正気ではない不条理ギャグ漫画

 藤子不二雄の黒い方、藤子不二雄Aに再発不可の激ヤバ漫画が存在した。その名も『狂人軍』。

タイトルから既にアウトだが、『少年チャンピオン』(秋田書店)誌上で、1969年9月3日号から1970年3月18日号まで連載されていた。創刊直後にスタートされたので、いまや天下の『少年チャンピオン』といえど、その時は監視の目もユルかったのだろう。
 内容はというと、狂人たちの生活を描いた不条理ギャグ漫画。連載開始の扉ページには、「人はみなおおかれすくなかれくるっているのだ その中で純粋な心の持ち主だけが本格的なキ○○イになるだけなのだ エイブラハム・ベートーベン」(原文ママ※一部伏せ字)と謎のメッセージと書かれており、不穏な臭いプンプンでスタートする。
 なお、エイブラハム・ベートーベンという人物は存在せず、エイブラハム・リンカーンとベートーベンを組み合わせた作者の造語だと考えられる。

単行本化は永久に不可能?

 サブタイトルを見ても、その異常さがわかる。

その一部を抜粋すると…
「おしかけむすこキチ吉の巻」「狂人軍ゲバルトの巻」「町で拾ったキ印オジサンの巻」「キ○○イ水を飲んじゃったの巻」「キ○○イにハモノの巻」など、どれも物騒なモノばかり。
 ちなみに最終回は「狂人軍対凶人軍の巻」で、狂人軍オープン戦の話。これからというタイミングで、突然の終了を告げたのであった。
 なお藤子不二雄Aは、この『狂人軍』について「よくあんなの載せてくれたなぁと思う」と、他人事のように振り返っている(『藤子不二雄A ALL WORKS』より)。
 当時は、隠れた至極の名作『黒ベエ』も同時に連載しており、まさに藤子A先生がノリにノッてた時期だといえよう。
 最高に面白い作品だが、残念ながら単行本化は永久に不可だろう。
ただ、掲載された雑誌は国会図書館に揃ってるので、気になった方はチェックしてみよう。

(文・無事故無事雄)

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