OpenAIの日本法人である「OpenAI Japan合同会社」が設立され、日本での事業を開始した。代表執行役員社長には、約13年間にわたり、AWSジャパンの社長を務めた長崎忠雄氏が就任。
4月15日に都内で行った記者会見で長崎社長は「OpenAIの一歩を、日本の地で踏み出す、記念すべき最初の日である。日本のさまざまな企業や産業を、良い方向に導くことができる。日本のお客さまとの対話を通じて、いまだかつて考えられないような事例を、数年かけて作っていきたい」と抱負を語った。

また、あわせて日本語に最適化したGPT-4 カスタムモデルの提供を開始することも発表した。日本語のテキストの翻訳と要約のパフォーマンス、コスト効率を向上させており、前モデルと比較して、最大3倍の高速化を実現しているという。
「東京への進出は自然な選択」- アルトマンCEO

OpenAIは、2015年にサンフランシスコで設立され、個人向け生成AIであるChat GPTのほか、中小企業向けのChatGPT Team、エンタープライズ企業向けのChatGPT Enterpriseを製品化。


生成AIモデルとして、GPT-4やGPT-4 Turbo、GPT-3.5、DALL-E、TTS、WHISPERを提供している。さらに、OpenAI APIを通じて、開発者はOpenAIのモデルを利用したアプリケーション開発などが可能になっている。

今回の東京へのオフィス開設は、サンフランシスコ、ロンドン、ダブリンに次いで4拠点目であり、アジアへの進出は初めてとなる。

OpenAI 最高執行責任者(COO)のブラッド・ライトキャップ氏は、「OpenAIにとって、日本は、もう1つのホームになる。日本における週間アクティブユーザーは200万人以上であり、日本への投資によって、生成AIのテクノロジーの可能性を広げることができる」と述べた。

また、ビデオメッセージを寄せたサム・アルトマンCEOは「日本の政府、企業、研究機関と、長期的なパートナーとなる最初のステップとなる。
日本が技術とイノベーションのリーダーシップを発揮してきた経緯を考えれば、私たちの拠点として、東京への進出は自然な選択だった。日本にパートナーとして迎えてもらい、AIが前例のないイノベーションとポジティブな社会変革の触媒となる未来に向けて、出発できることに感謝する」と語った。

OpenAI Japanの陣容と今後の見通し

OpenAI Japanは、営業部門や技術部門、渉外部門を設置し、2024年内は10数人体制とする。OpenAIの既存ユーザーへの利用支援や政府との対話を行うほか、営業活動や事業開発なども行うほか、製品およびサービスに関する計画、コミュニケーションやオペレーションなども担うことになる。

長崎社長は「日本では、OpenAIを正確に理解をしている人はほとんどいない。さまざまな製品をラインアップしており、エンタープライズ向けには、ChatGPT Enterpriseというセキュアなサービスも用意している。
まずは、エンタープライズに対する提案を積極的に行い、そこから得た知見をもとに、足りていないものを埋めていくことになる。OpenAIのビジョンやステートメントも正確に伝える必要があると考えている」と述べている。

続けて、同氏は「まずは、どのような使い方をしているのか、何が足りないのか、もっと使ってもらうにはどうしたらいいのかということに時間を使いたい。AIツールの素晴らしさは、企業規模に関わらず、個人、スタートアップ、中小企業、自治体、政府、NPOと、すべての業種においてメリットが享受できる点にある。お客さまと対話をすることで、適切な形のフィードバックが生まれ、発展のループが回る。この仕組みを1日も早く確立したい」と語った。


また、ライトキャップCOOは「OpenAI Japanの優先事項は、まずはチームを作ることだ。また、日本語カスタムモデルも提供し、より多くの人にChatGPTを使ってもらうことにも力を注ぐ。さらに、制度整備に必要な議論にも積極的に参加し、日本におけるAIの活用、AIの普及に力を注ぐ。日本は過渡期にある。この変革の中において、日本の社会と企業に貢献したい」と強調。

さらに、OpenAIの渉外担当副社長のアナ・マカンジュ氏は「昨年秋のG7広島サミットにおいて、日本政府は、AI政策における主要な施策として、G7 広島AIプロセスを主導した。
人間の尊厳、多様性と包摂、持続可能な社会という目標に合致するAI政策の実施に取り組んでいる。OpenAIも、国際的な枠組みのなかで、生成AIの開発を進めることになる。東京へのオフィス開設は、日本の社会課題の解決や、AI開発および活用のルール作りについても効果があると考えている」と語った。

日本語に特化・最適化した「GPT-4 Customized Japanese」

OpenAIが新たに投入する日本語に特化および最適化したGPT-4 カスタムモデル「GPT-4 Customized Japanese」は、前モデルのGPT-4 Turboと比較して、最大3倍の高速動作が可能だという。

これを利用することで、英語学習アプリ「Speak」では、ユーザーが間違えた際のチューターの説明が2.8倍速くなり、トークン数が減り、効率化によってコストが47%削減したことを実証しているという。

また、ライトキャップCOOは「費用対効果が高く、正確である。
今日からアーリーアクセスが可能であり、数カ月以内にAPIを提供することになる」と話す。

そして、同氏は「東京の拠点を通じて、日本の文化やコミュニケーションのニュアンスなどを学習することができるほか、パートナーとの連携によって、日本語向けカスタムモデルを強化していくことになる」とした。
マイクロソフトとの棲み分けはどうなる?

一方、日本へのデータセンターの設置についてライトキャップCOOは「日本でビジネスを行う際には重要な問題だと認識している。データのコンプライアンスにおいて必要であれば対応することになる。インフラパートナーであるマイクロソフトが日本への大型投資を発表しており、協力しながら進めていきたい」と語った。

米マイクロソフトは、日本におけるAIおよびクラウド基盤の強化に向けて、今後2年間で29億ドル(約4400億円)の投資を行うことを発表しており、日本におけるOpenAIの利用拡大にあわせたインフラの拡張も進むことになりそうだ。

注目されるのは、今後、OpenAIの日本でのビジネス拡大において、日本マイクロソフトが提供するサービスとの棲み分けを、どのように行うのかという点だ。

日本マイクロソフトでは、Azure OpenAI Serviceを提供しており、日本においては数千社への導入実績を持ち、3カ月ごとに採用企業を倍増させるなど、利用者数が急拡大しているところだ。

両社は同じ技術をベースに同じ需要層に対して、アプローチすることになるため、OpenAIが日本における営業活動を活発化するほど、競合する場面が増えることになる。それぞれの価値を、どう提案できるかが鍵になりそうだ。

大河原克行 1965年、東京都生まれ。IT業界の専門紙「週刊BCN (ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年フリーランスジャーナリストとして独立。電機、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を行う。著書に「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)など。 この著者の記事一覧はこちら