「演技派なジャニーズは?」と聞かれると、二宮和也の名前が頭に浮かぶ。クリント・イーストウッド監督作『硫黄島からの手紙』(2006)で、ジャニーズ初のハリウッドデビューを果たした二宮は、その後も数々の話題作に出演。

2015年公開の映画『母と暮せば』では、第39回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞に輝いた。そして、現在放送中のドラマ『マイファミリー』(TBS系/毎週日曜21時)では、娘を誘拐された父親という難役に挑戦。彼の才能に、ふたたび注目が集まっている。そこで本稿では、俳優・二宮和也の活躍を改めて振り返りつつ、その魅力を深掘りしていきたい。

【写真】娘が見つかった後、さらなる困難が!? 『マイファミリー』第4話

“実は”の部分を表現するのがうまい

 二宮の演技は、いつも自然体だ。あまりにもナチュラルにセリフを吐くため、演じているというよりも、役が憑依(ひょうい)していると言った方がしっくりくる。『山田太郎ものがたり』(TBS系)のように、キラキラとしたキャラクター(実は貧乏という裏の顔があるのだが)を演じている時も、あくまで自然体。「こんな人、絶対にいないわ」と思わせない絶妙なさじ加減が、すごい。

 また、『流星の絆』(TBS系)や『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系)など、普通に生きているように見えるけれど、実は心の内に葛藤を抱えている人物の、“実は”の部分を表現するのも、二宮の得意分野である。ひょうひょうとしているように見せるのがうまいからこそ、感情を爆発させた時の衝撃を倍にして与えることができるのだ。

 『流星の絆』を見たことがある人ならば、最終回の屋上のシーンは忘れることができないだろう。
筆者は今でも、あのシーンを鮮明に思い出せる。人生を諦めていた有明功一が、感情を爆発させながら、父と母を殺害した犯人に銃口を向ける場面。復讐心と良心が入り混じる心の葛藤が、切に伝わってくる演技だった。二宮は、記憶に残る芝居をする俳優である。

 そんな彼が、4月期放送の日曜劇場『マイファミリー』で、娘を誘拐される父親役に挑んでいる。本作は、タイトルのとおり“家族”をテーマにした物語だ。

 前述の『流星の絆』や『フリーター、家を買う。』など、二宮は“家族”に振り回される役柄を演じることが多い。思えば、映画単独初主演作『青の炎』(2003)も、家族に暴力を振るう養父を殺害するために、完全犯罪を策略を巡らす役どころだった。家族という切っても切れない関係を扱った作品だと、二宮の繊細な表情がより一層映える。

 なかでも、うつ病の母親の面倒をみる息子を演じた『フリーター、家を買う。』で、「もし、母ちゃんが死んだら、俺はホッとすると思う」とつぶやいたシーンは今でも印象に残っている。
死んでほしいなんて思ってはいない。けれど、家族に振り回される日々に心底疲れてしまった。そんな葛藤が伝わってくる演技に、思わず心を奪われた。

『マイファミリー』で感じた“二宮和也のすごみ”

 そこから12年が経ち、『マイファミリー』では“父親”という立場から、家族のために奔走している。初回放送日には、“ニノの演技”というワードが、ツイッターのトレンドに上がった。そのなかには、「あまりにもすごすぎて、鳥肌が立った」「演技に引き込まれる」など、いくつもの称賛の声が。筆者も、彼の演技に胸を打たれた一人である。

 ドラマ序盤、二宮が演じる鳴沢温人は、妻の未知留(多部未華子)に比べると平然としているように見えた。娘が誘拐されたにもかかわらず、なぜ落ち着いていられるのだろう。もしかして…? と、彼に疑惑の目を向けてしまった瞬間も、正直ある。

 しかし、娘の誘拐事件を公表した時の手の震えで、温人が抱えていた葛藤を知ることになる。彼は、力強い父親であろうとして、一生懸命に平然を装おうとしていたのだ。
涙が溜まっているのに、絶対にこぼれ落とさなかったのも、きっとそんな思いがあったから。役柄の心の内を丁寧にすくい取る繊細さに気付いた時、俳優・二宮和也のすごみを改めて実感した。

 『マイファミリー』は、第3話にして娘の誘拐事件が完結。このまま普通の生活に戻っていくのかと思いきや、新たにとんでもない困難が襲いかかってくるようだ。物語の謎とともに、二宮の鬼気迫る演技にも注目していきたい。(文:菜本かな)

 日曜劇場『マイファミリー』は、TBS系にて毎週日曜21時放送。

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