結果を出したいアスリートの皆さんにとって、不安や緊張などの気分の高まりをうまくコントロールすることは非常に大切です。

しかし一方で、コントロールしようと思えば思うほど、「メンタルが安定しない」と感じる皆さんも多いのではないでしょうか。

今回はそんなメンタルコントロールに悩むアスリート向けに近年、第三の認知行動療法として注目を集めるアクセプタント&コミットメントセラピー(ACT)を紹介していきます。

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アクセプタント&コミットメントセラピーとは

アクセプタント&コミットメントセラピー(Acceptant and Comittment Therapy)は今注目を集める第三の認知行動療法で、その頭文字を取り、ACT(アクト)と呼ばれます。

基本的なACTの概念は、嫌な感情や思考も全て受け入れ(アクセプタンス)し、より良い人生を歩むために価値に導かれた行動へ(コミットメント)変えていくという考え方を元としています。

闘争・逃走反応

人は嫌な感情(不安や緊張など)に巻き込まれると、2種類の行動に出る事が多々あります。それが “Fight or Flight” (闘争か逃走か)です。

この反応を例えると、不安感と戦おうとする場合、ネガティブな感情を否定し、無理に不安を落ち着けようとする事となります。不安感は自然と湧き上がってくるもののため、押し付けようと試みても多くの場合、消えて無くなることはありません。

逃走の場合、不安や緊張からは目を逸らし、何か簡単に気を紛らわすものに依存しがちになります。

この反応はアルコールやデジタル機器などへの依存を導きます。

対してACTの場合は、違ったメンタルコントロールのアプローチを取ります。ネガティブな感情を否定も避けもせず、その感情を認識し、あるがままに受け入れる事によって有効的な行動へと繋げる事を可能にします。

メンタルと正面から対峙したり逃げたりすることを止め、メンタルの動向に左右されることなく、柔軟に対応していく感覚で「心理的柔軟性」を養います。

ACTの科学的な調査

ACTは科学的な研究がここ10年で数多く行われており、スペイン・アルメニア大学が発表したレビュー論文では、ACTを取り入れ、心理的柔軟性を手に入れると、不安障害や鬱病などのメンタル面での問題改善へ一定の効果が確認されています。

他にもアスリートにとって大切な心拍数の回復が、ACTを取り入れた人とそうでない人を比べると、リカバリー能力に有意な差が見られていることも論文の中では示唆されています。ACTを取り入れる事によってメンタル面のみではなく、身体的なメリットも享受出来る可能性もあるようです。


加えて、近年の脳科学研究では依存症改善のためにACTを取り入れた被験者は、脳の活性化パターンの変化が見られることも報告されています。これは、先に述べた「闘争か逃走か」のような感情的な反応が減り、脳の活性部位が変化したことによって依存症が緩和され、心理的柔軟性が強化されている事から説明が出来ます。

以上のようにACTは、アスリートに多くのポジティブな変化を与えてくれるようです。アクセプタンスが出来るようになると、以前までのメンタル的な闘争・逃走反応が次第に薄れていき、新たに柔軟なメンタルを手に入れる可能性があります。

ACTの基本的な6つのコアプロセス

ACTには6つのコアプロセスが存在しており、以下に解説を交えてひとつずつ紹介していきます。

「今、この瞬間」との接触

ACTでは、変えられない過去や約束されていない未来よりもマインドフルネスをベースとした「今、この瞬間」との接触を大切にします。

文脈としての自己

文脈としての自己とは、思考や感情を観察する自己のことで、自分の心の中で起きている事への気付きを育みます。


脱フュージョン

不安に苛まれる時、私たちはネガティブなマインドとフュージョン(融合)してしまいます。そのため、「文脈としての自己」で思考や感情を認識をした後、マインドからの乖離(脱フュージョン)を行っていきます。

アクセプタンス

ネガティブ、ポジティブに関わらず、自分の中で起きる感情や思考をあるがままにアクセプトし(受け入れ)ます。

価値の明確化

「自分はどのような価値観で育ってきたか」「将来的にどのような価値観で生活したいか」など、自分の価値観を明確化していきます。

コミットした行為

価値の明確化によって得た、「自分の価値観に沿った行動」を増やしていくことによって、より良い未来へと繋げていきます。

上記の6つをコアプロセスとしてACTは、機能していきます。

ACTの全てを理解し行動に移していくには時間を要しますが、「今、この瞬間との接触」や「アクセプタンス」は、簡単に取り入れる事が可能です。

大事な試合前、不安や緊張などネガティブな感情に飲み込まれそうになった際には、過去や未来ではなく、現在起きていることに注意をコントロールし(今この瞬間との接触)、ネガティブな感情を認識し(文脈としての自己)、否定せず、ただ受け入れる(アクセプタンス)ことによってメンタルを安定させることが可能になります。是非参考にしてみてください。

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。

大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。