買い物に出かけるとさまざまなものの値段が上がっていることを実感すると思います。一方で、給料はほとんど上がっていないと嘆く人は多いのではないでしょうか。
実際、手取りにすると、昔より減っている? と感じる人もいると思います。そこで、この20年間で手取りがどのくらい減っているのか、日本の平均年収で実際に計算してみました。

日本の平均年収は443万円

国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は443万円となっています。ここでいう「給与」は1年間の支給総額(手当を含めた給料と賞与の合計額)のことであり、いわゆる「年収」にあたります。

過去20年間で日本の平均年収はどのくらい変わったのか、推移をみてみましょう。

グラフをみてわかるように、過去20年間、400万円台で推移しており、ほぼ横ばいといってもいいでしょう。
細かくみていくと、2000年は461万円、2021年は443万円なので、20年前よりも今の方が平均年収は下がっています。

年収は税金や社会保険料が引かれる前の額面金額なので、実際の手取りは、20年前とどのくらい変わっているのか、比較してみましょう。
20年前と手取りで比較してみたら

条件を合わせるため、20年前と現在の年収は同じ400万円として比較してみます。

手取りは可処分所得ともいい、次の式で求められます。

年収-(税金+社会保険料)=手取り

税金は所得税と住民税です。社会保険料は健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料を合わせたもので、会社と折半して支払います。


同じ額面400万円でも、手取りにすると2003年は329万8,360円、2023年は311万6,515円となり、20年前に比べて18万1,845円手取りが減っています。
社会保険料と税金の負担が増えている

手取りが減っている要因を細かくみていきましょう。

健康保険料率は1999年までは8.5%、2000年から介護保険料が加わり、合わせて9.1%になりました。2003年は健康保険料と介護保険料を合わせて9.09%になっています。一方、2023年は健康保険料と介護保険料を合わせて11.82%(平均保険料率)に上がっています。

厚生年金保険料率は2003年時点では13.58%であったのが、2023年現在は18.3%となっています。


これらは事業主負担も入れた保険料率なので、折半にした場合をみてみると、健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率を合わせた保険料率は、2003年は11.335%であるのに対して、2023年は15.06%になっています。雇用保険料率に関しては2003年は0.7%、2023年は0.6%と、こちらは下がっています。

次に所得税をみてみましょう。2003年時点では、年収400万円の場合は、課税所得に対して税率は10%でした。2023年の現在は、税率は5%になので、今よりも負担は多くなっています。しかし、1999年に導入された「定率減税」によって、所得税額から20%が控除されるため、実際の負担はもう少し軽くなります。
それでも今よりも所得税は多くなっています。

2003年の住民税は、2007年から一律10%になる前であるため、年収400万円では5%でした。さらに「定率減税」によって、住民税は15%の税額控除があるため、2023年に比べて、10万円程度少なくなっています。「定率減税」は2007年以降廃止となりました。

20年前と比べると、所得税と雇用保険料以外は負担が増えており、税金と社会保険料を合わせて約18万円の負担増となっています。
所得控除の縮小・廃止の影響も

20年前と現在では、所得控除の制度も変わっています。
2004年には配偶者特別控除の見直しによって、上乗せ部分が廃止となりました。これによって、該当する配偶者がいる人の所得税、住民税が増えることになりました。

2011年、2012年には扶養控除の見直しも行われました。16歳未満の扶養控除(年少扶養控除)が廃止され、16歳以上19歳未満の扶養控除が縮小されました。これによって、該当する児童がいる人の所得税、住民税が増えることになりました。

先ほどの試算は独身者であるため、影響はありませんが、家族を持つ世帯の税負担は増えているといえます。

消費税アップ、物価上昇でさらに追い打ち

20年前と現在の手取りを比較しましたが、実際に使える金額の価値も考えると、さらに家計は厳しくなります。

2003年の消費税率は5%、現在は10%(軽減税率8%)なので、税率は倍になっています。

これをわかりやすく例えてみると、給料20万円をすべて消費すると考えると、消費税率が5%であれば、実際に使えるお金は19万円になりますが、消費税率が10%になると、実際に使えるお金は18万円になってしまいます。

物価上昇も考えてみましょう。物価の動きを指数化した「消費者物価指数」を参考に、2003年と2022年(2023年の年平均は出ていないため)を比較してみます。

2020年(基準年)を100とした場合の値(※)をみると、2003年は94.2であるのに対し、2022年は102.7となっており、8.5%上昇しています。※持家の帰属家賃を除く総合指数(年平均)

これもわかりやすく例えてみると、2003年に20万円で買えていたものは、2022年には21万7,000円になっているということなので、同じ給料20万が、2003年と比較すると2022年は(20万円×91.5%=18.3万円)18万3,000円の価値しかないということです。
実質的な手取りは20年前より約45万円減っている

前出の試算で、20年前と比べて手取りが18万1845円減っていることがわかりましたが、ここに物価上昇率も加えてみましょう。

なお、消費税アップについては、消費者物価指数が、財やサービスの購入と一体となって徴収される消費税分を含めた消費者が実際に支払う価格を用いて作成されているため、物価上昇に含めて考えます。

2023年の手取りは311万6,515円ですが、物価の上昇を考慮した実際に使えるお金は、ここに91.5%をかけた額になるので、285万1,611円となり、20年前と比べて44万6,749円実質的に手取りが減っていることになります。

日本の平均年収に近い400万円の人の実質的な手取りが20年間で約45万円減っていると考えると、生活が苦しくなったと感じるのも無理はありません。今後も物価上昇が続くと思われるので、それに合わせて給料を上げていかないと家計はますます厳しくなります。政府には国民生活の安定のために、経済対策をしっかり議論してほしいと思います。

石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。ブログ「ファイナンシャルプランナーみかりこのお金の勉強をするブログ」も運営中! この著者の記事一覧はこちら