サントリーは23日、チューハイ・カクテルの定番シリーズ「-196(イチキューロク)」のメディア説明会を商品開発センター(神奈川県川崎市)にて開催。「-196」の中味開発について紹介したのち、研究所内を案内した。


○■国内RTD市場に注力のワケ

サントリー商品開発センターは2004年に開設した。首都圏に近いという利点を活かし、消費者動向を新商品の開発に反映させている。このほかサントリーでは、ワールドリサーチセンターを京都府精華町に2015年に開設。そちらでは大学の研究所、国の研究機関の集まる地域で情報を得ながら基礎研究を続けているという。

メディア説明会の冒頭、サントリー スピリッツ本部副本部長の塚原大輔氏が登壇。同社のRTD(=Ready to Drink、開けてすぐ飲めるお酒)について「当社ではチューハイ、ハイボール+ジンソーダ、ノンアルコールといったポートフォリオで展開しています。
RTDは自由度高く商品開発ができるカテゴリです」と紹介する。

酒類市場におけるRTDの役割は幅広い。アルコール全般・飲料全般のベネフィットを取り込みつつ、健康意識や家ナカ需要の高まりなどの社会トレンドをとらえ、若者の甘舌化などの嗜好の変化にも即座に対応。ターゲット層も若者から、30~40代、中高年と広範囲で獲得できる、と塚原氏。サントリーでは、グローバルのRTD市場は2030年には(2020年比で)約2倍にまで成長すると見ており、同社としては、2030年に30億ドルの売上を目指していく。

いま同社が国内RTD市場で注目するポイントは「食中酒飲用の拡大」「ノンアルコール拡大」「若年層接点の強み」。
特に直近では、甘くない無糖商品を拡充することで売上を大きく伸ばすことに成功した。塚原氏は「成長領域の強化によって、今後も需要拡大を図っていきます」と意欲をみせる。

具体的には「-196無糖〈ダブルレモン〉」「こだわり酒場のレモンサワー」「こだわり酒場のタコハイ」「サントリージン 翠 SUI」といった看板商品で食中酒需要を活性化。「ほろよい〈白いサワー〉」「ジャスミン焼酎 茉莉花」「友達がやってるバー〈ジントニック〉」などの新提案で若年層の消費を拡大し、「のんある酒場 レモンサワー」「のんある酒場 ハイボール」「ノンアルコールチューハイ のんある気分」などのラインナップでノンアルカテゴリも成長させていく。

○■リブーストをかける「-196」

続いてサントリー RTD部長の高橋直子氏が、無糖チューハイの「-196」ブランドについて説明した。同シリーズは2005年5月に誕生し、時代の変化に合わせてリニューアルを繰り返してきたが、果実を丸ごと-196度で瞬間凍結し、パウダー状に粉砕して原酒に浸漬するサントリー独自の"-196℃製法"を守り続けている。


無糖チューハイとしてロングセラーを続ける「-196」だが、昨今、味わいについては様々なニーズも出てきたと高橋氏。「無糖は好きだけど味気ないものも多い、もっと果実味が欲しい、といった声も聞かれるようになりました。そこで2024年3月のリブランディングでは、中味、パッケージを刷新しました」と紹介。なお商品名は、摂氏を示す記号をなくして「-196」とした。

リブランディング後の消費者の反応としては「無糖でこの果実感は最高」「すっきり楽しめるので食事中に飲むチューハイとしてぴったり」といった声を紹介。また今後、限定商品として「-196無糖〈ダブルアップル〉」(5月7日発売)、「-196無糖〈白ぶどうダブル〉」(6月11日発売)、「-196無糖〈パイナップル〉」(7月9日発売)なども投入していく方針で、「さらなる市場拡大に向けて新たな提案を続けていきます」とまとめた。


このあとサントリー スピリッツ・ワイン商品開発研究部長の塚本環氏が、同社の開発体制を説明。今回、メディアを招待した商品開発センターについては「新鮮、驚き、感動の創造劇場というコンセプトで設計された施設です」とする。

ここで「-196」の開発秘話についても紹介。塚本氏は「もともと居酒屋で、自分の手でレモンを絞った生搾りチューハイはなぜこんなにも美味しいのか、というところから議論が始まりました。手についたレモンのフレッシュな香りが、味にも影響しているからではないか――。そんなヒントが、のちにサントリー独自の"-196℃製法"の開発につながります」と明かす。


そこで最後に"-196℃製法"のデモンストレーションが行われた。そもそも「-196」とは、液体窒素の沸点(-196度)にちなんだネーミング。デモでは、はじめに細長い容器の中に液体窒素を充填する。このとき空気中の水蒸気が冷やされて白い煙となった。次に、液体窒素の中にレモンを挿入。すると、ほぼ瞬時にレモンは凍結された。
「-196」では、このようにして凍結したレモンを粉砕して使用している。

プレゼンの終了後には、商品開発センターをめぐるツアーも行った。試作品の開発を進めるセクションでは、白衣の女性担当者が試験管やスポイトなどを使って慎重に作業中。「別の原料を加えると味がどのように変化するか、いま試行錯誤を重ねています。開発者の間で「こんな味にしたい」という目標を定めて試作を続けるケースも多いです」と説明する。

完成したサンプルを飲み比べてディスカッションするチームもあった。ここでは「質感が良くてキレもある」「香りはこちらの方が強い」「飲みごたえが感じられますね」「食事と合わせるとき、これくらいの方が好まれるのでは」といった議論が交わされていた。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら