●身体を動かす以上にまずは口を動かす
品川ヒロシが自らの青春時代を綴った同名小説を原作に、映画版公開から14年の時を経て、品川自身の脚本・監督で再びドラマ化した本格ヤンキーアクション連続ドラマ『ドロップ』(全10話・第1話無料放送)が、6月2日(金)よりWOWOWプライムとWOWOWオンデマンドにて放送・配信スタートする。不良漫画に強く憧れ、本物の不良になるべく、名門私立高校から公⽴に転校したヒロシ役を演じた細田佳央太に、ドラマの見どころや達也役を演じた板垣瑞生の印象、演じることの面白さについて語ってもらった。


――まずは、出演が決まった時の率直な心境からお聞かせいただけますか?

うれしい気持ちと同時に、僕にとっては"初ヤンキー&初アクション"ということもあり、「果たしてヤンキー役が自分にできるのか?」という不安もありました。でも台本を読ませていただいたら、僕が演じる信濃川ヒロシくんはヤンキーの世界に憧れてヤンキーの世界に入る男の子だったので、僕も徐々に溶け込んでいけばいいのかなと、逆に安心したんです。

――ビビッドな赤の髪色もとてもお似合いでしたが、あれは地毛なんですか?

そうです。生まれて初めての赤染めだったんですが、とにかく赤は落ちやすいのでシャンプーにはすごく気を遣いました。ヘアメイクさんにも相談したりして。「これまでの細田くんと印象が全然違うね」と言っていただいたりもするんですが、役に合わせて髪型を変えるのは当たり前のことなので、どんな髪型や髪色であろうと僕は全然抵抗がないですね。


――『ドロップ』は、もともと品川監督の自伝的小説から始まって、人気漫画や大ヒット映画にもなったりしていますが、役作りをする上で、原作や映画をチェックされたりも?

お話をいただいてすぐに映画は観たんですが、衣裳合わせの際に品川監督から「原作とか映画は別に読んだり観たりしなくていいから」と言っていただいて、そこからはもう全く見なかったですね。きっと監督ご自身も今回は、WOWOWさんのドラマ版「ドロップ」として新しいものを作りたいと思われているんだと感じたので。僕が思うに、今の時代のヤンキーと20年前のヤンキーって、若干ずれているところがある気がするんですよ。そういう意味では令和の時代にやるからこそのヤンキーにしたかったというのもありました。

――なるほど。それにしても、細田さん演じる信濃川ヒロシには、監督であり、もともと役のモデルでもある、品川ヒロシさんが乗り移ったかのようで驚きました。
セリフのテンポ感の良さについては監督も絶賛されていましたが、ヒロシになりきる秘けつは何ですか?

『ドロップ』は会話のテンポ感が何より大事になる作品なので、 掛け合いのタイミングについては監督自身が一人二役で台本を音読してくださるのを聞きながら、耳でコピーしていくような感じでした。みなさんに「本当にソックリだね」といただけるのは嬉しいのですが、特に自分から品川監督に寄せよう、寄せようと思っていたわけではないです。とはいえ、やはり監督がずっと現場にいらっしゃると、自然と寄っていくのかもしれないです。

――監督からは具体的にどんなアドバイスを?

"ヒロシっぽさ"、みたいなことで言うとするなら、たとえば「なんでだよ!」とツッコミを入れるときは「な」の前にちっちゃい「ン」を入れて、「ンなんでだよ!」って言った方がセリフが立つとか。「イ~ッ!」みたいな独特の声の出し方も、普段の自分よりも高めにしたりとかはしてますね。

――細田さんご自身は、ヒロシのキャラクーをどのように捉えて演じられたのでしょうか。


受け流すのが上手いですね。相手の気をそらしたり。自分の立場や状況が「まずい!」となった時のごまかし方にも長けていて。ある種、周りの状況がよく見えているとも言える。「喧嘩をしないですむならしたくない」という点では、ヒロシくんと同じです。僕にも屁理屈を言うクセがあるし、頑固なんですよ。
誰かに話した情報が間違っていたとしても、曲げないで言い訳ばっかりしているようなところは似ているのかなとは思いますね。

―― けんかやアクションシーンも迫力満点でしたが、撮影にあたり心掛けたことは?

ヒロシって、喧嘩をしてるようで実はあまりしていないというか、ちょいちょい口を挟んでいくうちに自然とその影響でボルテージが上がっていく感じなんですよね。だから「今から喧嘩だ!」っていうシーンの前は、「怪我をしない/させない」ことをとにかく意識しつつ、身体を動かす以上にまずは口を動かすことで、熱量を上げていった感じですかね。

――劇中で信濃川ヒロシの盟友になる、狂暴で⼀度キレたら⼿がつけられなくなる井口達也役を演じた板垣瑞生さんや、同年代の共演者からは、どのような刺激を受けました?

