定食チェーン「やよい軒」が、無料だった定食のごはんの「おかわり」を4月中旬から一部の店舗で試験的に有料化し、話題になっている。試験店ではおかわりをする場合、30~100円(店舗によって異なる)を別に支払わなければならなくなった。
インターネット上では「仕方ないよね」「30円追加でおかわりできるなら悪くはない」といった「有料化やむなし」の声が上がった一方、「おかわりが有料になるなら、もう行かない」といった否定的な声も上がるなど、喧々諤々の議論が沸き起こった。
この話は騒動化した面があるが、やよい軒の「おかわり自由」を評価する利用者が少なくなかったことが大きいだろう。そして、客の声を言い訳にしたと捉えられかねないかたちで実験を始めたことが騒動を大きくした。
運営会社のプレナスは有料化する理由として、「おかわりをしている客もしていない客も同じ値段なのは、不公平感がある」との意見が寄せられたことを挙げている。だが、この説明に納得しない人が続出した。「一部の客の声を言い訳にして実験している」などと否定的な意見が多数上がった。
「コストがかかっていて負担になっている」などと説明するだけであれば、ここまで拒絶反応は起きなかったのかもしれない。しかし、客の声を言い訳にしたと捉えられかねない説明をした上で有料化の実験に踏み切ったため、消費者に不誠実な印象を与え、反発を買ってしまった。明らかに「コミュニケーションの失敗」といえるだろう。
それにしても、なぜプレナスはこのタイミングで有料化の実験を始めたのか。背景のひとつには、同社の利益が大きく減ったことがありそうだ。コスト負担が大きいごはんのおかわりを有料化することで、利益を確保したい狙いが透けて見える。
●2019年2月期は赤字転落
4月10日に発表した2019年2月期は赤字決算となった。連結売上高は前期比5.6%増の1539億円と好調だったが、本業のもうけを示す営業損益は5億円の赤字(前期は49億円の黒字)、最終的なもうけを示す純損益は29億円の赤字(同23億円の黒字)だった。長らく黒字が続いていたが、ここにきて一転して赤字となった。
連結売上高は、主力事業の既存店売上高が堅調だったことや、新規出店により店舗数が増加したことが寄与した。既存店売上高は、弁当販売のほっともっと事業が前期比1.6%増、やよい軒事業が0.6%増だった。期末(2月末)時点の国内店舗数は、ほっともっと事業が2748店で1年前から25店増え、やよい軒事業は377店で同26店増えている。
事業別の売上高では、ほっともっと事業が前期比4.2%増の1100億円、やよい軒事業の売上高は6.3%増の311億円だった。どちらの事業も売上高は好調だったといえる。だが、営業損益はそれぞれ苦戦した。特にほっともっと事業が苦戦を強いられ、8億円の営業損失(前期は39億円の黒字)の計上を余儀なくされている。また、店舗の減損損失19億円を計上した。やよい軒事業の営業利益は前期比11.4%減の12億円だった。
プレナスは両事業の営業損益が悪化した理由に、それぞれで仕入れコストが上昇したことを挙げている。具体的な食材を挙げていないが、特にコメの仕入れ価格の上昇が大きく影響したとみられる。同社は18年2月期の決算説明会において、コメの仕入れ価格の高騰により、19年2月期の利益が低下すると予想していたためだ。
民間取引のコメ相場は18年産米まで4年連続で上昇している。長らく続いた生産調整(減反)は昨年から廃止されたが、増産の動きが限定的で、価格の上昇が続いた格好だ。一方で人口減少などを背景に需要の減少が見込まれる。生産抑制が進めば米価が高止まりする可能性もある。
●プレナスのごはんは高品質がウリ
当たり前だが、弁当や定食にはごはんが欠かせない。プレナスでは、傘下の弁当店や定食店などで年間4万トンものコメを使用している。これは日本におけるコメの生産量のおよそ0.5%に相当する。このようにプレナスでは、ごはんが重要な役割を果たしている。
プレナスはコメの品質にもこだわっている。コシヒカリやあきたこまちなど、「種子証明書」で銘柄が確認された種や、苗から育てられた質の高いコメを仕入れている。100%国産米だ。精米は自社工場で行っており、特殊な精米技術で玄米からぬか層だけを取り除いた「金芽米(きんめまい)」をつくり出している。金芽米は一般的に白米より栄養価が高く、それでいておいしいといわれている。金芽米のごはんは、競合店ではあまり見られず、プレナスは差別化されたごはんを提供することができている。
プレナスはごはんの品質の高さを売りとする一方、価格の安さやコスパの高さも売りとしている。たとえば、ほっともっとで「のり弁当」を300円で販売するなどコスパが高い弁当を販売することで知られている。やよい軒は定食メニューの中心価格帯が700円台とお手頃価格だ。そしてごはんのおかわり無料がお得感を増している。やよい軒も高いコスパが人気となっている。
安い価格を実現できているのは、店舗数の多さからくる高い食材調達力があるだろう。プレナスは国内だけで3161店(19年2月末時点)を展開する。連結売上高は先述した通り1539億円(19年2月期)だ。この規模を生かして食材を大量に仕入れることで単位あたりの食材コストを下げられるので低価格を実現できている。コメはこの恩恵が特に大きいだろう。
だが、高い調達力をもってしても米価の高騰には抗えなかった。そこで、やよい軒の一部店舗でおかわりの有料化の実験を始めたわけだが、コミュニケーションの失敗で暗雲が立ち込めている。
ネット上では騒動化してしまったが、実際の現場ではどうなのか。そこで、筆者は実験店の利用客の反応を探るべく、おかわりを100円にした「赤坂一ツ木通り店」(東京・港)を訪れてみた。
同店はオフィス街にあり、平日の昼時だったこともあり、スーツ姿のビジネスパーソンと思しき人で賑わっていた。
おかわり自由を希望する場合、券売機でおかわり自由のチケットを100円で購入する必要がある。チケットを購入すれば、黒い茶碗でごはんが提供される。
同店は1階に16席、2階に50席を設けている。筆者は2階で食事をしながら小一時間、来店客を観察した。60人を観察してみたが、筆者以外で黒い茶碗を持っておかわりをした人は1人だけだった。おかわり自由に100円は高いということだろう。ただ、30円であれば利用客はもう少し多かったのではないか。とはいえ、30円でも無料とは大違いで、拒否反応を示す人は少なくはないと考えられるだろう。
いずれにせよ、おかわりを有料化するとなると、客離れは避けられない。どの程度の客離れが起きるのかを、実験を通してしっかり見極める必要がありそうだ。もちろん、有料化を見送ることも十分考えられる。プレナスの判断に関心が集まりそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)