第46回将棋日本シリーズJTプロ公式戦は2回戦が進行中。8月16日(土)には渡辺明JT杯覇者―山崎隆之九段の一戦が新潟県新潟市の「新潟市産業振興センター」で行われました。
○山崎九段がリード奪う
渡辺九段は休場明け以降5局目となる対局。1週前の順位戦は発熱による不戦敗となっただけに、観戦するファンも「元気そうで何より」とまずは胸をなでおろします。渡辺九段の先手番で始まった対局は後手の山崎九段が独自の力戦策を披露。角道を開けないまま雁木と中住まいを両天秤にかける指し方は定跡にとらわれない山崎ワールド全開の趣向です。
やがて山崎九段の攻勢が始まります。駒損覚悟で桂を跳ね出したのが早指し棋戦らしい勢いある指し回し。受けを基調とした渡辺九段の慎重な応手につけこみ指しやすさを手にしました。山崎九段はその後も歩頭に銀を差し出すなど好手連発で攻めを継続。いつの間にかいわゆる「一人終盤戦」の格好になった先手玉を寄せ切るのは時間の問題かと思われました。
○終盤の逆転劇
両者秒読みの終盤戦にドラマが待っていました。食い下がる渡辺九段が桂捨ての勝負手で詰めろをかけてきた場面、これを取って素直に応じたのが「大ポカでした」(局後の感想)と振り返ることになった山崎九段の失着。玉の早逃げで応じるのが正着とされたものの、この数手前にリスクを取って踏み込む順があっただけに徐々に逆転の雰囲気は生じていました。
一瞬の技で体を入れ替えた渡辺九段は冷静でした。メリハリある受けで盤上の綾を一掃したのが「優勢のときは丁寧に」の鉄則通りの手で、局面が落ち着けば桂得の実利が生きてきます。終局時刻は17時29分(対局開始15時37分)、最後は自玉の受けなしを認めた山崎九段が投了。山崎九段は局後「今後どう生きていこうか」と独自の口調で悔しさを表現しました。
終盤のピンチを乗り切り逆転勝利を飾った渡辺九段は10月12日(日)に愛知県名古屋市の「ポートメッセなごや」で行われる準決勝で藤井聡太竜王・名人と顔を合わせます。
水留啓(将棋情報局)