場しているかといえばなかなかそうとはいえず、むしろ難しい状況にあるようだ。そのため韓国のベンチャー界隈からは、ベンチャーブームに警鐘を鳴らす意見も出てきている。韓国社会はベンチャー企業が育つ土壌がまだまだ未成熟で課題が山積しており、「ベンチャー文化」が根付いていないというのだ。

 例えば、韓国ではベンチャー企業やスタートアップに対するVC(ベンチャーキャピタル)の初期投資額がとても少ない。2016年、米国では4520件の投資契約、5815億ドルの投資取引額を記録している。欧州は総取引件数3420件、総取引額162億ユーロ。中国も合計1162億ドルがスタートアップに資金として流入した。
一方で、韓国は347のスタートアップに対し、約10億ドル程度の投資にとどまっている。AI関連など、次々とユニコーン企業が生まれている中国を尻目に、韓国では2014年以降、ユニコーン企業がひとつも生まれていないという厳しい状況もある。

●“安パイ”で手堅いプロジェクトが人気

 一方、大企業によるM&Aも活発ではない。韓国国内のベンチャー企業が順調に業績を伸ばし上場するまでには、平均で12年を要するとされている。そのため、経験や技術、資金面を支えてくれるM&Aが非常に重要となってくるが、その頻度がとても低い。2017年、米シリコンバレーでは593件のM&Aが成立したが、韓国国内ではわずか29件だった。スタートアップを含む韓国国内ベンチャーのM&A比率で見た場合でも、4%ほどしかない。

 また韓国の投資サイドは、すでに海外で成功を収めた技術を国内展開するようなベンチャー企業に投資する割合がとても多いのだという。つまり、流行をキャッチアップするにとどまっていたり、“安パイ”で手堅いプロジェクトに投資する傾向が強い。どのような技術やアイデアが世界的に爆発的な成長を遂げるか見抜くのが、投資サイドの仕事の醍醐味ともいえそうだが、その重要な役割をあまり果たせていないということになりそうだ。

 現在、米中貿易摩擦や国内政治の様相が複雑化していることもあり、韓国経済の停滞はますます深刻になるという専門家たちの分析もある。そんななか、求心力を持った新たな新興企業が現れるか否かは、韓国経済全体にとって非常に重要なファクターになると思われる。
まだまだ課題が多いとされる韓国のベンチャーブームだが、そこから新たな可能性が生まれるのか注視していきたい。

(文=河 鐘基/ロボティア編集部)

編集部おすすめ