中国のシャオミは7月8日、オンライン専用の「POCO」ブランドのスマートフォン新機種「POCO F7」を発表しました。POCOブランドの新製品は、2025年に入ってこれで5機種目となり、「Xiaomi」「Redmi」といった他のブランドと比べても投入する機種数が明らかに多くなっています。
2025年は2月から7月にかけて5機種を投入
2025年に入って積極的に製品投入を続け、初の実店舗展開も開始するなど、日本で攻めの姿勢を続けるシャオミ。そのシャオミが2025年に入って、もう1つ力を入れているのが「POCO」ブランドです。
POCOブランドは、性能の高いスマートフォンをオンラインに販路を絞ることにより低価格で販売する、オンライン専用というべきブランド。「Xiaomi」「Redmi」といった他のブランドと比べても、性能が高いスマートフォンを安く購入できることから、主としてゲーミングに重きを置く若いユーザーをターゲットとしたデザインのモデルが多いのが特徴です。
これまでシャオミは、日本でPOCOブランドを展開してはいたものの、積極的に製品投入はしておらず、様子見の姿勢が長く続いていました。ですが、2025年に入ると一転してPOCOブランドを日本でも本格展開することを発表。2025年2月に「POCO X7 Pro」を発売したのを皮切りに、3月にはハイエンドの「POCO F7 Ultra」「POCO F7 Pro」を発売。4月には、エントリークラスの「POCO M7 Pro 5G」を発売しています。
ですが、シャオミは7月8日、POCOブランドへさらに新機種を追加することを発表しており、それが「POCO F7」となります。これはその名前の通り、POCO F7 UltraやPOCO F7 Proの下位に位置するモデルで、POCOブランドとしてはミドルハイクラスという位置付けの製品となるようです。
とはいっても、そこはPOCOブランドらしく高い性能を備えていることが特徴の1つとなっており、実際POCO F7はクアルコム製のハイエンド向けとなる「Snapdragon 8s Gen4」を国内向けスマートフォンとしては初めて搭載。
それに加えて、バッテリーは6500mAhとかなりの大容量を誇っており、90Wの急速充電にも対応。加えて、大容量バッテリーを生かして22.5Wのリバース充電にも対応しており、別のスマートフォンなどを急速充電することも可能です。カメラも約5000万画素のイメージセンサーを備えた2眼構成であることから日常使いに問題はなく、性能面では満足度の高い内容といえるでしょう。
それでいて、価格は54,980円~64,980円、期間限定で実施していた早割(すでに終了)を適用すれば48,980円~58,980円と、さらに安く購入できました。POCOブランドのほかのモデルと同様に、国内向けのカスタマイズは施されていないためFeliCaには非対応ですが、そこが気にならなければ非常にコストパフォーマンスが高いことは間違いありません。
オンライン専用のメリットだが日本市場では課題も
これで2025年のPOCOシリーズの新製品は5機種となりますが、「Xiaomi」「Redmi」といった他のブランドは、2025年7月時点でそこまで多くの新製品が投入されているわけではありません。なぜPOCOブランドだけ、これほど多くの新製品を投入できるのかといえば、POCOブランドの特性が大きく影響しています。
先にも触れた通り、POCOブランドはオンライン専用で、基本的に携帯4社から販売されることもなければ、家電量販店など実店舗での販売もしていません。他社の実店舗でスマートフォンを販売するには、それぞれの販売店と交渉し、販促物を用意するなどさまざまな手間やコストがかかってしまうので、それが必要ないことが低価格を実現する大きな要因となっているわけです。
しかも、販路をオンラインに絞ることは、手間やコストをかけずに新しい商品を販売できるため、販売できる商品の自由度が高いというメリットにもつながってきます。それがPOCOブランドと、店頭でも販売するXiaomi、Redmiブランドとで、投入する製品数に大きな違いが生じている理由となっているのではないでしょうか。
シャオミは、今年からPOCOブランドの日本展開に力を入れているだけに、そうしたオンラインならではのメリットを生かして製品ラインアップを拡大し、ユーザーの選択肢を増やして販売を伸ばしたい狙いがあるのでしょう。ただ、POCO F7の発表内容を見るに、オンライン専用のブランドで製品数を増やすことには課題も少なからずあると感じてしまいます。
1つは製品価格の問題です。確かにこのクラスの性能で5万円台を実現するPOCO F7の価格は非常に安く、これからスマートフォンを購入したい人には魅力となります。一方で、その下のクラスとなるPOCO X7 Proの価格が49,980円からなので、POCO F7とは約5,000円の違いしかありませんし、早割を適用していれば差がなくなってしまいます。
それゆえ、すでにPOCO X7 Proを購入した人からしてみると損をした印象を与えてしますし、これから購入する人にとってもPOCO X7 Proを選ぶ動機が薄れてしまう感があります。確かに、中国などではラインアップの隙間を埋めるべく、性能の異なる製品を多く投入して販売を伸ばすことが一般的ですが、日本では製品数を増やすことで、価格が近く購入しづらい製品が生まれてしまうことが懸念されるわけです。
そしてもう1つは、ユーザーと販路の問題です。実はシャオミは日本において、POCO F7をはじめとしたPOCOブランドの製品を、2025年に2店舗オープンしたシャオミの独自店舗でも販売する方針を示しています。
これは日本市場が、中国などと違ってECサイトだけで製品選びをする人がまだそこまで多くなく、実際に手に取って製品を試したい、という声が多かったことを受けての対応となるようです。それゆえシャオミ側も、この対応はあくまでイレギュラーなものと説明しています。
裏を返せば、日本ではオンライン専用というPOCOブランドの手法がそれだけ通用しにくい環境にあるといえるのですが、実店舗を重視する人が多い日本市場に合わせた対応を取ることが、今後POCOブランドの販売戦略にぶれが生じさせ、価格に影響することも懸念されます。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら