第6回山田風太郎賞を受賞した直木賞作家・佐藤正午の同名ベストセラー小説を、『ホテルビーナス』のタカハタ秀太監督、藤原竜也主演で映画化した本作。

 はじめに言ってしまうが、時系列が入り乱れて描かれていく作品であるため、初見においてその全てを取りこぼすことなく把握・理解することは難しい。また、ギミックありきの作品であるため、登場人物が抱く葛藤に強く共感するだとか、深く感動するといったタイプの作品でもない。だが、そういった作りであることこそが、本作最大の魅力であり面白さ。先の読めない展開、張り巡らされた伏線の数々、終盤になって明らかになる真実など、終始観客に息つく暇を与えることなく、思考の波へと引きずり込んでいく。そういった類いの作品が好物である方には、是非ともオススメしたい一本。

映画『鳩の撃退法』は藤原竜也に翻弄されっぱなしの119分。あなたは一度でどこまで理解できる?


 かつて直木賞を受賞するも、現在はデリヘルの送迎ドライバーとして細々と暮らしている主人公・津田(藤原竜也)。そんな彼の元に転がり込んできた大金と、ある一家の失踪事件を巡って物語が展開されていくのだが、観客はおそらくついていくことで精いっぱい。状況に翻弄されつつも、語り部としても立ち回っていく津田、彼を取り巻く個性豊か or 謎に満ち溢れた登場人物たち、都度行ったり来たりを繰り返す複雑な時間軸など、鑑賞中は常に膨大な情報量を突き付けられ、一つひとつの描写を細かに精査しているだけの余裕は与えて貰えない。そして、腑に落ちない描写や「?」となってしまう場面をいくつか抱えた状態のまま、物語は容赦なく加速度を増していき、気付けば怒涛のクライマックスへと到達する。

 初見でどこまで汲み取り切れるかは個人差があると思うが、見終えた後に多くを考え得る機会が残されていることもまた本作の醍醐味であり、鑑賞後に恋人や友人、もしくはSNSなどで、「ああでもない、こうでもない」と語らい合えることもまた映画というものの醍醐味。様々な“余白”が散りばめられているからこそ、この作品は観客の想像力を大いに刺激する。場合によっては、二度目の鑑賞へとその心を誘うこともあるでしょう。

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 さて、初見であなたはどこまで食らいつくことができるだろうか。

※次のページでは物語のネタバレ・考察を交えた内容があります

二度目の鑑賞で注目して欲しいポイント

 ここからは、二度目の鑑賞へと至る方へ向けて、注目して欲しいポイントをご紹介。二度目の鑑賞となれば、おそらく8~9割のことは腑に落ちる。予め物語のカラクリを把握できている分、入り乱れる時間軸の変化にも対応でき、一つひとつの描写を正しく理解しながら目にしていくことができるはず。ただ、二度目の鑑賞であればこそ、より一層腑に落ちない部分がくっきりと見えてくる。そして、それは劇中において答えが明示されていないことにも気が付くはず。

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 カフェの店員・沼本(西野七瀬)。津田に好意がある素振りを見せる彼女の中盤以降における言動・行動に、気になる点はなかっただろうか。一富山県民として倉田(豊川悦司)の存在(噂)を認識していたとも取れるが、秀吉(風間俊介)が「スピン」のオーナーであることや、彼の妻・奈々実(佐津川愛美)の経歴や運転している車の車種についてまで把握していたのは何故だろう。「バイト帰り」とは言いつつも、「スピン」へ向かおうとする津田の前に突然姿を現したのは何故だろう。その辺りが気になり出してくると、倉田に関しての質問に「ノーコメント」と言って口をつぐんだり、津田が持つキャリーケースに興味を示していたり、父親のことを「パパ」「お父さん」と呼ばず、「父」と呼んでいることにも何かしらの意図があるように思えてくる。

 また、床屋の店主・まえだ(リリー・フランキー)の「パチンコ狂の義理の姉」と、「中学の時の2個下の加奈子センパイ」についても気になるところ。まえだの口から彼女たちについて詳しく言及されることはなく、その後は、高円寺のバー「オリビア」のママとして、津田と鳥飼(土屋太鳳)の小説を巡る問答に同席する一人として描かれていく。捉え方次第では、厄介者でしかない津田を匿っている立場にある加奈子(坂井真紀)。であるにも関わらず、津田が「オリビア」にいることが倉田サイドに把握されてしまったことが判明してもなお、動じる素振りを一切見せない。それはつまり、自らに火の粉が降りかかることはないと確信していたからではないだろうか。細かな事情を把握している素振りを見せたり、富山の新聞を取り寄せていたり、バーに立ち寄った秀吉から「ピーター・パンとウェンディ」を受け取っていたりと、彼女の言動・行動にもまた多くの疑問が浮かんではこないだろうか。

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 津田は言う。「今ある事実から考えて、何が自然か。そう考えれば自ずと“隠された事実”が見えてくる」と。劇中において描かれている全ての事実を取りこぼすことなく把握することができたのなら、果たして自ずと見えてくるものがあるのだろうか。それとも、只のTMI(too much information)なのか。何をどう判断するのか、どういった答えへと辿り着くのかは、あなたの眼と心次第。二度目の鑑賞が、あなたにとってより有意義なものになりますように…。

(文: ミヤザキタケル)

『鳩の撃退法』作品情報

【あらすじ】
直木賞作家の津田伸一(藤原竜也)は、とあるバーで担当編集者・鳥飼なほみ(土屋太鳳)に、執筆途中の新作小説を読ませていた……。富山の小さな街でドライバーとして、その日暮らしを続ける津田伸一は、かつては直木賞も受賞した小説家だった。1年前、津田はいきつけのコーヒーショップで偶然、幸地秀吉(風間俊介)と出会い、今度会ったらピーターパンの本を貸そう、と約束をして別れる。しかしその夜を境に、幸地秀吉は家族と共に突然姿を消してしまう。それから数か月後、津田の元に3000万円を超える現金が転がりこむ。ところが喜びも束の間、それは偽の一万円札であった。その偽札の動向には、裏社会のドン・倉田健次郎(豊川悦司)が目を光らせているという。彼は、1年前に家族3人が失踪した事件をはじめ、この街で起こる騒動に必ず関わっていた。そして、倉田はすでに偽札の行方と共に、津田の居場所を捜し始めていた……。津田の体験を元に書かれたというその新作に心を躍らせる鳥飼。だが話を聞けば聞くほど、どうにも小説の中だけの話とは思えない。そんななか、鳥飼は津田の話を頼りに小説が本当にフィクションかどうかを検証し始めるが、そこには驚愕の真実が待ち受けていた……。 

【予告編】


【基本情報】
出演:藤原竜也/土屋太鳳/風間俊介/西野七瀬/佐津川愛美/桜井ユキ/柿澤勇人/駿河太郎/浜野謙太/岩松了/村上淳/坂井真紀/濱田岳/ミッキー・カーチス/リリー・フランキー/豊川悦司

原作:佐藤正午

監督:タカハタ秀太

脚本:藤井清美/タカハタ秀太

上映時間:119分

製作国:日本