牛丼の松屋フーズホールディングス(HD)が、ロシア・モスクワに1号店を出店した。大手牛丼チェーンのロシア進出は初めて。
松屋フーズHDは中国、米国、台湾に13店を海外展開している。モスクワには牛めし店「松屋」を出店する。牛めしやカレーに加え、とんかつやラーメンなど日本では他業態で提供しているメニューを揃える。価格は「牛めし」並盛りで300ルーブル(約510円)。日本とほぼ同じ価格帯に設定した。
出店にあたり、北海道銀行などが出資する地域商社、北海道総合商事(札幌市)とフランチャイズ(FC)契約を結んだ。松屋フーズHDが海外でFC契約をするのも初めてで、初めて尽くしである。
●北海道総合商事とは
ロシア進出にあたってFC契約を結んだ北海道総合商事とは、どんな会社なのか。
社長の天間幸生氏は、ロシアビジネスに長年かかわってきた元銀行員だ。1995年、日本大学農獣医学部卒業後、みちのく銀行(本店・青森市)に入行。2000年、本部審査部でモスクワ現地法人など海外与信審査を担当して以来、ロシア一筋。
みちのく銀行がロシアから撤退したため、天間氏は08年、ほくほくフィナンシャルグループ傘下の北海道銀行(札幌市)に転職。国際部ロシア室勤務。北海道銀行は邦銀でロシア極東地域における唯一の拠点となるユジノサハリンクス駐在員事務所を開設。ロシア第2位のVTB銀行と提携し、取引先企業のロシア支援事業に携る。天間氏はユジノサハリンクス駐在員事務所副所長、ウラジオストク駐在員事務所所長を歴任した。
その後、天間氏は北海道銀行の「行内ベンチャー制度」を利用して起業。15年10月、地域商社、北海道総合商事を設立した。資本金は1億円、北海道銀行やホームセンターDCMホーマック、北海道コカ・コーラボトリングなど9社が出資。社員4人でスタートした。
天間氏は「北海道の企業とロシアの企業とのビジネスマッチングを進めてきたが、銀行という立場には限界がある。本気で事業を進めるには商社機能が不可欠」と、起業に踏み切った動機を語っている。
北海道総合商事の初のプロジェクトは極東のサハ共和国での温室野菜工場の建設。北海道で普及している寒冷地農業技術を応用。農業用ハウスのシートを3重にして、シートの間に温風を送り込むなどの技術を導入することによって、冬場でもトマトとキュウリの温室栽培に成功した。ヤクーツクでは優れたゴミ焼却炉の整備を進めてきた。
こうした実績が評価され、ロシア極東地域のヤクーツク空港国際線ターミナルの改修プロジェクトへの参画が認められ、18年12月に空港運営会社と契約した。
ヤクーツクは、12月には昼間でも気温がマイナス50度程度になる。滑走路の凍結時でもインフラ機能を維持することが課題となっていた。
飛行機の機体に付着した氷雪を除去するメンテナンス装置を設けるほか、格納庫内の整備機器を提供する。改修プロジェクトの事業規模は24億円。20年秋に着工し、21年の運用開始を目指している。
北海道総合商事はウラジオストクに子会社を持ち、現地でアンテナショップの運営や日本企業の進出支援に取り組んできた。
ロシアでは、すしなど日本食の人気が高まっているが、日本食のレストランはまだ少ない。天間氏は、ロシアの極東から首都モスクワに進出し、日本食の売り込みに力を入れる。銀行、商社と転身してきた天間氏が、今度はロシアで外食にチャレンジする。
●牛丼大手3社の決算は明暗が分かれる
人件費増や原材料費の高騰という強い逆風が吹きつけるなか、牛丼大手3社の決算は明暗を分けた。
「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)の19年3月期連結決算は、売上高が前期比8%増の6237億円、営業利益が16%増の203億円、純利益は8%増の86億円を見込む。
ゼンショーHDは17年11月に定番メニューを値上げしたが、ほぼ毎月、季節限定の商品を投入。目新しいメニューが好評で既存店の客数が増え続けた。これで材料高や人件費の負担増をカバーした。
吉野家ホールディングス(HD)の19年2月期の連結純利益は60億円赤字(前の期は14億円の黒字)に転落した。従来予想(11億円の赤字)から赤字幅が拡大した。売上高は前期比2%増の2023億円(従来予想は2050億円)、営業利益は97%減の1億円(同11億円)だった。
吉野家HDは14年に並盛り牛丼などの値上げを実施したが、これが客離れを招いたという苦い経験から、足元のコスト高にかかわらず再値上げを見送った。冬場に人気メニューの「牛すき鍋膳」を投入したが、それでも下期の売上高が計画に届かなかった。うどん店「はなまるうどん」などの一部店舗の撤退も響いた。
松屋フーズHDの19年3月期の連結決算は、売上高が前期比5%増の976億円、営業利益は2%増の42億円、純利益は横這いの24億円の見込み。18年4月までに値上げを実施したが、2週間に1回という頻度で新商品を投入。これが客数増につながった。
松屋フーズHDはステーキの新業態店「ステーキ屋松」の展開を始め、1号店をJR三鷹駅(三鷹市)北口にオープンした。看板商品の「松ステーキ」は200グラムのステーキのセット価格が1000円。80年代にステーキ業態を手掛けたことがあり、30年ぶりの再挑戦となる。
そして、満を持して挑むのがロシアである。果たしてどうなるのか、関心が集まる。
(文=編集部)