賃貸アパート大手のレオパレス21は7日、建築基準法の規定を満たしていない施工不良物件が1324棟確認されたと発表された。問題物件の入居者は1万4443人に達し、特に天井の耐火性能が不足する641棟の7782人に速やかに転居を要請する。
同社は補修工事費用を特別損失として計上するため、2019年3月期の連結純損失が388億~400億円に拡大する見通しだとしているが、同社では昨年も206棟で住戸間を仕切る屋根裏の「界壁」に施工不備が発覚していた。
なぜ、このような大規模な施工不良問題が起きたのか。不動産ジャーナリストの榊淳司氏に話を聞いた。
――今回の問題には、レオパレス21特有の企業体質が影響しているのでしょうか。
榊淳司氏(以下、榊) 「ついに発覚したか」というのが感想です。レオパレス21はもともと問題の多い会社です。同社の物件の建設スタイルは、建材が現場に大量に輸送され、工務店は指示されるがまま現場で組み立てるというイメージです。施工段階で工務店側も違法の事実を薄々と感じながらも、なれ合いがあった可能性もあります。
1324棟での施工不良は、あまりにも多過ぎます。単なる施工だけの不備とは思えません。施工の前段階である設計図書や仕様書の段階から、踏み込んで調査すべきです。
――なぜ、これだけ多くの物件で違法行為が行われたのでしょうか。
榊 通常、建築許可の申請に対しては、自治体の委託を受けた検査機関は建築基準法に基づき、建築物などの建築計画が建築基準法令や建築基準関係規定に適合しているかどうかを着工前に審査します。着工後は、これらの規定に適合しているかを検査する完了検査がありますが、適合していなければ使用許可が下りません。実際には書類だけ基準を満たした内容にして脱法行為を行うことも可能性なのです。
ただし、自治体によりますが、たまに職員が現場に来ることがあります。自治体側が現場で不備を指摘した場合、現場監督が「すいません。直します」と言ったまま、そのままにするケースも考えられます。自治体職員も暇ではないですから、再度、現場を訪問することはなかったでしょう。それで現場は逃げ切っているケースも多いと思います。
●「サブリース契約」に要注意
――レオパレス21には建築士や建築施工管理技士はいますが、チェック機能は働かなかったのですか。
榊 彼らは、上にモノを申せる立場にいません。それよりもコストや利益を重視する構造があるのかもしれません。
――建築基準法違反の建物を建てるというのは、ほかのアパートブランドでもあり得るのでしょうか。
榊 サブリース契約を行っていて、ビジネスモデルが似通っている会社で思い当たるところはあります。もし、その会社がコスト・利益を徹底して優先している姿勢を貫いているのであれば、レオパレス21と同じ構造を抱えているので、可能性はあります。しかし、旭化成系や大和ハウス工業のような大手メーカーはコンプライアンスがしっかりしているので、可能性はほとんどありません。
――なぜ、レオパレス21でこのような事態が起きたのでしょうか。
榊 レオパレス21はアパート建築を地主に提案し、その地主がオーナーとなった物件を一括借上げして30年間家賃収入を保証する「サブリース契約」を武器に成長してきました。その営業スタイルは、まずはアパートが建設できる土地と地主を探し、猛烈なアプローチを仕掛けるというもので、首都圏などの土地情報に強く、地元の不動産業者との間で強い関係を築いてアンテナを張っています。営業担当者が不動産業者から「あそこの土地はアパートが建設できるよ。地主はAさん」などという話を仕入れています。
ビジネスモデルとしては、オーナーから建築費をもらい、次に建築してアパートの管理を一括して行います。
――地元の工務店に直接依頼すれば、違法な建物が建てられにくいのでしょうか。
榊 それはそうです。地元の工務店は地域に根差していますから、違法建築物を建てれば地元で評判が悪くなり、依頼が来なくなります。レオパレス21に頼むと建築費が安いということもあり、オーナーがサブリース契約を結んだケースもありました。ただし、レオパレス21側からその後に何度も契約改定をさせられたりするので、オーナー側の不満が多いのは事実です。
――今回はアパートでしたが、マンションでもあり得る話ですか。
榊 それは考えにくいです。たとえば、デベロッパーがマンション建築を発注し、設計会社が設計し、ゼネコンが建てることが一般的です。
●アパート経営は難しい時代に突入
――レオパレス21の施工不良は、1324棟ですみますか。
榊 これは同社の企業体質と構造的問題に端を発する事案であるため、詳しく調べれば増える可能性があります。そもそも昨年5月にも賃貸アパート206棟で「界壁」に施工不備が発覚しましたが、こんなところでコスト削減しても、たかがしれています。ですから、界壁で不備が見つかったことで、ありとあらゆるところでコスト削減を行っていると疑われます。
――一番の被害者は、不良物件をつかまされたオーナーです。
榊 まず、地主をはじめとするオーナーは、業者の甘い言葉に乗らないことが一番です。
――その「よほど良い立地」とは、具体的にどのあたりでしょうか。
榊 「借り手がいるような場所」ということにつきます。たとえば駅から20分離れていても世田谷ブランドにあこがれる人は一定数いて、世田谷区には借り手はいます。しかし、埼玉の奥のほうで駅から20分であれば、その物件には借り手がつきにくい。その意味からすると、首都圏全般でいえば借り手がつくアパートというのは、すでにほぼ建てられています。
――借り手サイドが注意すべき点を教えてください。
榊 レオパレス21のアパートは、一見すると見栄えはいいです。よくしないと借り手がつきませんから。住まいで重要なことは快適性です。見栄えよりも快適性を重視したアパートを借りたほうがいいです。その意味では、レオパレス21のようなサブリース契約を用いる形態をとっている業者を選択することには、相当慎重になったほうがいいでしょう。
――ありがとうございました。
(構成=長井雄一朗/ライター)