井上との熱戦には敗れたが、ネリの努力には賛辞も寄せられている。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 激闘の興奮はいまだ冷めやらない。

5月6日に東京ドームで行われたボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)と、WBC1位の指名挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)によるタイトルマッチに対するそれだ。

【動画】悪童さとは無縁? ネリが日本人ファンのサイン攻めに応じるシーン

 結果は“怪物”の完勝だった。初回にプロ初ダウンを喫した井上だったが、2回に反撃の左フックでダウンをもぎ取ると、5回にも左フックでダウンを奪取。そして、6回に渾身の右ストレートで、完全に動きが鈍くなっていたネリをキャンバスにねじ伏せ、見事にTKO勝利を飾ったのだ。

 ただ、34年ぶりに実現したボクシングの一大興行で、4万3000人の大観衆を大いに沸かせたのは、ネリの存在感が際立っていたからに他ならない。実際、井上も試合後のリング上で「勝った瞬間というのは、やはりネリに感謝という気持ちで握手を求めに行きました」と健闘を称えている。

 2017年と18年にWBC世界バンタム級タイトルマッチとして山中慎介氏と対戦した際に、ドーピング違反と体重超過を犯したネリだけに、今回の試合を実現させるうえで彼に対する疑念を小さくなかった。

 しかし、ネリは5か月前に米テキサス州でのトレーニングキャンプを開始。「打倒・モンスター」に向け、体重管理を徹底しながら丹念に調整を重ねてきた。そんな熱戦を生み出した彼の奮闘、そして舞台裏での殊勝な振る舞いには賛辞も送られている。

 米ボクシング専門サイト『Boxing Scene』のトリス・ディクソン記者は自身のXに、宿泊するホテルでファンのサイン攻めに応じるネリの様子を収めた動画を公開。「彼は部屋に戻り、ホテルのロビーにいたファンにサイン入りの道具を山ほど持ってきた。

とても上品な行動だった」と称賛。さらに同サイトに掲載したマッチリポートで、粗暴さとは無縁だった悪童を絶賛している。

「ネリは悪役を完璧にこなし、危機一髪だった瞬間も含めて、悪さばかりではない可能性が高い。彼はホテルで何度もセルフィーに微笑んだり、サインを求めたファンにも気さくに対応していた。それはまるで、ディズニーランドでコスチュームを脱いだキャラクターが、自分らしくいられる時間を過ごしているのを見るようだった」

 過去のいかなることにも悪びれない言動からどうしても「ヒール」なキャラクターが定着していたネリ。しかし、少なくとも今回の来日期間中では、彼にこびりついたイメージは、やや薄れた感はある。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]