NTT東日本と河合塾グループは3月24日~27日、探究的な学習の一環として企画された「探究ツアー」の第一回「医療編」を実施した。現地でのプログラムを振り返るとともに、2社が教育分野で目指す未来像について伺ってみたい。


○NTT東日本と河合塾グループが教育分野で連携

NTT東日本と河合塾グループは3月19日、次世代のグローバルリーダーを輩出する新たな教育モデルの確立を目的とした連携協定を締結。リアルな体験とデジタル技術を融合させたハイブリット型探究学習プログラムの共同開発を進めている。

この探究学習プログラムの一環として行わるのが、地域社会をフィールドとして探究的な学びを提供する「探究ツアー」シリーズだ。第一弾として3月24日、地域医療の現場から社会課題について考える「医療編」が北海道札幌市で開催された。

2社が連携協定を結んだ理由と、ハイブリット型探究学習プログラムの詳細、そして今後の展望について、NTT東日本と河合塾グループに伺ってみたい。
○総合的な学習(探究)の時間をどう学ぶべきか?

2社の連携協定のきっかけとなったのは、東京都調布市にあるNTT中央研修センターだ。同施設はもともとNTT東日本グループの研修施設だったのだが、コロナ禍によって研修がオンラインに移行され、使われなくなっていた。

このNTT中央研修センタを有効活用するため、NTT東日本は施設内に地域循環型社会の実現に向けた実証フィールド「NTTe-City Labo」を2022年に開設。近隣地域の企業や団体を招き、新たな価値創造に向けた取り組みを進めていった。

その取り組みを主導していたのが、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 インキュベーショングループのチーフを務める松本一生氏だ。同氏はさっそく、道路を挟んではす向かいにある、河合塾グループのドルトン東京学園 中等部・高等部に声をかけ、協力関係を構築していく。

「NTTe-City Laboを生徒さんに見ていただき、テクノロジーを学んでいただいたり、地域課題解決への取り組みを知ってもらったりしたいと思ってお声がけしたのがスタートです。
さらに実際の授業や校内の設備を含め、施設見学だけではない総合的な連携ができないかというお話になり、2022年10月に連携協定を締結させていただきました」(NTT東日本 松本氏)

近年、教育現場では「総合的な学習(探究)の時間」(以下、探究的な学習)が注目されている。探究とは、「日常生活や社会に生起する複雑な問題について,その本質を探って見極めようとする」こと。探究的な学習により、問題解決能力などの社会で役立つ実践的な力を身につけることが期待されている。

しかし、個々の教育機関だけでは、子どもたち一人ひとりが持つ多様な関心に応えられる十分な機会や知見を提供することが難しい。近年めざましい進歩を遂げている生成AIなどのデジタル技術に関しても、教育現場での適切な活用には多くの課題が山積している。地域における課題解決やICTに関する知見を持つNTT東日本と、教育に関する多様な知見を持つ河合塾グループが連携協定を結んだ背景にはこういった現状がある。

2社は、リアルな体験とデジタル技術を融合させたハイブリット型探究学習プログラムを共同開発し、全国の中高生に展開することで、学校の枠組みを超えた次世代のグローバルリーダーを輩出する新たな教育モデルの確立を目指す。
○ドルトン東京学園とNTT東日本の取り組み

2社による連携協定締結後の具体的な取り組みは大きく2つ。ひとつは入店から商品選択、決済までスマートフォンだけで完結するスマートストアを、学校売店として導入したことだ。このスマートストアは生徒が直接運営に携わっており、売上分析や仕入れ・搬入など経営的側面を生徒自らが探究する取り組みだ。部活動のような形で現在も続けられているという。

もうひとつは、NTT東日本による探究的な学習の授業を実施したこと。
ドルトン東京学園では希望によって授業を選択できる形を採っており、例えば教育分野を目指す生徒向けの授業では保育園と連携して読み聞かせをしたりといった授業を行っている。

NTT東日本が担当したのは、地域の課題解決をテーマにした授業だ。半年間で90分授業全15回を担当した。東日本エリアを中心とした地方を来訪し、生徒とともに2泊3日のフィールドワークをすることで現地の課題を学び、これからどう地域を盛り上げていくかを探っていくという内容になる。最終的には来訪した市町村への提案も行う。これまでに、山形県西置賜郡飯豊町、長野県下伊那郡喬木村などで実際に授業を実施してきた。

河合塾グループKJホールディングスの古屋氏はこの授業を「探究の授業と非常にマッチしている」と高く評価する。

「現地で町長さんや町民のみなさまと触れあうことは、生徒にとって非常に良い刺激になっています。こういった取り組みがどのように主体性や協調性などに結びついているかも分析していまして、目立たないけどすごく伸びる子はインターンや長期休暇中の体験、大学連携プログラムなど、学校の外で学びを得ていると分かったのです。探り探り進めてきたNTT東日本さんとの取り組みですが、AIでなんでも簡単に分かるこの時代だからこそ、現場と向き合って話す機会はとても重要なのだと感じています」(河合塾 古屋氏)

○地域医療の現場を知る探究ツアー「医療編」

このNTT東日本による探究的な学習の授業をさらに推し進めたのが「探究ツアー」シリーズと言える。その第一回が、2025年3月24日~27日にかけて北海道札幌市とその周辺市町村で行われた特別プログラム「医療編」だ。

