賃貸アパート大手レオパレス21は今年3月、外部調査委員会による施工不良問題の中間報告を公表した。壁に設計図と異なる建築基準法の基準を満たさない可能性がある部材を使ったのは、創業者で2006年まで社長を務めた深山祐助(みやま・ゆうすけ)氏の指示があったからとした。
祐助氏は深山英世社長の叔父に当たる。1973年の創業から30年以上にわたってレオパレスのトップに君臨。ビジネスモデルを一からつくり上げた。界壁のない物件「ゴールドネイル」も、祐助氏の社長時代に生み出された商品だ。
レオパレスは施工した全3万9000棟を調査するなかで、1324棟の天井や外壁などで新たな不備が見つかった。施工不良は90年代から2000年代に相次いだ。天井の不備で引っ越しを要請した641棟の入居者7000人超のうち、退去したのは425人にとどまるという。
さらに、レオパレスは4月10日、天井裏に壁がなく防火性能を満たしていない恐れのある物件が約4000棟増え、3月末時点で1万4599棟に達したと発表した。今回判明した4000棟の施工不良では「一定の防火性能は担保されている」(同社)として、引っ越しは要請しないとしている。
●共済金の私的流用で、社長を引責辞任
祐助氏は1945年7月生まれで長崎県壱岐市の出身。拓殖大学商学部貿易学科卒業。
90年のバブル崩壊後、経営不振に陥った危ない不動産会社の頭文字を並べた隠語が流行したことがある。「AIDS(エイズ)」をもじった麻布建物、イ・アイ・イ、第一不動産、秀和。「3M」はマルコ-、箕輪不動産、MDIだった。ほとんどの不動産会社がバブル崩壊後に姿を消すなか、MDIは躍進を続けた。
不動産取引の仲介をやめ、アパート営業に特化したことが、バブルの“向こう傷”を負わないで済んだ原因だ。敷金無料型の賃貸アパートをオーナーから一括で借り上げ、長期の家賃保証を謳う「サブリース」商法で成功した。2000年、社名をレオパレス21に変更。
「好事魔多し」の言葉通り、絶好調の時期には得てして落とし穴が待っている。06年5月、祐助氏が、入居者から徴収したサービス手数料のうち計48億6500万円を個人名義の不動産投資や知人の会社の運転資金に充てるなど、不正流用していたことが発覚した。このカネは、入居者から据え付け家具や家電の無償修理サービスのために集めていた共済事業の積立金の一部。これを私的に使い込んで、祐助氏は引責辞任に追い込まれた。
●息子を社長に据えたMDIで再起を図る
祐助氏は06年3月期にはレオパレス株の14.66%を保有する筆頭株主だったが、順次、持ち株を売却していった。
そして、レオパレス株式を処分したカネで08年10月、株式会社MDI(エムディアイ)を設立。MDIはレオパレス21に変更する前の商号であり、自分を追い出したレオパレスへの当て付けとみられている。レオパレスと同じビジネスモデルでアパート建設に乗り出した。
MDIの社長は息子の深山将史氏。将史氏は1994年に明治大学経営学部卒業後、レオパレスに入社。支店長などを歴任し取締役に就き、祐助氏の後継者と目されていた。
MDIは2013年、銀座4丁目の歌舞伎座タワーに完成と同時に入居した。歌舞伎座タワーは歌舞伎座の新しい建物の背後に聳える地下4階地上29階建の高層オフィスビル。MDIは7階から10階の4フロアを占める。
MDIのホームページによると、事業内容はアパート・マンションなどの建築請負及びその後の運営・管理、コンサルティング事業。社員数は1617名(19年4月現在)。管理戸数は3013棟、3万7107戸、入居率99.5%(19年3月期)。連結売上高は設立以来、毎期増収で18年3月期は1200億円。
官報に記載されたMDI単体の決算公告によると、18年3月期の売上高は1196億円、営業利益92億円、純利益63億円。純資産は166億円で総資産は616億円。
「週刊文春」(文藝春秋/19年4月4日号)によると、祐助氏の資産総額は数十億円を下らないという。その祐助氏に逆風が吹きつける。レオパレスの違法建築の元凶として槍玉にあがっていることで、MDI上場計画のハードルは高くなっている。
(文=編集部)