多様な働き方が推進されている昨今、副業希望者は増加傾向を見せている。しかし、約半数の企業が副業解禁を明示している一方で、実際に副業・フリーランス人材を受け入れている企業は2割ほど。
「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループはオンライン勉強会『「副業・フリーランス人材白書 2025」から紐解く 地域企業における副業活用の現状と課題』を開催。業界初となるプロフェッショナル人材の総合活用支援サービス「HiPro(ハイプロ)」の編集長を務め、パーソルキャリア株式会社 執行役員の鏑木陽二朗氏が登壇し、日本が直面している人手不足の現状、副業・フリーランス人材を活用できていない背景などを説明した。
■副業市場のニーズの歪み
まず鏑木氏は副業を解禁している企業(50%)は半数あるが、課長クラス以上の管理職・エキスパートが目安で、高度な事業課題を解決できる経験・スキルを有する人材層“ハイクラス層"と、リーダークラス含む一般社員・従業員が目安で、日常的に発生する業務に従事する人材層“メンバークラス層"の副業人材の活用はいずれも3割以下と低調であると説明。翻って「活動意向・副業への興味」を示すハイクラス層とメンバークラス層はともに8割を超えている。
副業への関心が高いビジネスパーソンが多いものの、あまり活用できていない状況を「人材採用の現状は売り手市場が長く続いています。一方、副業をやりたい人が増えているものの、活用する機会はまだ少なく、買い手市場と表現できるマーケットになっています」と分析。労働者と企業の需要と供給のバランスにねじれが生じている現状を口にした。
■地方中小企業の約6割が人手不足
鏑木氏は日本が置かれている状況を整理する。日本の総人口は14年連続で減少しており、都道府県別でも東京都と埼玉県を除く45道府県で人口減少に歯止めがかからず、「ますます人材の獲得が難しくなる」という。また、一都三県、兵庫、大阪・愛知以外にある企業“地方企業"のうち大企業はわずか1%。99%が中小企業に分類され、そして地方中小企業の約6割が「労働力不足を感じる」と回答していると説明。
鏑木氏は「即戦力性の高いハイクラス人材だけではなく、メンバークラス人材も不足を強く感じています」と人材不足の企業が多数派である実態を示し、「地方創生2.0や地方公務員の副業解禁など、国をあげて人口減少に伴う労働力不足に取り組んでいるのが現在の状況です」と語った。
■コロナ禍が変えた人材獲得の様相
日本の人材獲得競争の現在地を紹介する。2025年5月の求人倍率の全国平均(1.24倍)と比較すると、地方のほうが求人倍率は高く、地方企業における人手不足が顕著と指摘。続けて、「コロナ禍以降、リモートワークが浸透したことにより、地方における人材獲得の状況は変化しました」という。リモートワークを容認する大都市の企業が増えた結果、地方企業の人材獲得の難易度は上昇していると説明する。
地方企業の人手不足解消の道のりの険しさを口にするが、「副業・フリーランス人材市場は企業優位です。『雇用形態にこだわらなければ、比較的簡単に人を集めることができる』というのがこのマーケットの特徴と言えます」と紹介。副業・フリーランス人材の活用を目指すことが、地方企業における人材不足の解決策なのではないか。
■月20時間以下の依頼が多い
ここからは具体的に地方企業における副業・フリーランス人材の活用率を深掘り。従業員数が少ない企業ほど活用しない傾向が高い。従業員数100人未満の地方企業が活用しない理由として「費用が高い(高そう)」が最も多く、次いで「受け入れ態勢が整っていない」「現場での活用イメージがわかない・どのようなケースに適しているのかわからない」といった声も少なくない。
また、月の依頼時間は20時間以下が5割を超えており、鏑木氏は「『ガッチリ1ヶ月張り付いて』というよりは、『必要な部分の業務を切り出して、その部分を任せる』という形式が副業人材の特徴です」「『どの業務を任せるか』『どのようにレポートラインを構築して、指定の時間内でもしっかりと進められる状態を作るか』など、受け入れ態勢を整えることが企業側の重要ポイントになると思います」とまとめた。
続けて、ビジネスパーソン目線で説明をしていく。ハイクラス層(89.0%)、メンバークラス層(82.5%)とともに8割以上が地方企業での副業に興味を持っており、「収入・将来の準備」が最多ではあるものの、「スキル獲得・向上」や「社会とのつながり・貢献」など、収入アップ以外の理由で副業に取り組みたいと考える人も多い。また、副業活動に対する満足度もハイクラス層(80.8%)、メンバークラス層(72.8%)といずれも高水準だ。副業がビジネスパーソンに働く喜びをもたらしてくれるのかもしれない。
■すでに活躍している副業・フリーランス人材も
最後に鏑木氏は同社が2023年6月からスタートした、副業やフリーランスという形で、技術や知識を持つ人材が地方企業で活躍することをサポートするサービス“スキルリターン"に触れ、事例を紹介していく。まず製品開発責任者(PdM)や事業開発担当(BizDev)などで、外部のプロ人材4名を受け入れた犬の鼻紋認証アプリ「NoseID」を開発する福岡県の企業を取り上げる。PdMは開発課題解決とチーム士気向上に、BizDevは新規顧客開拓と既存顧客強化に貢献し、事業のスピードアップと成長をサポートしたと語る。
さらには、総合スポーツ施設を運営している京都府にある企業では、マーケティングのプロ人材を2人受け入れ、SNSを使った告知・集客に関する支援や、LINE公式アカウントの立ち上げ支援などを行い、集客率アップのために尽力しているという。そして、「いろいろなバックグラウンドのある人たちが参加することで、1つの会社内ではなかなか生まれない事業アイデア、あるいは知らなかった情報から派生して生まれる新しいアイデアが生まれます」と副業人材を活用することのメリットを強調した。
正社員雇用が前提となっているが、この前提を見直すことで人手不足解消に加え、働きがいを見い出すことも期待できそうだ。