ネリと打ち破った井上。そんな怪物には早くもクロフォードとの比較論争が展開されている。

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 難敵との激闘をインパクト十分の内容で制した。5月6日に東京ドームで行われた世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチで、統一王者の井上尚弥(大橋)は、WBC同級1位の挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)を6回1分22秒TKOで撃破した。

 34年ぶりに東京ドームで実現したボクシングの興行。そのメインマッチを飾るとあって、井上のパフォーマンスに熱視線が注がれた一戦は波乱の幕開けとなった。初回に近接戦から左フックを瞬間的に空いてしまった顎に被弾。プロ初ダウンを喫したのだ。

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 ただ、そこからのリカバリーは見事だった。「全然引きずることはなかった」とクレバーに立ち振る舞った2回にお返しと言わんばかりの左フックでダウンを奪った井上は、次第に守勢に回ったネリに対して猛反撃。手数でも圧倒すると、5回にふたたび左フックでダウンをもぎ取り、最後は6回にラッシュの流れから右ストレートを見舞って勝負を決した。

 文字通りのドラマチックな試合で“主役”となった井上。ネリにまさかの一発こそ浴びたが、そこからの挽回劇は圧巻の一語だ。ゆえに檜舞台で防衛を果たした怪物が「当代最強」か否かを巡る論争は早くも激しさを増している。

 英紙『The Guardian』は、結果的にTKOという形で制した井上のパフォーマンスを「世界戦での戦績を21勝無敗、19KOに伸ばし、マニー・パッキャオの全盛期の彷彿とさせる」と称賛。そのうえで「世界最高のパウンド・フォー・パウンドファイターとしての存在感をさらに強めた」と論じた。

 現在、ありとあらゆるメディアのパウンド・フォー・パウンド(PFP)で、井上と1位の座を巡って比較されるのは、WBAスーパー・WBC・WBOスーパー[1]世界ウェルター級統一王者のテレンス・クロフォード(米国)だ。

 昨年7月にエロール・スペンスJr.(米国)を圧倒して史上初となる2階級での4団体統一を果たした36歳も、40戦無敗(31KO)と規格外の戦績を残している。ゆえにSNSなどでは議論は白熱しているのだが、同紙は次のように記している。

「イノウエはタイソンではない。

仕事ぶりも、破壊的な意欲もイノウエの方が上だ。彼は13人の世界チャンピオンと戦い、その全員を倒してきた。31歳にして、すでに全時代の、あらゆる階級で史上最高の選手の一人であり、真のスーパースターだ。

 今回のネリ戦の結果と内容がパウンド・フォー・パウンドの頂点に君臨するテレンス・クロフォードを凌ぐのに十分であったかどうかは意見の分かれるところだろう。しかし、この試合で完全に二強の構図になったことは疑いようがない」

 なお、クロフォードは、来る8月3日にWBAウェルター級王者のイスラエル・マドリモフ(ウズベキスタン)とのWBA世界スーパーウエルター級タイトルマッチ兼WBO世界同級暫定王座決定戦を行う予定となっている。ここで彼がどのようなパフォーマンスを見せるかは、井上とのPFP論争をさらに激しくさせそうだ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]