【パリ五輪現地レポート】ボルダー全課題で完登に迫った安楽 リードは疲労の影響も
9日に行われたパリオリンピックの男子ボルダー&リード決勝は、日本の17歳・安楽宙斗が銀メダルを獲得した。ボルダーは1位の69.3点、リードは5位の76.1点だった。関連記事:安楽宙斗が銀! 日本男子でスポーツクライミング初の五輪表彰台 金メダルはロバーツの手に【パリ五輪|男子ボルダー&リード】

▼ボルダー
クセの少ないエレクトリックスタイルの第1課題以降は、それぞれが自分の得意とするスタイルで完登し、3人が2完登で並ぶ大接戦だった。全体的な完登数こそ少なかったものの、展開は非常にエキサイティングで決勝に相応しかったと思う。

バランス系の2課題目は、5点獲得後にトライアンドエラーを繰り返しながらクロスステップで立ち上がり10点を取るのだが、そこにたどり着くまで時間を要してしまうため自ずと選手にプレッシャーがかかった。宙斗はクロスステップではなく右足で立ち上がってから左足と入れ替えるムーブを選択した。明らかにこのムーブのほうが難しい。だが、宙斗はそれで押し切った。途中でムーブを変えようとする仕草も見えたが、変えることで時間を浪費する可能性を感じたのかもしれない。その後を初見で完登するところにバランススタイルへの自信が表れていた。画面だとわかりにくいかもしれないがトップのホールドは壁の傾斜が変わった先にあり、流れながら取ろうとすると身体が回転してしまう難所。宙斗は手前のクリンプを絶妙なバランスで耐えたことで、スタティックに25点を獲得できた。

3課題目はフィジカルパワー系。

最後はコーディネーション課題。着地で足と合わせる横タイプ、上半身のパドルを合わせた縦タイプ、スイングで放り込むタイプと3つの“飛び”が組み込まれた。大きく求められたのは、上半身のパドルで縦に距離を出すパワー、そしてスイングからノーハンド気味なポジションに飛び込んでいくセンス。どちらが欠けても完登にはたどり着かない。唯一完登したコリン(・ダフィー)はパドルパートを余裕でこなし、スイングの調整にも長けていた。
宙斗は2完登にとどまったものの、全課題で完登に迫る惜しいトライがあった。そのオールマイティーな能力は、会場にいた目の肥えたクライマーたちには光って見えたはずだ。各国の関係者からも「ソラトは1人次元が違った」という声が上がっていたほどだった。
▼リード
流れのあるリードらしい内容。選手のパフォーマンスが高く、結果的に多くが上部までたどり着いた。ポケットキャンパなど盛り上がるムーブは散りばめられていたが、差を分けたポイントを挙げるとするならばいかに自分のテンポを維持して上部に突入するか、という点だったと思う。60点を超えるとホールドがかなりハードになる中で、いかに面を食らわず気持ちを昂らせて出し切れるか。そういう意味では金メダルのトビーや銅メダルのヤコブ(・シューベルト)など粘りのスタイルを持つ選手が輝いていた。

宙斗は観客席から見ている分には危なげなく上部に進めていたが、疲労があったのは間違いない。普段よりも動きが少し硬く、引きつけ気味になっていた。
金メダルに届かなかったのは、リードの数手なのか、ボルダーの1完登なのかと考えれば、個人的にはボルダーのあと1完登で、とても悔しさが残る。だが、現代のスポーツクライミングにおいて最高の選手であることは誰もが疑わないだろう。この経験を糧にさらに進化した宙斗を見せてくれ! 銀メダルおめでとう!

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文
宮澤克明、編集部 /写真
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