板垣くんは、すごくフレンドリーなようで、相手がどんなタイプか瞬時に察して、適度な距離感を保ってくれる実は繊細な人。本番で0から100までギアを一気に上げることができる俳優さんだな、という印象がありますね。僕よりアクション経験が豊富で、感性や表現力もすごく豊か。
僕の凝り固まった考えみたいなものを、板垣くんの軽やかさで解きほぐしてもらえた部分もありました。同世代のキャストが多かったので、のびのびとお芝居ができました。個人的には、ヤンキー以上に子どもっぽいんじゃないかと言えるような(笑)、大人チームの小競り合いのシーンも大好きです。

――では、細田さんが考えるテレビシリーズだからこそ描けた『ドロップ』の魅力とは?

25分という尺がちょうどいいんですよね。続きが気になる長さでもあって。25分×10話だと通常の映画の倍の密度で作れるわけで、映画には出てこなかったキャラクターが登場したり。
ヒロシと達也以外の関係性も、より色濃く描けているんじゃないかと思いますね。

人付き合いに関してはかなりドライ


――ここからは、"俳優・細田佳央太"について詳しく伺います。ご自身はどんなタイプだと認識されているんですか?

僕は子どもの頃にこの世界に入ったこともあって、芸能界とか俳優の仕事にもともと憧れがそんなにないんです。だから基本的に醒めているというか、人付き合いに関してはかなりドライなところがあって。言葉遣いや所作が丁寧で、"ちゃんとしている人"が好きですね。普段しっかりしている人の方が、意外と脆いところもあったりするじゃないですか。僕自身はそっちのグループの人間だと思っているので、自分と似ている人の方が親近感が湧くというか。板垣くんから受けた印象と同じで、人と距離を詰める時はものすごく意識します。グイグイ来られるのは少し苦手なので。

――俳優の仕事について、「自分に合っているな」と感じるところは?

僕は、セリフを忘れることに対する危機感がかなりあるというか、「他人様に迷惑をかけるわけにはいかない」という思いが半端ないんですよ。実際にセリフが出てこなくて怒られたこともあるので……。そういう意味では完璧主義というか、かなり慎重派ですね。

――人付き合いに対してドライだと、役を演じる際の足かせにはならないんですか?

確かにそこは矛盾しているなと自分でも思うんですが、リアルに関わらないから逆に知りたいと思えるというか、一線を引いているんですよ(笑)。自分が演じる役だからこそ知らないわけにはいかないですし、お仕事として責任感を持って取り組まないと……という意識が働くんです。

――ずばり、細田さんにとって演じることの面白さとは?

お芝居って、僕にとっては結局、自己満足なんですよね。監督がOKを出したらOKなんですが、自分の中では後悔が残ったり、「本当にあれでよかったのかな」とすごく悩むので。役作りをする時はいつも一人で苦しむんですけど、ごくごくたまに楽しいと思える瞬間が訪れるから、ハマってしまうんです。それがお芝居の魅力なんじゃないかと思います。

――今回のドラマでもそういった瞬間が味わえましたか?

僕はゲームが好きなので、「攻略しながらレベルアップしていく」のと似たような感覚を味わえるという意味では、アクションができるようになる過程に一番充実感を覚えました。ゲームのなかで魔法や呪文を覚えたり、技を覚えたりするのと近いというか。お金と経験値はセーブデータとして持っていけるけど、新しい現場に入るたびにレベル1に戻って、まったく別のルールのゲームを新たに始める時のワクワクした感覚に近いかもしれません。

――いつか監督業にも挑戦されたいそうですが、ゲームを作る側も経験されたいということですか?

作品って、クリエイターにとってはきっと自分の子ども同然の存在じゃないですか。 自分が生んだ作品が世に放たれて、それが世間にどう受け止められるのか。企画段階から公開までずっと気が抜けないだろうし、作品と一番距離が近いところにいられるのが羨ましい。俳優とは目線が違うからこそ、気づけることがたくさんあるんじゃないかと思うんですよね。

――なるほど。では監督になるのが最終目標ではなく、あくまでもベースは俳優にあると。

そうです。いつか監督業を経験して得られた気づきを、俳優の仕事に還元できればいいなと思っていて。俳優の仕事に役立つものは、何でも吸収したいんです。僕は子どもの頃に書道をやっていたせいか、静かな環境の方が、より集中してお芝居に取り組める気がします。自分は不器用だという自覚があるから、せめて、精一杯努力をして最善を尽くしたい。撮影が終わるたび「ふぅ、疲れた……」って口に出しますし、大事なシーンが終わると深呼吸をする。でもあくまでも集中は切らさない。そんな風に撮影に臨んでいます。