アメリカ『VOGUE』の9月号といえば『セプテンバー・イシュー』として映画にもなったほど、1年でもっとも重要な号です。今年の9月号の表紙を飾ったのは、アナ・ウィンターが「スーパーウーマンでエブリーウーマン(普遍的な女性)」と評するビヨンセでした。
そして、続く10月号では女優のルピタ・ニョンゴが起用され、2ヵ月連続で黒人女性が誌面の顔になったのです。

「黒人の文化や政治を代表する意図はない」ルピタ・ニョンゴ

ビヨンセもルピタ・ニョンゴも『VOGUE』の表紙にふさわしい「今もっとも輝いている女性たち」と言っていいと思います。とはいえ、黒人女性がファッション誌の表紙に起用されること自体、まだまだ珍しいことなのです。

たとえば『Harper's BAZAAR』や英国『VOGUE』では、過去1年間の表紙すべてが白人でした。「Fusion」の調査によると、米国の黒人、ヒスパニック、アジア人などのマイノリティは人口比37%にあたるにもかかわらず、2014年の主要女性ファッション誌の表紙にマイノリティが登場したのは、たった14%しかありませんでした。

それに対しアメリカ『VOGUE』では、今回も含めて過去2年弱の間に6回も黒人女性がカバー・ガールになっています。

アナ本人は今回の9月号に関するインタビューで、ビヨンセの起用について「黒人の文化や政治を代表する意図はなく、いろいろな要因があってこの形にまとまった」と語っています。

「世界はずいぶん変わったものね」

Vogueさん(@voguemagazine)が投稿した写真 - 2015 8月 13 3:21午前 PDT

ただ昨年以来アメリカでは、白人警察官による黒人殺害事件、黒人をねらった銃乱射事件などが次々と起こり、まだまだ残る人種差別を問題視する気運が高まっています。そんな空気の中で黒人を取り上げれば、どうしてもイデオロギー的な意味で注目を集め、引いては読者から敬遠されたり、ファッション性が否定されたりする可能性があります。

アナがそんなリスクをとって、今の女性を代表する顔としてビヨンセとルピタ・ニョンゴを選んだのでしょう。

かつてアメリカ『VOGUE』の表紙に初めて黒人女性を起用したのもアナでした。1989年のスーパーモデルブームの中、ナオミ・キャンベルを表紙にしたのです。

が、上のインタビューによれば、当時『VOGUE』の上層部たちはそのアイデアに「驚愕していた」そうです。

アナはビヨンセ起用についてはまったく抵抗を受けなかったことから「世界はずいぶん変わったものね、と誇らしく思った」と語っています。

アナは特に人権活動をしているわけではないし、今回も政治的な意図はないと明言しています。でも「黒人だから」とか「今問題になっているから」といった雑音と関係なく「美しいものは美しい」と判断して動くことで、結果的に社会のバリアを取り去っているのです。

どんなに成功しても挑戦を続け、ファッションだけでなく社会に対しても影響を与える。そのパワーには脱帽です。

NYPost, VOGUE, Fusion

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