地域医療はさまざまな社会課題を内包しており、また河合塾グループも医療を志す生徒を抱えている。
そんな生徒たちに医療の裏側を含めた徹底的にリアルな現場の声、医師、看護師、地域の方々の本音を届け、リアリティのあるキャリアビジョンを持ってもらうことが目的となる。

特別プログラムには、総合病院としてNTT東日本が運営するNTT東日本札幌病院が連携したほか、大学として札幌医科大学が、行政として北海道庁が、さらに大手機器メーカーや地域の病院・クリニック・診療所が参画した。

探究ツアーに参加した生徒は、募集人員20名のところ中学生が3名、高校生が8名の計11名、性別は男子5名、女子6名となる。3月15日の事前学習に参加して学習の意義について説明を受けたのち、特別プログラムに臨む。

1日目・2日目のプログラムではNTT東日本札幌病院や札幌医科大学を見学し、医師のみならずさまざまな医療業務と病院組織の構造を理解する体験を実施。生徒からは「医療について他人事として考えられなくなった」「ドラマでは医師のみ注目されるけど、医師を支えている周りの関係者がとても重要だと学んだ」「医学部生と話すことで、医学部生活のイメージがつかめた」といった声が挙がった。

そして3日目のプログラムでは地域医療の現状を知るために、2人一組で実際に地域の病院を訪問し、患者のもとに赴いて対話を重ねた。受け入れた医療機関は親身になって質問に応じてくれたそうで、生徒からは「訪問診療に同行することで地域医療の実情を知ることができ、貴重な体験ができた」「老老介護の課題感を体験し、地方の患者さんの生活を支える訪問診療の重要性を感じた」などの感想を述べた。

たった2人のために行われた特別な体験は、生徒に新しい視点を与えるとともに、忘れられない思い出を作ったことだろう。医療関係者からも「熱心なまなざしに私たちも大いに刺激を受けた」「生徒から学びや気付きを得た」「組織内の相互理解や自己認識を深める有意義な機会となった」と評価されており、すでに「再度、生徒の受入れを希望したい」と歓迎されているそうだ。

最終日となる4日目には、特別プログラムから得た学びを言語化するためのグループワークを開催。地域医療という社会課題を見据えた提言も行われた。
全国各地から集まっていることもあり、生徒同士の異文化交流・地域交流面も良い刺激になっていたようだ。

さらに4月5日には事後学習として特別プログラムの振り返りを行う。生徒たちは、医師になりたい、看護師になりたい、放射線技師になりたいといった目標に対し「いまなにができるか」「将来どうなりたいのか」「そのためにどの大学に入らなければならないか」「入るためになにをすべきか」を言語化することで自らのキャリアを鮮明にしていった。

○探究ツアー第二回は北海道幕別町で「農業編」

こうして無事、第一回の探究ツアー「医療編」は幕を下ろした。河合塾の古屋氏は、「医療編」を振り返り次のようにコメントする。

「現役の医師の方が言うには『やはり医療は、医師だけじゃない』と。『看護師も検査技師もいれば、地域でケアマネージャーをしている方もいて、いろいろな人の連携でみなさんの生活を支えている。その本当の意味を医師になってから痛感している』と仰っていました。その実感を具体化するためにプログラムを組み立てていったのですが、想定以上にハマったなと思います」(河合塾 古屋氏)

また、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部 インキュベーショングループ 担当部長を務める佐野雅啓氏は、第一回の「医療編」に続く第二回のツアーについて言及した。

「現役医師や医学生、他の地域の生徒さんたちとの交流から化学反応が生まれること、現場でのリアルな体験で学びをより深めていけることが、本ツアーで実証できたと思います。今回は医療でしたが、農業やエネルギー、環境などさまざまな社会課題の領域においても同様の取り組みができるのではないかと考えています。直近としては本年度の夏に農業編にトライする予定です」(NTT東日本 佐野氏)

「農業編」は、農業のさまざまな側面を体験することを目的として北海道幕別町で開催予定。
種の植え付けを初めとした栽培のみならず、生産者から卸売業者、小売業者、消費者に至るバリューチェーンまで一次産業の流れを追っていくことで、食の大切さを学ぶプログラムを目指しているそうだ。

「学校でもいろいろな地域とともにプロジェクトを進めていますが、やはり中学生・高校生が日本の最先端を行く大企業との連携によって本当のプロと触れ合う機会があるというのは大きな価値ですね。NTT東日本さんとの取り組みは、やはり学校や予備校、塾では出会えない方と出会えることが最大の魅力だと思います」(河合塾 古屋氏)
○ネットワーク技術を通じて教育分野へのサポートを広げるNTT東日本

NTT東日本は現在、教育領域における課題解決の一助となるべく、「ひらけ、可能性。」というキーワードとともに取り組みを進めている。NTT東日本が持つテクノロジーやアセット、コミュニティを活用し、リアルとデジタルを掛け合わせた新しい教育を多くの学校に広げていくことを狙う。

「ドルトンさんに提供してきたような探究的な学習の授業に関しましても、授業内容をそのまま販売するのではなく、我々の得たノウハウをもって、各学校に適した形でご提供していきたいと思います」(NTT東日本 松本氏)

「その他にも、学校伴走、出張授業、校外学習、修学旅行支援などさまざまなメニューを検討しております。当社はネットワークだけにとらわれない教育と学びを提供していく絵を描いており、現在の取り組み一つひとつがそのまま未来に繋がると考えながら活動しています。“探究的な学習の授業ならNTT東日本×河合塾”と認識されることを目指して、これからもみなさまとともに歩んでいきたいと思います」(NTT東日本 佐野氏)
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