2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)の開催が着々と近づいているなか、競技大会組織委員会(以下、組織委)は2月28日、大会期間中は競技会場の敷地内を全面禁煙にするという方針を発表した。「アイコス」や「プルーム・テック」といった、加熱式たばこも規制対象となる。
五輪における喫煙対策は、大会のたびに強化されているといっていいだろう。12年夏のロンドン五輪や、16年夏のリオデジャネイロ五輪の頃はまだ、競技会場の屋内は禁煙としながらも、屋外には喫煙所が用意されていた。
それが昨年冬の平昌五輪では、屋内・屋外ともに禁煙とされた。例外として、大会スタッフ用の喫煙所だけは設けられていたが、今度の東京五輪ではそれさえも取り締まり、競技会場となる施設にある喫煙所は閉鎖・撤去するという。
だが、平昌五輪では会場周辺で喫煙する客も多く、吸殻のポイ捨てが相次いだ。また、排水溝やゴミ箱に捨てられることも多かった。ただ単に禁煙とするだけでは、同様の問題が起こる可能性は高い。
そもそも日本は現在、昨年7月18日に成立した「改正健康増進法」が段階的に施行されている最中で、今年7月1日には学校や病院などが「敷地内禁煙」となり、来年4月1日には個人の自宅やホテルの客室を除いて「原則屋内禁煙」とされる予定だ。ただ、加速する禁煙化の流れに、喫煙者たちが簡単に適応できるとは限らないようだ。
たとえば、中央大学の多摩キャンパス(東京都八王子市)は今、学内に2カ所の仮設喫煙所を置いている。同大学は、昨年9月に全面禁煙へと移行する予定だったが、仮設喫煙所以外での喫煙や吸殻のポイ捨てが発生したことから、仮設喫煙所の設置を今年4月まで延長することになった。
仮設喫煙所をすべて廃止したとき、学生たちは本当にキャンパス内外での禁煙を守れるのか、試されることになる。
●千代田区、世田谷区、新宿区では喫煙所の増設予定ナシ
そこで、東京五輪の競技会場がある東京都の各区に、喫煙所を増設する意向の有無を尋ねた。まずは、日本武道館(開催競技:柔道、空手)と東京国際フォーラム(開催競技:ウエイトリフティング)の所在地である千代田区だ。
「千代田区では、東京五輪に向けて新しく喫煙所をつくろうという取り組みは、特に行っておりません。しかし、10年後の千代田区をどんなふうにしていこうかと考える『ちよだみらいプロジェクト』を2015年度から始め、2024年度までに分散型の喫煙所を100カ所つくることを目標としています。東京五輪うんぬんというよりは、今までやってきたことを継続していこうというスタンスです」(千代田区地域振興部安全生活課安全生活係)
続いては世田谷区。ここには、馬術の競技会場となる馬事公苑がある。
「馬事公苑の周辺道路には(喫煙所の)適地がないのが実態でして、世田谷区としては今のところ、東京五輪に合わせて喫煙所を新設する予定はございません。しかし、それとは別に、昨年10月から『世田谷区環境美化等に関する条例』を施行し、区内の道路・公園は全面禁煙になりました。
それからは、電柱巻き看板を設置したり、路面標示シートを整備したりと広く周知することによって、路上喫煙が起こらないよう啓発を進めているところです。標示には日本語だけではなく、“NO SMOKING”という英語表記や、喫煙禁止を表すマークを入れており、外国人の方にもわかっていただけるかたちを取っています」(世田谷区環境政策部環境計画課)
それでは、メイン会場となる新国立競技場(開催競技:陸上、サッカー)の建設が日に日に進行している新宿区の場合はどうか。
「今の段階では、新たに喫煙所を会場周辺に設置することは検討しておりません。というのも、新国立競技場の住所自体は確かに新宿区で、最寄り駅は都営大江戸線の『国立競技場駅』なのですが、実際にはJR中央線の『千駄ヶ谷駅』(渋谷区)や東京メトロ銀座線の『外苑前駅』(港区)など、他の区を経由してアクセスなさる方も多いのです。
新宿区の駅ですと、JR中央線の『信濃町駅』からも新国立競技場まで歩くことができ、同駅前にはある程度の大きさの喫煙所を設けています。近くに病院があるという場所柄、以前はたばこの煙に関する苦情が届くこともあったのですが、2014年12月のリニューアルで喫煙所全面を強化ガラスで囲ってからは、ピタリと止まりました。喫煙される方には、こちらを利用していただければと思います。
この喫煙所から新国立競技場までの道中では、当然、路上喫煙やポイ捨てを新宿区の条例で禁止していますので、今後はこちらの周知にも力を入れていきたいです」(新宿区環境清掃部ごみ減量リサイクル課)
●渋谷区は「組織委から要望があれば」
ほかには、東京体育館(開催競技:卓球)と国立代々木競技場(開催競技:ハンドボール)がある渋谷区にも話を聞いたが、喫煙所の増設については「組織委から要望があれば」とのことで、具体的な計画はないという。
一方で、有明体操競技場や有明テニスの森、東京辰巳国際水泳場など複数の競技会場を擁する江東区は、次のように回答した。
「江東区の禁煙重点地区(区主要駅周辺)では、指定時間内での路上喫煙が条例により禁止となっています。東京五輪の開催に向けた喫煙対策については今後、周知方法や喫煙所設置の可否も含め、関係する所管課と協議を進め検討していき、きれいなまちづくりに取り組んでまいります」(江東区広報広聴課報道係)
今回取材を申し込んだ区のなかでは唯一、喫煙所の増設について否定しなかったが、やはり明確なプランは立っていないらしい。
いずれの区にしても、東京五輪のために取り立てて新しい準備をするのではなく、各区における日頃の喫煙対策を今までどおり遂行していくといったスタンスのようだ。もちろん、ここから組織委が各区になんらかの働きかけをしていく可能性もある。東京五輪では、どのような方法で“完全禁煙”を成し遂げるつもりなのか、要注目だ。
(文=A4studio)