井上からダウンをもぎ取ったネリ。しかし、火が付いた怪物の勢いは止められなかった。

(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 4万人を超える観衆が詰めかけた超満員のドームが怪物の一打に酔いしれた。

 5月6日、東京ドームで世界スーパーバンタム級4団体12回戦が行われ、同統一王者の井上尚弥(大橋)が、挑戦者のルイス・ネリ(メキシコ)を6回TKOで撃破。1990年にマイク・タイソン(米国)の興行以来34年ぶりとなる同会場での世界戦で快哉を叫んだ。

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 この試合を前に「とてつもない試合ができる」と意気込んでいた井上は圧巻だった。無念のKO負けを喫したネリも世界戦4連勝中の実力を随所に見せたが、充実する「怪物」の驚異的なパフォーマンスに成す術はなかった。

 戦前に「見せつけてやる」と公言した通りに初回から積極果敢に打ち出したネリは、近接からフックを繰り出し、相手が優位と見られた試合で“望外”のダウンをもぎ取る。

 だが、プロ初ダウンが怪物に火をつけてしまったのかもしれない。直後にリング上でニヤっと笑った井上は「上等」と言わんばかりに応戦。次第に怒涛の猛攻で相手を跳ね返すと、2回に、前のめりに突っ込んできた相手をバックステップで交わした刹那に放った左フックでダウンを取り返す。

 互いに打ち合う展開に、沸き返るドーム。そんな会場をよそにクレバーさを保った井上は警戒を強めつつも、ネリのボディを執拗に攻撃。そうして主導権を握った5回にふたたび近接戦からの左フックを炸裂。

これで2度目のダウンをもぎ取ると、続く6回には渾身の右ストレートを顔面にヒット。“悪童”は力なくリングに沈んだ。

 試合早々に危うさもありながらも、最後は地力で押し切った井上。初回に会場を騒然とさせた自身のダウンを「ダメージはさほどなかった。パンチの軌道が読めなかった」と振り返った31歳は、そこからの挽回劇を説いている。

「初回ということでダウンはしましたけど、引きずることはなく、2回からポイントを計算しようかなと。

2ポイントリードされているので。冷静にはできました。出だし、気負っていた部分もあった。ダウンして立て直せたと思います。あのダウンがあったからこその戦い方だと思います」

 誰もが驚きを隠さなかった1ラウンド目のダウン。しかし、慌てる周囲とは裏腹に打たれた当人は、驚くほど冷静だった。

[文/取材:羽澄凜太郎]